ファッション業界は過剰生産による環境汚染の問題に直面している業界の代表株である。しかし、若い世代のファッションデザイナーによる古布や在庫品を再利用したスタイルは、ゴミを意味するトラッシュとファッションを掛け合わせた造語“トラッション”として今、注目を集めている。フランスでは2017年にLVMHプライズでグランプリを受賞したマリーン・セルが新世代のリーダー的存在として知られているが、最近注目を集めているのが18年にアプリ「Adapta」を立ち上げたヴィルジニー・デュカティヨンだ。彼女は衣料品の原料の再利用をテーマに掲げ、10年間、ラグジュアリーブランドの工房で革製品の製造に携わった経験をもとに、倉庫に保管されたまま手つかずの皮革原料を「Adapta」を通じてクリエイターに安価で提供するサービスを行っていて、19年のパリ・ウールマーク・プライズを勝ち取った。
彼女と経緯は異なるが、ニューヨークに拠点を置くエミリー・ボーディも同じく時代を牽引するトラッション・デザイナーの1人である。ジョージア州アトランタで育った彼女は、母親の影響で幼い頃からアンティークに慣れ親しんできた。身に着ける衣類やおもちゃは、中古のテーブルクロスやアンティークマーケットで購入した織物から手作りしたものであり、彼女のお気に入りの遊びは裁縫だったという。スイスに留学した後ニューヨークに移り、パーソンズ美術大学でメンズウェア・デザインと哲学の学士号を取得し、16年に「ボーディ」を立ち上げた。翌年にはメンズウェアの女性デザイナーとして初めてニューヨーク・ファッション・ウィークに参加し、19年にはアメリカファッション協議会(CFDA)によるCFDAアワードのエマージング・デザイナー賞を受賞した。アンティークの織物を使い、ニューヨークとインドのニューデリーの職人によって手作りされるウェアは、彼女の個人的な物語や歴史の研究を通じて、過去に取り残された感情を表現している。織物だけでなく、羊毛のぬいぐるみをスリッパに加工したり、古い牛乳瓶のキャップをデザインに取り入れたりするなど、彼女らしい活き活きとした息吹きをもたらしている。
今年1月、パリ・メンズ・ファッション・ウィークで2020-21年秋冬コレクションを発表した彼女へのインタビューで「古布に命を与えて新しい物を手作りすること、それが普通だと思っていた」と口にしていたのが印象的だ。昨今ではアップサイクルやサステナブルという言葉が、ブランドのマーケティング手法として一人歩きすることが増えているものの、彼女の場合は生活の一部として習慣化されていることで、アップサイクルへの取り組みに対して極めて純粋な想いが強い。そのため、彼女が環境汚染や廃棄物問題について語ることは少ない。古布を使ったものづくりが特別なことではないという考え方は、結果的に廃棄物を最小限に抑えた環境づくりに結びついている。
©zero waste daniel
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“廃棄物ゼロダニエル”の全貌
エミリーと同様にアメリカ人デザイナーのダニエル・シルバーステインは、ファッション業界における生地の大量廃棄処分の問題改善に積極的に取り組んでいる。「ヴィクトリアズ・シークレット」のニットウェアデザイナーとしてファッション業界の仲間入りを果たしたものの、生産過程で廃棄される生地の膨大な量に愕然としたという。ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「生地の47%だけが使用され、残り53%は廃棄されることを知った」と語っている。ニューヨーク市で企業から不要となった服と生地を回収してリサイクル、アップサイクルできるものに仕分けする企業「ファブスクラップ」によると、ニューヨーク市民が廃棄する服とテキスタイルは年間20万t、全米では年間1265万tに及ぶ。企業による廃棄総量は一般消費者による総量の約40倍で、その85%は再利用されず、ゴミとして処理されている。ダニエルは、ファッション業界に身を置くことで廃棄処分の問題に加担していると感じてすぐに同社を退き、16年に“ZERO WASTE DANIEL(廃棄物ゼロ ダニエル)”を始動。「ファブスクラップ」の創始者に繊維廃棄物を回収できる場所を教えてもらい、大型トラックでサンセット・パークにある陸軍ターミナル施設で処理されている大量のゴミの中から、荷台いっぱいの廃棄布を回収した。その繊維廃棄物から制作したTシャツやセーターなどの日常着は、オンラインのプラットフォームを通じて口コミで評判が広がり、気候博物館やエース・ホテルで作品の展示・販売の機会を得た。アメリカのリアリティショーに出演したことも、知名度を上げたのと同時に、生地の大量廃棄への問題意識を高めるきっかけとなった。
彼らのような20代後半~30代の若手デザイナーが先頭に立ち、廃棄物問題や環境汚染の問題に積極的に取り組む動きが加速しそうだ。フランスでは、環境配慮を装い欺瞞的な環境訴求を行う、グリーンウォッシング企業の問題が議題に上がる機会も増えている。消費者には、企業の言葉やイメージを鵜呑みにするのではなく、専門的な知識を深めることで、大量消費社会の中で正しい選択をしていくことが求められている。