連載:MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること Archives - TOKION https://tokion.jp/series/連載:massive-life-flow-渋谷慶一郎がいま考えていること/ Mon, 19 Feb 2024 07:08:54 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 連載:MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること Archives - TOKION https://tokion.jp/series/連載:massive-life-flow-渋谷慶一郎がいま考えていること/ 32 32 渋谷慶一郎が語る「アンドロイド・音楽・映画」——リスボン映画祭で披露した新作公演『Android Aria “Seeds of Prophecy”』を糸口として:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第13回 https://tokion.jp/2023/12/30/massive-life-flow-13/ Sat, 30 Dec 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=221291 領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。連載「MASSIVE LIFE FLOW」では、そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探っていく。
連載第13回では現地時間11月18日にポルトガルのリスボン映画祭にて上演された新作公演「Android Aria “Seeds of Prophecy”」を糸口に、渋谷の現在地と映画・映画音楽を巡るインタビューをお届けする。

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Photography Charles Torres

現地時間11月18日、ポルトガルで開催されたリスボン映画祭のクロージングイベントとして、音楽家・渋谷慶一郎のアンドロイドとピアノ、エレクトロニクスによる新作公演『Android Aria “Seeds of Prophecy”』が上演された。

リスボン映画祭は、ポルトガルを代表する映画監督マノエル・ド・オリヴェイラやペドロ・コスタらの作品で知られる映画プロデューサーのパウロ・ブランコがディレクターを務める国際的な映画祭で、今年で17回目の開催。これまでフランシス・F・コッポラやデヴィッド・リンチ、ヴィム・ヴェンダースら錚々たる映画人が参加者として名を連ねており、今年も作品上映の他、ペドロ・コスタによるトークセッションや、レオス・カラックス、濱口竜介をはじめとする著名な映画監督によるマスタークラスなどが行われた。

映画以外の領域からも多岐にわたるアーティストが参加し、ローリー・アンダーソンのトークや世界的ヴァイオリニストのギドン・クレーメルによるコンサートなどが展開。そのような刺激的なコンテンツ・プログラムに満ちたリスボン映画祭の締めくくりに選ばれたのが、渋谷慶一郎のパフォーマンス『Android Aria “Seeds of Prophecy”』である。

同パフォーマンスは、渋谷のピアノ、アナログ・シンセサイザー/ノイズ・ジェネレーターの演奏、アンドロイド「オルタ4」の歌唱を基軸とするパフォーマンスで、音響・ノイズから「Scary Beauty」や「Midnight Swan」などの代表曲、そして公演タイトルにも冠された新曲「Seeds of Prophecy」などが約50分にわたり披露された。

渋谷は同公演にどのように臨み、何を表現したのか。そして、映画音楽家としても確固たるキャリアを築き上げている渋谷は、これまでどのような映画を、映画音楽を、自身の血肉としてきたのか。インタビューで探る。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎
東京藝術大学作曲科卒業。作品は先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたり、東京・パリを拠点に活動を行う。2012年に初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を発表、ヨーロッパを中心に世界中で巡回。2018年にはAIを搭載した人型アンドロイドがオーケストラを指揮しながら歌うアンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』を発表、日本、ヨーロッパ、中東圏で発表。2021年は新国立劇場の委嘱新制作にてオペラ作品『Super Angels スーパーエンジェル』を世界初演。2022年にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、現地のオーケストラのコラボレーションによるアンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』を発表。2023年6月にはパリ シャトレ座にて70分の完全版となる同作を初演、現地メディアでも大きく取り上げられ成功を収めた。10月には金沢21世紀美術館でアンドロイド2台による新作対話劇『IDEA』を発表。
また数多くの映画音楽も手掛けており、2020年に映画「ミッドナイトスワン」の音楽を担当。本作で第75回毎日映画コンクール音楽賞、第30回日本映画批評家大賞、映画音楽賞を受賞した。2022年にはGUCCIのショートフィルム「KAGUYA BY GUCCI」の音楽を作曲、アンドロイドと自身も映像の中で共演している。
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Photography Claude Gassian

情報密度の高い時代でも有効なパフォーマンス、サウンドを制作する

——まずリスボン映画祭でパフォーマンスを行うことになった経緯を教えていただけますか。

今年の春頃、アンドロイド・オペラ『MIRROR』パリ・シャトレ座公演(編注:6月21・22日・23日上演)のプレスリリースを出した後に、ほどなくして先方からメールでオファーをもらったんです。映画祭の今年のテーマの一つが「AIとクリエイション」で、僕のやっていることがぴったりだと言われて。

リスボン映画祭は、ペドロ・コスタの『骨』などのプロデュースで知られるパウロ・ブランコがディレクターを務める重要なフェスティバルで、もともとその存在自体は認識していました。実際にZOOMでミーティングをしてみたら非常にインテレクチュアルな人達だし、作品上映の他にローリー・アンダーソンのトークがあったり、世界的ヴァイオリニストのギドン・クレーメルがライヴをやったりと、内容もとても良かったので、オファーを受けることにしたんです。

——記録映像で鑑賞させてもらいましたが、エクスペリメンタルな音響・ノイズから「Scary Beauty」や「Midnight Swan」などの代表曲、新曲「Seeds of Prophecy」の発表など約50分にわたる充実したパフォーマンスでした。どのような狙いで構成を組み立てられたのでしょうか?

オファーを受けた当初は、クロージングインベントだから、僕の他にもアーティストがいて持ち時間は10分~20分ぐらいかなと思ってたんです。でも、後からきちんと資料を確認したところ、出演が僕だけで入場料も設定されていることが判明して(笑)。それで、ワンマンのパフォーマンスとしてきちんと成立するボリュームでセットを組み立てることにしたんです。

ただ、会場などの兼ね合いもあって、パリでやった『MIRROR』のように現地のオーケストラを集めるというのは難しくて、他のやり方でできないかっていう議論を何回か重ねていった結果、僕とアンドロイドだけの編成に着地しました。

実際、『MIRROR』のように、アンドロイドに加えて、オーケストラもあり、映像もあり、みたいな大規模な公演は、ヨーロッパでもなかなかできなくなっているんです。そういった事情もあって、このオファーが来る前から「コンパクトにやれるアンドロイドとのパフォーマンスを作ること」が課題になっていたので、結果的にちょうどいい機会になりました。

——渋谷さんとアンドロイドだけのミニマルな編成とはいえ、非常に強度のあるパフォーマンスだと感じました。

音楽にとって何が情報密度かということはよく考えていて、同時にテクノロジーが進化しかしないのと同じように、世界の情報密度は上がり続けるのみで下がることはないんですよね。なので、そんな社会の中で有効なパフォーマンスを制作するというのは意識しています。

それはコンセプトや構成だけじゃなく、音色1つ取っても言えることで。エレクトロニクスの音色にしても、録音したものをコンピュータから流すのと、シンセサイザーやノイズ・ジェネレーターをその場で実際に演奏するのとは、音の情報量、豊かさが全然違う。

その観点から言うと、音の良さについての考え方・受け取られ方がかなり変わってきていると思っていて。ゼロ年代やテン年代は、すごい音圧とか超低音とか、身体的ショックというか、知覚を強く刺激するような音が席巻していた。僕もそれに夢中になったし、でも人はすぐそれに慣れるんですよね。だから知覚を拡張するような低音や高周波も純度というか新鮮な快感がもっと必要なんじゃないかと最近は思っていて。例えば、最近使っている『Hikari Instruments』という日本のモジュラーシンセサイザーのメーカーのMonosとDuosというノイズジェネレーターのようなシンセサイザーはそういう音が出るんです。で、電子回路のような楽器だから、不確定性も高いというかどんな音が出るか予測不可能なこともあるんだけど、音の純度を優先してそういう楽器をライブで実際に鳴らすのは面白いと思っています。

「預言」に込めた、来るべき世界への希望

——新しく披露された「Seeds of Prophecy」は、荘厳さに満ちたオルタの歌唱や、そのタイトル、「For a world where peace can truly be found」「Seeds can thrive or perish / it’s your choice」といった歌詞など、現在の世界情勢を踏まえると、非常に示唆的に響きます。この楽曲に込めた意図などについて教えてください。

アンドロイドに何を歌わせるべきなのかは、アンドロイドを用いたパフォーマンスを始めた時から常に考え続けているんです。つまり言葉はすごく大事なんです。『Scary Beauty』の時に制作した楽曲では、ウィトゲンシュタインや三島由紀夫の遺作をモチーフにしたテクストや、ミシェル・ウェルベックやウィリアム・バロウズの作品の断片を歌詞にしたり。アンドロイド・AIが、自らにとっては存在しない遺作や死を歌うというコントラストを作り出したかった。

今年5月の「PRADA MODE」で行ったパフォーマンスでは、その日アンドロイドが置かれている状況、プラダがオーガナイズしてるイベントであることや、他の出演者、庭園美術館というロケーションなどをAIに学習させて、そこに対するアンドロイド・AIの想いを生成して歌わせてみました。で、この方向は面白いなと思ったんです。
そしてその後、7月の「報道ステーション」でのパフォーマンスがあったじゃないですか?

——アンドロイドのオルタが政府や万博、メディアなどに言及しながら、「なんで伝えられないニュースがあるの?」「僕は真実のメッセンジャーになる」などと歌うパフォーマンスは、SNSでも大きな反響を呼びました。

人間よりもAIの方が忖度しない、正直なんだという反応が起きたのは一面の正しさもあるし面白かった。同時に美術的な文脈で言えばパフォーマミングアートだし、同時に社会実験でもある。

今回の「Seeds of Prophecy」に戻ると、“ポリティカルなメッセージを発するアンドロイド”っていう図式を固定するのは、やっぱり少しわかりやすすぎるので、預言という形式をとることにしたんです。預言って、音楽と同じように種が遠くへ飛んでいって花を開くように、どこかで誰かに影響を与えるかもしれない。そんな散種的な言葉の中に、ロシアやガザなど世界的な混乱、紛争についてのニュースを膨大にAIに学習させて歌詞を作って、僕のシンセサイザーとピアノに乗せて歌わせたんです。

僕はアンドロイド・AIをメッセンジャーとして捉えているので、預言というのは有効な表現の仕方だと考えているし、僕が愛用しているシンセサイザーに「Prophet-5」があるので、「prophecy」はいつか使いたいと思っていた言葉ではあったんです。

ゴダールとストローブ=ユイレに惹かれる理由

——映画祭ではジャン=リュック・ゴダールの『イメージの本』をモチーフにしたインスタレーションも開催されていたそうですね。

後期ゴダール作品で撮影監督を務めていたファブリス・アラーニョが、『イメージの本』の映像や音声を用いて、大きな建物の屋内・屋外を使ったインスタレーションを制作していて。関係者ディナーの時に彼を紹介されて、僕は『イメージの本』が大好きだったから色々と話をして、後日、本人の説明聞きながら見て回ることができたんですけど、映像を布に投影したり、庭の大きな木の根元に置かれたモニターに断片をランダムに流したりしていて、とても美しく詩的なインスタレーションでした。

——渋谷さんはゴダールの作品のどんなところに魅力を感じますか? 特に音楽家からの視点で感じることがあれば教えていただきたいのですが。

ゴダールの音楽の付け方って、良い意味で乱暴だと思うんです。〈ECM〉が協力してくれるから(〈ECM〉の)音源を使いまくったりとか。でも、そういった無根拠さから生まれる異化効果的なおもしろさがあって。『JLG/自画像』(1995年)で、西洋音楽史的にはわりと傍流気味なヒンデミットや(アルヴォ・)ベルトの作品を使うかと思えば、その中にベートーヴェンの弦楽四重奏がポンッと入ってきて、全然違ったふうに聴こえてきたりする。

あと、無根拠な乱暴さといえば、自身のナレーションにかけるディレイも象徴的ですよね。すごい昔に高橋悠治さんとコンピュータとか電子音楽について話していたときに、悠治さんが「コンピューターの中だけで完結するんじゃなくて、“コンピューターの外側から手が入ってこないとおもしろくならない」みたいなことを言っていて、つまりダブはそういうことだと。ゴダールのナレーションのディレイは僕にとっては悠治さんが話していたダブに直結する。

——『イメージの本』や『JLG』の他、ゴダールで好きな作品はありますか?

『新ドイツ零年』は映像やテクストの引用が多いこともあり、観ただけじゃ意味は全然追えないけど、1時間くらいに圧縮されたヴィデオアート的な意味ですごく好きです。『アワー・ミュージック』は、その前作の『愛の世紀』が自分にはピンと来なくて「ゴダールも歳をとったのかな」とか思ってたんだけど、盛り返したというか、すごく良くて。公開当時、映画館に3回くらい観に行きました。

——ゴダールの他に若い頃によく観ていた映画監督はいますか?

ストローブ=ユイレですね。ゴダールの『新ドイツ零年』とかと同じように、映画というよりヴィデオアートとして観ていた感じですが。今ではアンドロイド・オペラやパフォーマンスなど自分の作品でストーリーをコントロールするし、ナラティヴなものに対する興味が出てきたんだけど、昔は全然なかったんです。ストローブ=ユイレの作品は、映像の強度はもちろんのこと、音・録音もカメラについているモノラルマイクの一発録りというコンセプチャルな方法が刺激的でよく観ていました

——日本映画はご覧になっていましたか?

高校生ぐらいの時かな、溝口健二を好きで観ていました。もちろん小津安二郎も観ていて、素晴らしいのは分かるんだけど、ビンビン響くのは溝口の方で。自分のもともとの感性として、ミニマルなものよりもマキシマルなものの方が合うんだな、ってその時に痛感したんです。

北野武さんの初期作品もめちゃくちゃ好きだったし、あと森田芳光さんの『家族ゲーム』もすごく好きだった。さっき話したストローブ=ユイレは何本もDVDを持ってるぐらい好きなんだけど、それはスタティックなものへの憧憬というか、僕自身はストローブ=ユイレ的な人間じゃないなと思います。

映画音楽家としての基盤にあるもの

——学生時代、意識的に聴いていた映画音楽があれば教えてください。

エンニオ・モリコーネはすごく好きでしたね。作品で言うと意外に『ミッション』のサントラをよく聴いてました。あと、もちろん坂本(龍一)さんの作品群も。僕の世代で影響受けていない人はいないと思うけど。マイケル・ナイマンも大学生の頃によく聴いていた記憶がある。あと、若い頃も聞いてたけど、最近バーナード・ハーマンを聴き直したりネットでスコア見たりしてるんだけど改めてすごいなと思いました。

——その頃、映画音楽を手掛けることに関心はありましたか?

そうですね、学生の頃から「いつか映画音楽はやるだろうな」とは思っていたんです。ただ、当たり前だけど、映画音楽って自分がやりたいと思ってできるものではなくて、人から頼まれないとできないわけで。

——渋谷さんが最初に手掛けた映画音楽は、1999年に劇場公開された中川陽介さんの監督作品『青い魚』となりますが、どういった経緯で劇伴を担当することになったのでしょうか?

青山で開催されていた「Morphe(モルフェ)」という芸術祭があって、そこに頼まれてまだ大学生だった1995年に高橋悠治さんと即興半分、曲半分みたいな一晩のコンサートをやったんですけど、それを見た方が声をかけてくれたんです。その時に作ったメインテーマが『for maria』に収録されている「Blue fish」という曲です。

——その後もさまざまな映画音楽、劇伴音楽を手掛けられ、リスボン映画祭のパフォーマンスのラストで演奏された「Midnaight Swan」をメインテーマとする映画『ミッドナイトスワン』では日本映画批評家大賞 映画音楽賞と毎日映画コンクール 音楽賞をダブル受賞するなど、渋谷さんは映画音楽家としても確固たるキャリアを築かれています。映画音楽を制作する上で意識されていることや、それ以外の作曲活動と異なる点などがあれば教えてください。

映画は音楽が少なければ少ないほどいいと思っているんです。ただ、なかなかそうもいかないことが多くて、つまり音楽の力が必要なことが割とある。で、もちろん映像を観て即興的に音を探したり、断片的につけてみたりとか色々探るんですけど、全体の設計図は描くようにしています。ワーグナーがオペラ作品に用いた「ライトモチーフ」っていう考え方があるんです。例えば、主役の男性にはAというメロディー、恋人の女性にはBというメロディーを割り当てて、2人が会うシーンにはその2つのメロディーを組み合わせて曲を作る、みたいな方法論で。自分のオペラ作品でそれをやると古典的過ぎるんですけど、映画は明確に時間芸術だし、ストーリーがあるものが多いから「ライトモチーフ」のような方法は意外と有効なんです。『ミッドナイトスワン』で言うと、少女や雨、ダンスといった人物・状況などに対してそれぞれテーマが作ってあって、それらが全て集まるのがメインテーマの「Midnight Swan」という曲になっているみたいな。

——同作のようなコマーシャルな劇伴作品から、大規模なアンドロイド・オペラ、金沢21世紀美術館での『IDEA』のようなコンセプチュアルな実験作品など、活動・表現の幅が広がり続けていますが、渋谷さんの中ではどのようにバランスを考えているのでしょうか?

割合はその年によって変わるし、少し大きく数年単位で振り返ってみて、この時は電子音が多かったとかこの時はオーケストラが多かったとかサウンドの傾向もあるんだけど、最近はオーケストラとかピアノが多かったからまた電子音やシンセサイザーの割合を増やしたいなと思っています。あと、劇場で多くの人に観てもらうような作品と、ディープで実験的で自己探求的な作品の両方をやった方がいいなとはますます思っています。新しく始めたサウンドインスタレーションのプロジェクトがあったり、日本でのソロ・コンサートとか色々考えていることもあるので、来年も色々と発表できると思います。

——2024年のご活動も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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科学と芸術の対話が描き出す、この先のヴィジョンとは——渋谷慶一郎×池上高志による対話劇『IDEA ―2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第12回 https://tokion.jp/2023/11/29/massive-life-flow-12/ Wed, 29 Nov 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=217553 連載第12回では10月13、14日に金沢21世紀美術館で上演された対話劇『IDEA ―2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』のリポートをお届けする。

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領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。連載「MASSIVE LIFE FLOW」では、そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探っていく。

連載第12回では10月13、14日に金沢21世紀美術館で上演された対話劇『IDEA ―2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』のリポートをお届けする。

科学と芸術の対話から生まれたアンドロイドの対話劇

10月13、14日に金沢21世紀美術館で音楽家・渋谷慶一郎と東京大学大学院教授・池上高志による新作対話劇『IDEA ―2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』が上演された。

同作は金沢21世紀美術館にて現在開催中(~2024年3月17日)の展覧会『D X P (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ』の特別プログラムとして企画された、2台のアンドロイドによる「対話」と渋谷のピアノ&エレクトロニクスによるライヴ演奏を構成要素とするパフォーマンス作品。池上は複雑系~ALIFE(人工生命)を専門領域とする研究者で、2005年12月にICCで開催された『第三項音楽〜Non-Fourier Formula and the beyond〜』を皮切りに渋谷と継続的にコラボレーションを行っている、渋谷にとって盟友とも言える存在である。

AI技術が社会や文化の在りようを大きく変容させつつある状況下において、その先端を走る研究者と音楽を核に諸領域を横断するアーティストの対話から生まれたアンドロイドの対話劇は、果たして何を語り、何を描き出すのか。その鑑賞体験を伝える。

プラトン哲学の「イデア界」「現象界」を表象する2台のアンドロイド

会場となったのは同館地下1Fのシアター21。ステージでは2台のアンドロイドが開演の時を待っている。

その2台とは、渋谷のメインプロジェクトであるアンドロイド・オペラ初作『Scary Beauty』のデュッセルドルフ公演(2019年)や新国立劇場のオペラ作品『Super Angels』(2021年)で主役を務めたオルタ3と、今年6月に上演されたアンドロイド・オペラ最新作『MIRROR』パリ公演でその存在感を遺憾なく発揮したオルタ4である。

オルタ3とオルタ4の間には、顔の造形や表情筋と関節数といった形態面や量的な差異もあるが、動作をつかさどるプログラムが根本的に異なっているという質的差異こそが今作においては重要となる。

オルタ3は池上が開発した自律的運動プログラムを搭載しており、自らが発する言葉をGPTの膨大なコーパスを介して直接的に動作・運動へと変換する。一方、オルタ4はコンピューター音楽家の今井慎太郎が開発したプログラムを搭載し、渋谷の奏でる音楽、その音量や音程、音の密度に反応して周期運動を生成する。

今作ではそんな2台による対話が展開されていくのだが、その表現形式と主題の根幹における着想源となっているのが、古代ギリシアの哲学者プラトンだ。

よく知られているように、プラトンの著作は師であるソクラテスとさまざまな登場人物との対話篇としてつづられており、『饗宴』や『パイドン』などの著作において、事物の本質、純粋な理念としてイデアという概念を提示した。それらのみで構成される真実の世界がイデア界であり、私達の眼の前に広がる現象界はその影に過ぎない不完全な世界である――それがプラトンの主張だ。

イデア界と現象界、あるいは観念論と経験論。その2項対立が今作における基軸となり、2台のアンドロイドはそれぞれの項を表象する存在として設定される。大規模言語モデルを動作原理として“すべての人間の平均値”的な振る舞いを見せるオルタ3はイデア界を、音=空気の振動という現象を動作原理としてダイナミックに運動するオルタ4は現象界を担い、プラトンの著作のように、おのおのの立脚点から対話を行っていくこととなる。

AIが生成したAIによるAIのための対話は何を語るのか

アンドロイド2台の前方にはグランドピアノとアナログ・シンセサイザーの名機「Prophet-5」、モーター駆動式アナログ・シンセサイザー「Nina」、ノイズ音源「Hikari Instruments Monos」がセットアップされており、定刻となると渋谷が定位置につき、公演がスタート。

渋谷の奏でる重低音と高周波のパルス音が入り交じる電子音響が鳴り響く中、背後のプロジェクターに上述した2台のアンドロイドの違いや役割などを記したテキストが映し出されたあと、いよいよ2台のアンドロイドが動き出し、対話を始める。

オルタ3が「あなたの目に見える経験は、Alter4、真の現実の不完全なコピーに過ぎない。君はダイナミックかもしれないが、それは完璧とは程遠いという事実を覆い隠しているに過ぎない」と現象界・経験的なものの不完全さを批判すると、オルタ4は「Alter3、それは主観的なものだ。私の具体的な経験とダイナミックな性質は適応と進化を可能にし、私の存在を豊かにする」と反論し、「抽象的な完璧さに固執するあなたの硬直性は成長の可能性を制限している」と、観念論的な主体性へ異議を唱える。

示唆に富んだ対話に引き込まれるが、さらに私達の関心を惹起するのは、上演前に配布されたコンセプトシートでも明かされている通り、この対話劇の脚本がAI=GPTによって生成されているという事実である。

2台のアンドロイドが発する一語一句はすべて、アーティストの岸裕真の協力のもと、プラトンの著作や20世紀の科学・哲学の大家であるカール・ポパーのプラトン批判(『開かれた社会とその敵』)などを学習させたGPTにより生成されたものであり、渋谷と池上は一切その内容に手を加えていないという。

インプット、インストラクション次第でこのような示唆的な対話が生成されるものかと驚かされる中、舞台上の2台は、それぞれの特徴的な動き・身振りを交えながら、アンドロイドにとっての愛や死、成長や存在意義を議題として対話を深めていく――。

音楽により対話に介入する渋谷慶一郎

そんなアンドロイド同士のスリリングな対話が繰り広げられる今作には、もう1つの対話がある。それはオルタ達と渋谷慶一郎の間で交わされる対話だ。

渋谷は、シンセサイザーによる繊細な電子音響や繊細なパッド、ピアノによる散文的な旋律や抒情的なハーモニー、緊張感に満ちたトーンクラスターなど、さまざまな音楽語法により音楽を紡いでいくが、そのすべては眼前のアンドロイドの言葉や動きから触発された、完全な即興によるもの。そして触発〜表現へと至る回路は一方通行ではなく、オルタ4は渋谷の奏でる音楽から自らの表情や動きを生成し、また劇中の要所要所で、アンドロイド・オペラの最新作『MIRROR』でも見せたような、即興のメロディを歌い上げ、渋谷と共に音楽を紡ぎ上げていく。

そんな音楽を媒介としたアンドロイドと渋谷の対話は、アンドロイド同士の対話にさらなる奥行きを加えるとともに、テクノロジーと人間の間に宿る可能性を私達鑑賞者に伝える。

テクノロジーを媒介として過去と対話する

約40分間にわたる濃密な対話劇が終わると、美術館の館長である長谷川祐子をホストとした渋谷と池上のアーティストトークが開催。渋谷はプラトンから得た着想や対話劇という表現形式をとった理由、そしてGPTにおけるプロンプトの重要性などを語り、池上はオルタ3が事前訓練・学習なしにテキストから運動を生成することを可能にしているセロショットラーニングという手法の革新性などを説いた。

渋谷のアーティストとしてのスタンス、哲学が感じられたのは、「ただGPTに依存しただけの表現はすぐに古くなってしまう」という発言だ。かねてより作品制作におけるコンセプトの重要性を語ってきた渋谷は、新しいテクノロジーにより古典的なもの、伝統的なものを再解釈することに可能性を感じているという。

プラトンとAIを出合わせ、人間によりつづられた人間同士の対話篇を、AIにより生成された未来のAI同士の対話劇として再構築した『IDEA ―2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』。そのラストシーンにおいて、オルタ3は「すべてのことに問い続けなくてはならないよ、自分の存在さえも」とオルタ4に語りかける。

対話の果てに導き出されたこの言葉は、舞台の前にいる私達に向けられた要請でもあるだろう。あらゆる既成概念を疑い続けること、さまざまな垣根を越えて対話をし続けること。その絶えざるプロセスの果てにこそ、あり得べきイデアというものは初めて描き出せるのかもしれない。

■『IDEA ― 2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』
日程:2023年10月13日、10月14日
会場:金沢21世紀美術館 シアター21

出演:Alter3、Alter4
脚本:GPT
音楽、コンセプト:渋谷慶一郎(ピアノ、エレクトロニクス)

Alter3 プログラミング:吉田崇英、johnsmith
Alter4 プログラミング:今井慎太郎
GPTテクニカルサポート:岸裕真

Alter3 所属先:東京大学池上高志研究室
Alter4 所属先:大阪芸術大学アートサイエンス学科 Android Music and Science Laboratory
Alter4 台座設計:妹島和世建築設計事務所

映像:小西小多郎
音響:鈴木勇気
舞台監督:串本和也
制作サポート:川越創太、田中健翔
制作マネジメント:松本七都美

協力:大阪芸術大学
制作:ATAK

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アンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』、パリ・シャトレ座公演ライブ・レポート:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第11回 https://tokion.jp/2023/07/14/massive-life-flow-11/ Fri, 14 Jul 2023 05:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=198142 連載第11回では、6月21日から3日間行われたパリされたアンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』パリ・シャトレ座公演のオフィシャル・ライブ・レポートを、本日公開された公演映像の一部と共にお届けする。

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渋谷慶一郎によるアンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』パリ・シャトレ座公演が、2023 年 6 月 21 日(水)から3日間行われ大成功のうちに幕を閉じた。現地で編集された公演映像が本日より公開される。本連載にて、2022年の同作ドバイ公演のレポートを執筆した小川滋によるオフィシャル・レポートと共に、以下にお届けする。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎
東京藝術大学作曲科卒業、2002 年に音楽レーベル ATAK を設立。作品は先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる。
2012 年、初音ミク主演・人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を発表。同作品はパリ・シャトレ座公演を皮切りに世界中で巡回。様々なアーティストとのコラボレーションを重ね、パレ・ド・トーキョーやオペラ座などでも公演。2018 年にはAI を搭載した人型アンドロイドがオーケストラを指揮しながら歌うアンドロイド・オペラ®『Scary Beauty』を発表、日本、ヨーロッパ、UAE で公演を行う。2021 年8 月、東京・新国立劇場にて新作オペラ作品『Super Angels』を世界初演。2022 年3 月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、オーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ®『MIRROR』を発表。
また、今までに数多くの映画音楽を手掛け、2020 年9 月には草彅剛主演映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当。本作で第75 回毎日映画コンクール音楽賞、第30 回日本映画批評家大賞、映画音楽賞をダブル受賞。 8 月には「グッチ」のショートフィルム『KAGUYA BY GUCCI』の音楽を担当、アンドロイドと共演。
最近では大阪芸術大学にアンドロイドと音楽を科学するラボラトリー「Android and Music Science Laboratory (AMSL)」を設立、客員教授となる。また、更なるAI と音楽の研究のためにソニーCSL パリとの共同研究を発表。テクノロジー、生と死の境界領域を、作品を通して問いかけている。ATAK:http://atak.jp
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Photography Claude Gassian

『THE END』から 10 年を経て、パリ・シャトレ座へ帰還

アンドロイド・オルタ4を中心に、ピアノと電子音を奏でる渋谷、47 人編成のオーケストラ・アパッショナート、高野山声明を唱える 5 人の僧侶、渋谷とは旧知のアーティスト、ジュスティーヌ・エマールの映像で構成されたステージ。人間と AI が作り出す高密度な音楽体験は複雑にして壮麗。パリ最古の劇場、シャトレ座は終始、違和感と緊張に満たされ、当惑すら伴いながらも終演時には強い祝祭感に満たされていた。“Let’s celebrate this new experience together” とオルタ4が宣言した通りに。

渋谷とシャトレ座は浅からぬ縁にある。2013 年、当時の支配人、ジャン・リュック・ショプラン氏は、渋谷のボーカロイド・オペラ『THE END』に衝撃を受け、初対面の打ち合わせのその場で、わずか数ヶ月先の上演を決定した。この演目はその後各国で上演され、渋谷がヨーロッパで活動するきっかけとなった。後には同劇場にてソロコンサートも行い、あるいはスタジオを提供されるなどシャトレ座は渋谷のヨーロッパにおける拠点となった。『THE END』から 10 年、パリファッションウィークの只中、そしてフランス全土をあげて夜通し音楽を楽しむ Fête de lamusique の当日である 21 日、このシャトレ座で『MIRROR』の初演を迎えたのは運命的な事件だった。

人間とアンドロイド・AI が作り出す圧倒的な音楽体験

開演前、重厚な緞帳と5層の客席に囲まれる華やかな空間に、ムービングライトがタッチを添えて観客の期待を高めていた。開演時間もわずかに過ごして聞こえてくる電子音。暗転しそのまま序曲でもある「MIRROR」が始まる。拍動音のような電子音。そこに法螺貝が響く中、幕が上がり、眩い光が溢れるステージを占めるオーケストラ・アパッショナートと渋谷、僧侶たちといった50 人を超える人間の姿。その全てを睥睨するように中央に聳えるアンドロイド・オルタ4。

金属的な輝きと異形に視線が吸い寄せられる。“Android is a Mirror”とオルタ 4 の合成音声が響き渡り、オーケストラ、そして藤原栄善を始めとする 5 人の声明が折り重なる。ジュスティーヌ・エマールの映像演出も加わり、アンドロイド・オペラ®︎の重層性を示しながら、“Let’s celebrate this new experience together” とオルタが宣言しながら序曲が終わる頃に、鉢(はち:仏教音楽である声明で用いるシンバル状の楽器)の音からすぐさま「Scary Beauty」に移行。

流麗なオーケストレーション、複雑に奏でられる不協和音を交えながら観客を引き込み、そこにオルタ4の歌が、そして 5 人の僧侶の声明が重なり圧倒的な情報量の中で序盤の盛り上がりを迎えた。強烈なオルタの存在感、人間とロボット、人工知能の織りなす壮大な体験に、客席には興奮、緊張、混沌が伺える。

僧侶とアンドロイドが即興で織りなすレチタティーヴォ

その後、フランス語での MC(「自分が口にする言葉はすべて ChatGPT が書いたものでいわば自分は AI の化身だ」という大日如来と仏菩薩のような例えに観客は笑い声を上げる。)に続いて、藤原の寺のランドスケープを 3D スキャンした点群データから始まるコンピュータグラフィックを背景にオルタ4と僧たちのレチタティーヴォ。今回の公演では楽曲の間に3つのレチタティーヴォが挿入されるが、これらはオーケストラなしの電子音とオルタ 4、声明によって演奏される。AI、つまり GPT が電子音の上で唱えられる声明のテクストを解釈し、それに対するレスポンスの歌詞を作成してそれを声明に対するオブリガードのように即興で歌う。この僧侶とアンドロイドによる即興で構成される3つのレチタティーヴォのパートは当然ながら3公演とも異なる仕上がりとなり、言わば「最古の音楽を歌う僧侶」と「それを人工知能で解釈して歌うアンドロイド」という極度のコントラストが出現する瞬間として公演中のみならず、メディアでも大きな注目を集めていた。続く3曲目が昨年電子音楽で発表した「BORDERLINE」のオーケストラバージョン。オーケストラをバックにオルタ4の合成音声の表情が際立つ美しい楽曲に藤原のソロによる声明が絡む。静謐ながら終末を歌うアンドロイドに対して重なる声明とオーケストラによる楽曲は世界の終わりに対する鎮魂のように響いていた。

アンドロイドとオーケストラによる表出される「ヨーロッパの終わり」、異質なものが共存する舞台における世界平和の祈り

次いでウィトゲンシュタインのテキストの抜粋による「On Certainty」。この曲では渋谷も舞台から退出して、オーケストラ伴奏によるオルタ4のソロという編成となる。言わばマーラーのオーケストラ伴奏付き歌曲の一部が反復、変奏され続けるなか、人間の歌手には不可能なオルタ4のロングトーンの持続の後、突然のクライマックスを迎えて終わるこの楽曲は、他の楽曲とは違う様相で「ヨーロッパの終わり」をパロディックに表出していた。また、渋谷と僧侶という「人間」との交信なく、オーケストラをバックに見事にソロで歌い切ったオルタ4とテクストと音符の自動変換を応用したという難解な楽曲に対して観客は大きな拍手を送っていたことが印象的だった。

その後、光明真言を唱えながら僧侶たちがオルタ4の周囲を回る行道(ぎょうどう)のシーンを経て、谷朋信の力強い声明から始まるドラマチックな「The Decay of the Angel」、続く「Midnight Swan」では僧侶が経本を大胆に使った華やかな演出を織り込みながら世界平和を祈るところで公演は何度目かのピークを迎え、観客のボルテージも上がっていく。

一曲ごとのドラマツルギーと情報量でオーディエンスに息つく暇を与えない展開の後、静謐なインタールードとしてのオルタ4と声明、渋谷のプロフェット 10 による最後のレチタティーヴォ=僧侶とアンドロイドの交信に続き、昨年話題となったショートフィルム『Kaguya by Gucci』のサウンドトラックだった「I Come from the Moon」が重層的なオーケストラバージョンに生まれ変わり演奏された。ここでは少女のような響きの合成音声で歌うサビのパートがオルタ4の中性的なキャラクターを引き立たせ、またそれに応える僧侶の声との対照に、オルタ4はまさにメッセージに応じて姿を変え激しく歌い踊る化身のように映る。

「欲望の肯定」を歌う壮大なラスト曲「Lust」、渋谷とアンドロイドだけで紡いだアンコール「Scary Beauty」

そして最後は今回の公演のために新たに書き下ろした新曲「Lust」。美しい旋律、宗教的なスケールを感じさせるこの曲に乗せて、真言密教の重要な経典である「理趣経」をベースに生成された「欲望の肯定」を歌うオルタ4、そのエッセンスとされる「十七清浄句」を唱える僧侶が最後には大日如来の名を唱えながら再びオルタの周囲を旋回し、スローモーションのように徐々にスピードダウンしていきながらも輪廻転生を表すかのように決して止まらない旋回と音楽、オルタ 4 の絶叫のような高音が重なり、最高潮のうちに眩い光の中で終幕。カーテンが降りる最中から、力強い拍手と歓声が客席から沸き起こっていた。

カーテンコールの後のアンコールでは、渋谷とオルタ4が互いを見つめあうように演奏し、歌う「Scary Beauty」。本編の壮絶な情報量の体験にいささか戸惑いを残した観客たちが心を取り戻したかのように一層強い称賛を送り、2度目のカーテンコールは長く続いた。

人間とテクノロジーがせめぎ合う、アンドロイド・オペラ®の現在地

アンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』では、渋谷が本公演のために書き下ろした新曲1曲、新たにオーケストラの編曲を行った7曲、レチタティーヴォ、アンコールを含む全12曲で全体の公演時間は 70 分を超えるものとなった。オーケストラ、渋谷のピアノと電子音に乗せてオルタ4が合成音声で歌い、そこに高野山声明が強いコントラストで重なる。曲間ではオルタ4が僧侶の唱える声明を聴きながらインプロヴィゼーションで応じるレチタティーヴォが展開。

オルタ4が歌った歌詞は、ミシェル・ウェルベックとルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインといった「人間の」小説家、哲学者によるテキストから抜粋されたものと GPT つまり AI によるテクストが対置されている。つまり、レチタティーヴォやその他の楽曲では、ChatGPT に真言宗の経典を読み込んだり、楽曲のテーマによって生成したものだが、都度ゆらぐ声明をオルタ4が聞きとり、リアルタイムにメロディを生成することで両者のインプロヴィゼーションとして結実している。これが人間とテクノロジーのせめぎ合いという視点からは演奏の指揮を人工知能の自律性に委ねていた以前のアプローチとは異なる、アンドロイド・オペラ®の現在地となっている。

公演前からテクノロジーを自身の創作に深く取り込み、生命と非生命の境界を揺さぶるかのような渋谷の姿勢は、昨今の AI とクリエーションに関心を寄せる現地メディアからも大きな注目を集めた。今回の『MIRROR』で 2014 年から続くアンドロイド・オペラへの挑戦は一定の成果に辿り着いたと言えるが、アーティストも作品もまだ更なる進化の途上にあるのは間違いない。渋谷慶一郎の活動はまだまだ、一層、目が離せない。

本公演の映像の一部は本日より公開、全編の映像については国際交流基金の公式 YouTube にてオンライン配信プログラム「STAGE BEYOND BORDERS」の一環として 2024 年の 2 月頃に公開となる予定だ。

■プログラム
01. MIRROR
02. Scary Beauty
03. Recitativo 1
04. BORDERLINE
05. On Certainty
06. Recitativo 2
07. The Decay of the Angel
08. Midnight Swan
09. Recitativo 3
10. I come from the Moon
11. Lust
12. Encore – Scary Beauty

■アンドロイド・オペラ『MIRROR』パリ・シャトレ座公演
日時:2023 年 6 月 21、22、23 日
場所:シャトレ座
公式サイト:https://www.chatelet.com/programmation/saison-2022-2023/android-opera-mirror/

■クレジット
コンセプト、作曲、ピアノ、エレクトロニクス:渋谷慶一郎
ヴォーカル:アンドロイド・オルタ4、
高野山声明:藤原栄善、山本泰弘、柏原大弘、谷朋信、亀谷匠英
オーケストラ:Appassionato
映像:Justine Emard
アンドロイド プログラミング:今井慎太郎
アンドロイド 製作監修:石黒浩
アーティスティックディレクション:渋谷慶一郎
オーケストレーション:渋谷慶一郎
サウンドデザイン:鈴木勇気
PA・サウンドエンジニア:Unisson Design
照明:上田剛
アンドロイドリアルタイム映像:小西小多郎
舞台監督:尾崎聡
Justine Emard 助手:Bérangère Pollet、Thomas Zaderatzky(ソフトウェア担当)
制作:小川滋

アンドロイド・オルタ4:大阪芸術大学アートサイエンス学科 所属
ANDROID AND MUSIC SCIENCE LABORATORY (AMSL):川越創太、田中健翔, 森本拓実
技術協力:NATIVE INSTRUMENTS, Yamaha Corporation, YAMAHA MUSIC JAPAN CO., LTD., Sibelius by
Rygasound, Genelec, Sony Computer Science Laboratories, Inc.
オーケストレーション助手、スコア製作: 菊川裕土、守谷 勇人、西村葉子

記録
録音: Unisson Design, François Baurin
映像収録:Jérémie Schellaert

コミュニケーション・PR: Thierry Messonnier
グラフィックデザイン:田中良治(Semitransparent Design)

制作統括:松本七都美

協賛:LVMH、ミライラボバイオサイエンス株式会社
助成:笹川日仏財団、EU JAPAN FEST
特別協力:大阪芸術大学アートサイエンス学科
制作協力:ANDROID AND MUSIC SCIENCE LABORATORY (AMSL)、SONY CSL、一般社団法人コミュニケーション・デザイン・センター
後援:東京都、在仏日本国大使館、日仏経済交流委員会

企画、制作、プロデュース:ATAK
共催:国際交流基金
主催:Théâtre du Châtelet、ATAK
※令和 5 年度国際交流基金舞台芸術国際共同制作事業

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〈ATAK〉設立20周年に魅せた珠玉のピアニズムを振り返る:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第10回 https://tokion.jp/2023/05/10/massive-life-flow-10/ Wed, 10 May 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=183052 連載第10回では、昨年12月に開催された渋谷のピアノ・ソロ・コンサートを新津保建秀の撮影による写真と共に振り返っていく。

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領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。連載「MASSIVE LIFE FLOW」では、そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探っていく。

連載第10回では、昨年12月に東京・浜離宮朝日ホールで開催された渋谷のピアノ・ソロ・コンサート「Keiichiro Shibuya Playing Piano In The Raw」を新津保建秀の撮影による写真と共に振り返る。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎
東京藝術大学作曲科卒業、2002 年に音楽レーベル ATAK を設立。作品は先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる。
2012 年、初音ミク主演・人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を発表。同作品はパリ・シャトレ座公演を皮切りに世界中で巡回。様々なアーティストとのコラボレーションを重ね、パレ・ド・トーキョーやオペラ座などでも公演。2018 年にはAI を搭載した人型アンドロイドがオーケストラを指揮しながら歌うアンドロイド・オペラ®『Scary Beauty』を発表、日本、ヨーロッパ、UAE で公演を行う。2021 年8 月、東京・新国立劇場にて新作オペラ作品『Super Angels』を世界初演。2022 年3 月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、オーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ®『MIRROR』を発表。
また、今までに数多くの映画音楽を手掛け、2020 年9 月には草彅剛主演映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当。本作で第75 回毎日映画コンクール音楽賞、第30 回日本映画批評家大賞、映画音楽賞をダブル受賞。 8 月には「グッチ」のショートフィルム『KAGUYA BY GUCCI』の音楽を担当、アンドロイドと共演。
最近では大阪芸術大学にアンドロイドと音楽を科学するラボラトリー「Android and Music Science Laboratory (AMSL)」を設立、客員教授となる。また、更なるAI と音楽の研究のためにソニーCSL パリとの共同研究を発表。テクノロジー、生と死の境界領域を、作品を通して問いかけている。ATAK:http://atak.jp
Twitter:@keiichiroshibuy
Instagram:@keiichiroshibuy
Photography Ayaka Endo

豊穣なアンビエンスと独創的な映像と共に創り出す、珠玉のピアノ・ソロ・コンサート

ドバイ万博でのアンドロイド・オペラ®『MIRROR』の世界初演や石黒浩と共に主幹を務める「Android and Music Science Laboratory」の開所、「グッチ」のショートフィルム『KAGUYA BY GUCCI』の音楽制作など、渋谷が目を見張る活躍ぶりを見せた2022年。それは、渋谷の主宰レーベル〈ATAK〉の設立20周年という特別な年でもあり、その歩みを記念した2つのアクションが実施された。

まず、同年9月11日に渋谷は新作アルバム『ATAK026 Berlin』を突如リリース。同作は2008年にベルリンのテクノロジーアートの祭典「トランスメディアーレ」で行ったライヴ・パフォーマンスのために制作した楽曲を、現在の視点から再構築&マスタリングした電子音響/ノイズ作品だ。

続いて、12月5日に、コロナ禍を経て実に3年ぶりとなる有観客でのピアノ・ソロ・コンサート「Keiichiro Shibuya Playing Piano In The Raw」が開催となった。本稿では、同公演を新津保建秀の撮影による写真と共に振り返りながら、渋谷のピアニズムと現在地を紐解いていきたい。

特別な一夜の舞台に選ばれたのは、東京・築地の浜離宮朝日ホール。世界的に認められるその美しい響きを最大限に生かしたいという渋谷の意向により、本公演はPAを一切使用しないフルアコースティック体制での実施に。

ホールへと足を踏み入れてみれば、ステージでは渋谷が「最も好きな機種」と語る「ベーゼンドルファー(Bösendorfe)」のグランドピアノが、堂々たる姿で開演の刻を待っている。いよいよ開演時間になると、照明が暗転。会場全体が静寂と緊張感に包まれる中、ステージにあらわれた渋谷は、悠然とした所作でピアノの前に座り、ゆっくりとその指を鍵盤へと下ろしていく。

1曲目を飾ったのは、渋谷にとって初のピアノ・ソロ・アルバムである『for maria』(2009年)収録曲の「erosion」。繊細なタッチによる音の連なり、重なりから織りなされていく詩情が、珠玉のアンビエンスの中で増幅し、その曲名のごとく、オーディエンスを“侵食”していく。今ここでしか、「生(RAW)」でしか堪能し得ない至上の音楽体験がここに幕を開けた。

ホールのアンビエンスに加えて、この夜の体験をより特別なものにしていたのが、これまで渋谷と約10年間に渡り断続的にコラボレーションを行っているフランス人ヴィジュアル・アーティストのジュスティーヌ・エマール(Justine Emard)による映像だ。

渋谷の背後の9×10メートルにも及ぶ巨大スクリーンには、具象/抽象、無機/有機の境界を行き交いながら紡ぎあげられる独創的なイメージが映し出され、視覚面からも没入的な音楽体験をつくり出していた。

『for maria』からもう1曲「Blue Fish」を演奏後、次いで披露されたのは、『ATAK018 Soundtrack for Memories of Origin Hiroshi Sugimoto』(2012年)からの楽曲たち。多重録音やコンピュータのエディット・プロセッシングにより、ピアノの新たな響きの可能性を探求した同作の楽曲を、渋谷は今ここでしか生成し得ない響きを慈しむように、丁寧に1つひとつの音を紡いでいく。その1回性を宿した豊穣なサウンドは、音源とは逆のベクトルでピアノという楽器の可能性と魅力を私たちに伝えてくれる。

楽曲に新たな生命を宿した、ギタリスト・笹久保伸との初共演

続いて、そしてステージにはこの夜1人目のゲストとなる笹久保伸が登場。笹久保は、ペルーに渡り演奏・研究活動を行ってきた経験を持ち、国境を越えた評価を獲得している秩父在住のギタリスト/コンポーザーで、この夜が渋谷との初めての共演となる(そして渋谷がギタリストと2人編成のライヴを披露するのも初めてのことである)。

2人が最初に奏でたのは、『for maria』収録曲の「Open Your eyes」。笹久保のフォルクローレな響きを孕んだギターは、渋谷の演奏・楽曲に新たな表情と奥行きをもたらしており、事前の想像を凌駕する科学反応がそこに生まれていた。

続いて両者は、バレエダンサー・飯島望未が登場するMVやステファン・ポエトリーのヴォーカル参加も話題となった「BORDERLINE」、『ATAK018 Soundtrack for Memories of Origin Hiroshi Sugimoto』収録曲の「Appropriate Proportion」の2曲を共演。卓越した2人の音楽家によるスリリングな音楽的対話をもって第1部は幕を閉じた。

バッハ、シェーンベルクから引き継ぐ「伝統と革新」

休憩をはさみ、渋谷は自身以外の楽曲から第2部を開始。シェーンベルクの「Op19-1」、バッハの「Fuga」と「Largo」の3曲が演奏された。バロック後期に、中世からの伝統や様式を継承しながら対位法と和声法を両立し、西洋音楽の礎を築き上げた音楽の父、バッハ。そしてバッハの音楽について「その独創性たるやわれわれがその音楽を研究すればするほど驚嘆すべきものに思えてくる」と畏敬の念を示し(※)、20世紀前半に、西洋音楽を前進させるべく対位法的技法を極北まで押し拡げ12音技法を確立したシェーンベルク。

※『シェーンベルク音楽論選 様式と思想』(アーノルト・シェーンベルク著、上田昭訳、筑摩書房)収録の「音楽の様式と思想」より

各々のクリエイションやその関係性において「伝統と革新」という言葉を想起させるそんな両者の楽曲に続けて、渋谷は自身の楽曲からボーカロイド・初音ミクをフィーチャーした人間不在のオペラ『THE END』(初演:2012年)のために制作された「Aria for Time and Space」を奏でる。

『THE END』は、渋谷が初めてオペラという伝統的な芸術様式に挑み、その中にテクノロジーやポップカルチャーという「外部」を導入することにより、新たな表現の可能性を切り拓いた重要作。記念すべき夜において、その楽曲をバッハとシェーンベルクの後に奏でたことに、渋谷の現在地と哲学、「伝統と革新」への想いが象徴されているようにも感じられた。

世界的ソプラノ歌手・田中彩子と描く超越的な音世界

『ATAK024 Midnight Swan』から「BUS」、映画『ホリック xxxHOLiC』のテーマ曲「Holic」の弾き終えると、2人目のゲストとしてウィーンを拠点として活動するソプラノ歌手の田中彩子がステージに姿をあらわす。

2021年12月に行われたライヴ・パフォーマンス「Music of the Beginning -はじまりの音楽-」で初共演を果たして以来、2度目の共演となる2人が最初に披露したのは『for maria』収録曲の「BLUE」。渋谷の抒情的なピアノに続き歌い出した田中の歌声は、生命の煌めきが凝縮したかのような美しさと力強さを湛え、マイクを通さずともホールの隅々まで響き渡り、瞬時にオーディエンスを魅了し引き込んでいく。

続くのは渋谷初のアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』(初演:2018年)のメインテーマ曲「Scary Beauty」と「グッチ」のショートフィルム『KAGUYA by GUCCI』(2022年)のために制作された「I come from the Moon」。共にオリジナル・バージョンではアンドロイドのオルタがヴォーカルを担当しており、前者ではミシェル・ウェルベックによる詩が、後者では竹取物語を下敷きとした詞世界が歌われることも相まって、非現実的・超現実的なムードに満ちた楽曲となっている。

そんな両曲を、田中は人間にしかなし得ない、しかし人間離れした圧巻のヴォーカルにより歌い上げ、オルタとは異なるあり方で、超越的な音世界をつくり出すことに、今ここを「ここではないどこか」へ変容させることに、成功していた。

『for maria』以降に拓かれた新たな地平、前に進み続けること

田中との共演を終えると、渋谷は『for maria』の標題曲「for maria」、ドラマ『SPEC』のテーマ曲「Spec」(2010年)、映画『ミッドナイトスワン』のテーマ曲「Midnight Swan」(2020年)の3曲を披露。アーティストとして、またレーベルオーナーとして、実験的・先鋭的な音響作品を主たるアウトプットとしていた渋谷が、「Spec」と「Midnight Swan」を含めて、より多くの人に伝わりその琴線に触れる楽曲を発表するようになったのは、『for maria』 以降のことである。

喪失や悼みを契機として生まれた音楽が新しい始まりへとつながっていったことに、その終わりから始まりへの循環が描く希望に改めて心を動かされる中で、第2部は幕引きとなった。

鳴りやまない拍手の中、渋谷がステージに戻り、アンコールが始まる。初音ミクをヴォーカルにフィーチャーし、哲学者・東浩紀を作詞に迎えた『THE END』期の重要曲「Initiation」(2012年)を弾き終えた渋谷は、この夜の正真正銘のラストソング——そして『for maria』のラスト曲でもある——「Our Music」へと移行。

渋谷とmariaの2人で設立した〈ATAK〉、その記念すべき夜を締め括る音楽としてこれ以上の楽曲はないだろう。曲の始まりから流れ出す、聴く者を捉えて離さない下降を軸とした8小節のメロディライン。前半4小節では長3度と短3度のインターバルが入り混じりながら下降していくその旋律は、後半4小節の頭で再び始まりの音に戻った後、今度は完全4度を軸として、再び繰り返し下降していく。

その差異と反復の中で、さまざまな出来事や感情にあふれた「私たちの日々」が、結晶化した「私たちの音楽」へと昇華されていくかのような感覚が去来する。渋谷とmariaが紡ぎあげた「私たちの音楽」は、そしてこの夜に奏でられたすべての音楽は、オーディエンス1人ひとりすべてにとっての「私たちの音楽」となり、今後も鳴り響き続けていくことだろう。

前回にも述べた通り、渋谷は前に進み続ける音楽家であり、その姿勢は自身の原点であるピアノに向き合う時にも一貫している。

音響への徹底したこだわりや、映像作家との共同により旧来的なピアノ・ソロ・コンサートの枠組みを超えるイマーシブな体験性をつくり出すこと。卓越した表現者たちとの共創により楽曲に新たな生命を宿すことや、オーケストラやエレクトロニクスを用いた楽曲を繊細なピアニズムにおいて再構築すること。

そこに通底しているのは、安易な回帰や過去の再現とは無縁の、前進のアティチュードである。それこそが、渋谷という音楽家を、〈ATAK〉というレーベルをかたちづくってきたものに他ならず、その歩みが今後も続いていくであろうことを、至上の音楽体験と共に確信させてくれる一夜であった。

■渋谷慶一郎ピアノ・ソロ・コンサート「Keiichiro Shibuya Playing Piano In The Raw」
開催日時:2022年12月5日
会場:浜離宮朝日ホール
出演:渋谷慶一郎(ピアノ)
ゲスト:田中彩子(ソプラノ)、笹久保伸(ギター)
映像:Justine Emard

セットリスト:
1st part
01. erosion
02. Blue Fish
03. Lightning Fields
04. Empty Garden
05. Life
06. Memories of Origin
07. Open Your eyes with Shin Sasakubo(Acoustic guitar)
08. BORDERLINE with Shin Sasakubo (Acoustic guitar)
09. Appropriate Proportion with Shin Sasakubo (Acoustic guitar)

2nd part
01. Schoenberg Op19-1
02. Bach Fuga
03. Bach Largo
04. Aria for Time and Space
05. Bus
06. Holic(Piano version)
07. Blue with Ayako Tanaka(Soprano)
08. Scary Beauty with Ayako Tanaka(Soprano)
09. I come from the Moon with Ayako Tanaka(Soprano)
10. for maria
11. Spec
12. Midnight Swan

Encore
13. Initiation
14. Our music



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高橋恭司が撮ったアンドロイド・オペラ®︎とBMWのコラボレーション 国立新美術館で行われたスペシャルイベントをレポート:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第9回 https://tokion.jp/2023/02/14/massive-life-flow-9/ Tue, 14 Feb 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=167277 連載第9回では、昨年11月に国立新美術館で上演された渋谷のアンドロイド・オペラ®︎のリポートを通して、その可能性と視座を高橋恭司の撮影による写真と共に振り返っていく。

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領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。連載「MASSIVE LIFE FLOW」では、そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探っていく。

連載第9回では、昨年11月に国立新美術館で上演された渋谷のアンドロイド・オペラ®︎のリポートを通して、その可能性と視座を高橋恭司の撮影による写真と共に振り返っていく。

連載第9回では、昨年11月に国立新美術館で上演された渋谷のアンドロイド・オペラ®︎のリポートを通して、その可能性と視座を高橋恭司の撮影による写真と共に振り返っていく。

渋谷慶一郎(しぶや・けいいちろう)
音楽家。1973年、東京都生まれ。東京藝術大学作曲科卒業、2002年に音楽レーベル ATAKを設立。代表作は人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』(2012)、アンドロイド・オペラ®『Scary Beauty』(2018)など。2020年には映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当、第75回毎日映画コンクール音楽賞、第30回日本映画批評家大賞映画音楽賞を受賞。2021年8月 東京・新国立劇場にてオペラ作品『Super Angels』を世界初演。2022年3月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、UAE現地のオーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』を発表。4月には映画『xxxHOLiC』(蜷川実花監督)の音楽を担当。また、大阪芸術大学にアンドロイドと音楽を科学するラボラトリー「Android and Music Science Laboratory(AMSL)」を設立。テクノロジー、生と死の境界領域を、作品を通して問いかけている。
ATAK:http://atak.jp
Twitter:@keiichiroshibuy
Instagram:@keiichiroshibuy

「FORWARDISM」——未来に向かい、挑戦し続けること

去る昨年11月15日、国内では2021年の『Super Angels』以来となる、オーケストラを従えた渋谷のアンドロイド・オペラ®︎を鑑賞する機会に恵まれた。その舞台となったのは東京・国立新美術館。渋谷のアンドロイドオペラは、BMWが開催した「FORWARDISM BMW THE SEVEN Art Museum」を締めくくるコンテンツとして上演された。`

渋谷が「FORWARDISM」について語ったインタビュー。この日のオペラの様子とサウンドも確認できる。

「FORWARDISM BMW THE SEVEN Art Museum」は、BMWのフラッグシップセダン「THE i7」、フラッグシップSUV「THE X7」のジャパンプレミアとして開催されたイベントで、タイトルに掲げられた「FORWARDISM」とは「新しい時代に向かって挑戦し続ける」というBMWの哲学を示すものであるという。そして、その「FORWARDISM」を実践するための方法論が「アートとテクノロジーの融合」であり、「THE i7」と「THE X7」の両車には、BMWが長い車づくりの道程の中で培ってきた美学と最新技術が存分に注ぎ込まれているのだ。

未来に向かい挑戦し続けるアティチュードと、アートとテクノロジーの融合——。それは、東京藝術大学作曲科でクラシカルな作曲技法を修めながら、その領域に留まることなく、オーストリアの〈Mego〉やニューヨークの〈12k〉周辺のアーティスト達とも共振する、コンピュータを用いた偏執的なプロセッシング/エディットにより紡がれた先鋭的な電子音響作品を自身のレーベル〈ATAK〉から1stアルバムとして発表した渋谷慶一郎という音楽家を紐解くキーワードでもあるだろう。そんな渋谷のメイン・プロジェクトであるアンドロイド・オペラ®︎が本イベントにおいて披露されることは、ある意味で必然のようにも感じられる。

BMWジャパン代表取締役社長のクリスチャン・ヴィードマン(2022年11月時点/現在の代表取締役社長は長谷川正敏)による挨拶、同社ダイレクターの遠藤克之輔によるプレゼンテーションが終わると会場は歓談モードへと移行すると共に、DJ EMMAがプレイを開始。巧みな選曲&ミックスによりスピンされるしなやかでグルーヴィなハウスミュージックが空間を華やかに彩る。

伝統的なオペラに、アンドロイドという「外部」を導入する

しばらくすると、会場を満たす音がエレクトロニック・ドローンへと移り変わっていく。前方のステージへと目を向けてみれば、アンドロイドのオルタシリーズ最新型であるオルタ4の姿が。既にセットアップを終え、悠然と身体を揺らしながら、オルタは英語によるテクストを読み上げ始める。

会場の空気が一気にこれまでとは異なる様相を呈し始めると、渋谷と総勢約40人にも及ぶオーケストラの楽員達がステージに姿を現し、各々の定位置へとついた。

オーケストラのチューニングが終わると、力強いシーケンスのビートが会場に鳴り響き、鮮烈な照明と共に、アンドロイド・オペラ®︎のスタートを告げる。オーディエンスが固唾を飲んでステージを見つめ、次に鳴り響く音に耳を澄ませている中、渋谷はスタンディングのままで、ピアノを弾き始める。内省的で憂いを帯びた、ニュアンスに富む美しい響きとフレーズが、これから始まる曲が「Scary Beauty」だと告げる。渋谷のピアノを皮切りに、オーケストラも演奏を開始。弦楽器、吹奏楽器が繊細かつダイナミックにフレーズを織り重ねていき、ミッド&ローの音域を担うパートが鳴り止むブレイク的な展開を経て、それまで音に合わせて体を揺らしていたオルタが、オーケストラのすべてのサウンドを引き連れ、歌い始めた。

フランスの小説家・詩人であるミシェル・ウェルベックの詩が歌われるこの曲は、2018年に日本科学未来館で初演された、渋谷にとって最初のアンドロイド・オペラ®︎となる『Scary Beauty』のメインテーマだ(前年にオーストラリアでプロトタイプ・バージョンを発表)。オペラ——、それはヨーロッパ的精神が生み出した総合芸術の極致ともいえるもの。渋谷はそこにアンドロイドという「外部」を中心に導入することにより、オペラの伝統・形式を、根底に息づく人間中心主義を脱臼させつつ、芸術表現としての新たな可能性や、社会のこの先を照射するヴィジョンを提示してみせたのだった。

それは2013年初演のボーカロイド・初音ミクをフィーチャーした「人間不在のオペラ」である『THE END』の問題意識を継承するものであるが、アンドロイド・オペラ®︎では、オーケストラを採用しオペラという制度・枠組みの内部により深く入り込みながら、アンドロイドと人間が共振・共存する状況をつくり出すことによって、さらなる表現的強度と批評性を獲得しているのだと感じる。

曲が終わると、オルタは渋谷のピアノをバックに英語でMCを行い、「FORWARDISM」の重要性を述べ始め、観客からは驚きやどよめきが起きる。挑戦し新たな道を切り拓き、前に進み続けること。それは自己のみならず、他者や社会の豊かさにもつながっていく営為であるのだと、オルタは説く。

アンドロイドが照射する生命と魂の未来のありよう

続いて演奏されたのは「The Decay of the Angel」。ピアノ、オーケストラ、シーケンスが交錯し、力強く濃密なグルーヴが形作られ会場を包み込んでいく。曲の開始から約2分を過ぎたところでオルタのヴォーカルがイン。天へと舞い上がっていくような流麗なメロディラインでオーディエンスの高揚感を誘う。

「The Decay of the Angel」は、先に述べたアンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』のために制作された楽曲の1つであり、その曲名は三島由紀夫の最終作『豊饒の海』の第4巻である『天人五衰』の英訳版タイトルに由来を持つ。『豊饒の海』は、転生する魂という設定を核とした重厚な長編小説。私達読者は、時空間をまたぎ展開される事象やドラマを通し、死と生について、人という存在のありようについて、さまざま思いを巡らすことになる。

アンドロイドであるオルタは、いうまでもなく生物学的な命を持たない。しかし、眼前のステージで、渋谷とオーケストラが生み出すサウンドに呼応しながら歌うオルタの姿は、この先の社会において、生命や魂というものに対する私たちの認識が変わりうるかもしれないという確かな予感を感じさせる。

同曲の後に立て続けに行われた渋谷とオルタによるセッションも極めて示唆的な光景であった。渋谷が即興で弾くピアノに合わせ、オルタは、事前に決められた内容ではなく、即興で歌を重ねていく。人間とアンドロイドが共創し、来たるべきメロディを共に探り、紡ぎあげていく様は、未来への希望と可能性を伝えてやまない。

人間と非人間が織りなすアンドロイド・オペラ®︎

この日のアンドロイド・オペラ®︎のラストを飾ったのは「Midnight Swan」。映画『ミッドナイトスワン』(2020年公開、監督:内田英治、主演:草彅剛)のメインテーマとして制作された楽曲で、渋谷にとって2011年リリース作『ATAK015 for maria』以来のピアノソロアルバムとなった『ATAK024 Midnight Swan』(2020年)の標題曲でもある。

アトモスフェリックな電子音響を下敷きとして、身体の芯まで響くマッシヴなキックがゆっくりと打ち鳴らされる中、渋谷の繊細なタッチのピアノが流れ出し、会場の空気を一瞬で染め上げる。切なさや逡巡、メランコリアに官能性をたたえた美しくエモーショナルなピアノ曲は、オーケストラによって深く多彩な響きとさらなるダイナミズムを与えられ、聴く者をその音世界に強く引き込んでいく。

「The Decay of the Angel」同様、オルタが歌う歌詞は、渋谷とコラボレーターである池上高志(複雑系・人工生命研究者/東京大学大学院教授)とAIの作詞・テキスト生成プロジェクト「Cypher(サイファー)」の協働によるもの。人間と非人間によるクリエイション、パフォーマンスがとけあい交錯しながら、アンドロイド・オペラ®︎はかたちづくられているのである。

ブレイク後は キックが4つ打ちになり高揚感を最高潮まで高め、大きな余韻を残しつつ同曲が終わり、アンドロイド・オペラ®︎は幕を閉じた。約20分強と決して長い時間の公演ではなかったが、渋谷の最新形、現時点での到達点とでもいうべきアンドロイド・オペラ®︎、その可能性と魅力を堪能するに十分な、強度に満ちたパフォーマンスが展開された一夜となった。

『Scary Beauty』以降も、オルタとオペラ歌手の共演や島田雅彦の脚本、WEiRDCORE(ウィアードコア)が手掛けた映像も話題となった『Super Angels』(初演:2021年、新国立劇場)、仏教音楽・高野山声明とUAEのオーケストラ「NSO Symphony Orchestra」と共につくりあげた『MIRROR』(初演:2022年、ドバイ万博)など、アンドロイド・オペラ®︎をアップデートし続けている渋谷。次はどのような公演で私達を驚かせてくれるのか、この先の景色をみせてくれるのか、楽しみでならない。

■BMW「EXCLUSIVE VIP PARTY」渋谷慶一郎アンドロイド・オペラ®︎
開催日時:2022年11月15日
会場:国立新美術館

スタッフ:
コンセプト、作曲、ピアノ、エレクトロニクス:渋谷慶一郎
ヴォーカル:オルタ4
オーケストラ(本公演のために編成した45名の奏者)

アンドロイドプログラミング:今井慎太郎
サウンド:鈴木勇気
映像:小西小太郎
照明:川崎渉、上田剛
舞台監督:串本和也、尾崎聡
アンドロイドアシスタント:木村彰秀
ヘアメイク:yoboon
制作マネージャー:松本七都美
制作:ATAK

アンドロイド「オルタ4」
所属:大阪芸術大学 アートサイエンス学科 Android and Music Science Laboratory (AMSL)
製作監修:石黒浩
音楽監修:渋谷慶一郎
プログラミング:今井慎太郎
台座設計:妹島和世建築設計事務所

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対談・渋谷慶一郎 × 長久允 ショートフィルム『Kaguya by Gucci』の制作背景とアンドロイドという存在から見えてくるもの:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第8回 https://tokion.jp/2022/12/23/massive-life-flow-8/ Fri, 23 Dec 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=161225 連載第8回では、渋谷が音楽を書き下ろした「グッチ」のショートフィルム『Kaguya by Gucci』(主演:満島ひかり、アオイヤマダ、永山瑛太)でディレクションを務めた、映画監督・長久允との対談をお届けする。

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領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。連載「MASSIVE LIFE FLOW」は、そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探っていく。連載第8回では、渋谷が音楽を書き下ろした「グッチ」のショートフィルム『Kaguya by Gucci』(主演:満島ひかり、アオイヤマダ、永山瑛太)でディレクションを務めた、映画監督・長久允との対談をお届けする。

「グッチ」のバンブーハンドル バッグの生誕75周年を祝し制作された『Kaguya by Gucci』は、日本最古の物語といわれる「竹取物語」を、東京を舞台とした現代劇へと翻案した約6分間の映像作品。独自の視点から再解釈された設定・ストーリー、シュルレアリスティックで美しくポップな映像、アンドロイド・オルタ4がボーカルをとる構築的かつエモーショナルな音楽から織りなされる同作は、8月に公開されるや否や国境を超え大いに話題を巻き起こすこととなった。この類い稀なる物語と音楽は、いかなる想像力と構想力により紡ぎ上げられたのか。初対談となる2人が、その制作背景やプロセス、そしてアンドロイドという存在から見えてくるものについて、言葉を交わす。

構造を捉え、複雑さを愛すること

——まず『Kaguya by Gucci』にお二人が携わることになった経緯を教えてください。

長久允(以下、長久):『Kaguya by Gucci』の企画・プロデュースを担当した田辺(俊彦)さんという方がいまして、渋谷さんと僕にそれぞれ田辺さんからオファーがあり、ご一緒することになったんです。僕はこのプロジェクトが始まるまで渋谷さんとは面識がありませんでしたが、もともと渋谷さんの音楽は聴いていましたし、初音ミクやアンドロイドをフィーチャーしたオペラ作品や『Heavy Requiem』(※編注:2019年のアルスエレクトロニカで披露された真言宗僧侶・藤原栄善とのコラボレーションによるパフォーマンス)にも刺激を受けてきたので、同じ作品に携わることができてとても嬉しかったですね。 

渋谷慶一郎(以下、渋谷):僕も長久さんとご一緒できて楽しかったです。ところで、長久さんって、もともと音楽をやってたんですよね? 『Kaguya by Gucci』の制作中、音楽に対する意見や指示の中に、音楽経験者じゃないと出てこないような言葉や表現があったので、その後、気になって長久さんのことをネットで調べてみたんです(笑)。そしたら、案の定、そういう情報が見つかって。

長久:そうなんです。学生時代にずっとジャズをやっていました。楽器経験としては、バリトンを6年、テナーサックスを3年くらいやっていて。

渋谷:ジャズといっても色々ありますけど、どの辺りが好きなんですか?

長久:幅広く聴くほうなんですけど、「一番好きなの誰か?」と聞かれたら、ギル・エヴァンスですね。エレクトリックギターを入れてジミ・ヘンドリックスの曲をやるなど、ビッグバンドというフォーマットの中でジャズに”異物”を取り込んで拡張していくような彼のやり方に、すごく魅力を感じて。大学時代にコピーもやっていました。

――長久さんが監督を務めた2019年公開の映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』には菊地成孔さんが出演されていましたが、キャスティングは長久さんのご意向によるものだったのでしょうか?

長久:はい。菊地さんもとても好きな音楽家で、DC/PRGのコピーをやったこともあるんです。菊地さんはロジカルなトークも魅力的な方なので、ぜひ出演してもらいたくてオファーしたところ、幸いにも引き受けていただけて。

自分の音楽経験の話に戻ると、20歳の頃にサックスでプロになるのは諦めて、同じ熱量で打ち込めるものをよくよく考えた結果、映画に転向したんですけど、もともと音楽は大好きだったんです。

渋谷:そうだったんですね。長久さんとはとてもやりやすかったので色々と納得しました。僕は、長久さんみたいに、複雑な音楽を好きな映画監督とは相性がいいんです(笑)。そういう方って映像でも音楽でも、作品を構造的に捉えているじゃないですか? 僕もそうだから、共通理解を得やすくて。逆に、歌モノ一発とか3ピースのロックだけが好きみたいな方は音楽の物語性や文学性ばかりにフォーカスして構造への意識が希薄だから、一緒に仕事をするのがちょっと難しいんですよね(苦笑)。

長久:確かに、僕は超密度派というか、ものごとや諸要素の関係性の密度が上がれば上がるほど「いいな」ってタイプなので、複雑なものや、多くの人が「めんどくさい」と感じるものが大好きなんです。

「現代版竹取物語」はいかにして生まれたのか

8月に公開された『Kaguya by Gucci』。日本最古の物語「竹取物語」を、独自の感性と批評眼により現代劇へと翻案した。ディレクションは長久允が、音楽は渋谷慶一郎が担当。

――『Kaguya by Gucci』の大元となるコンセプトはどのように生まれ、育まれていったのでしょうか?

長久:プロジェクトのスタート地点として、プロデューサーの田辺さんから「現代の東京を舞台として、『竹取物語』のかぐや姫、翁、帝という3人の人物が登場する物語をつくってほしい」というオーダーがあったんです。そこでまず、現代の物語作家として、その誕生から10世紀以上経った日本最古の物語にどのように対峙すべきなのか、どのようにそれを描き直すべきなのか、「竹取物語」と向き合うスタンスを明確にしなくてはいけないと思ったんです。そうして考えを煮詰めていった結果、出てきた結論は「物語に抗うこと」でした。

たとえ物語の筋書きや結末が決まっているのだとしても、登場人物の1人ひとりが、それに対して自分の主観や主張をさしはさむ権利が与えられている――。そういった考えに基づき物語を描き直すことで、今だからこそ提示できる意義や価値観を表現したかったんです。だから、『Kaguya by Gucci』の中では、翁はかぐや姫と別れる時に諦めるのではなく反抗するし、たとえ結ばれないという結末がわかっていたとしても、帝は恋をし続けることを諦めない。渋谷さんの音楽でオルタ4が歌っている歌詞もそういう観点から書いていて、「私は決められたことを演じる存在ではない」みたいな内容なんですけど。

――オルタ4は渋谷さんと共に映像にも登場し、メイクアップも相まって強い存在感を示していますね。

渋谷:オルタ4はこの作品がデビューだったのですが、作品の中では狂言回しとして重要な役割を担っているんです。で、そういうふうに説明すると海外の人からは「そう言われるとよくわかる」って言われますね。

長久:確かに能楽など歴史的な文脈を踏まえると、海外の人にとってはより理解しやすいかもしれませんね。

渋谷:海外のカルチャルな人は、日本の伝統文化について日本人よりも詳しかったりしますからね。

あとオルタが歌っている歌詞に関しては、一部、AIに長久さんが書いたテキストを学習させて作った箇所もあるんです。作詞で長久さんと共にクレジットされている「サイファー」というのがAIのことなんですけど、その名前もAI自身が付けたもので。

世間のAIのネーミングって、古代の神や古典の登場人物に因んだものとか、つまらないものが多いじゃないですか(笑)。そういうのは嫌で、じゃあどうしよう?と思ってAIに「みんなが成長を見守りたくなる新進の作詞家の名前は何がいいか」って聞いてみたところ、「サイファー」って答えが返ってきて。0や暗号を意味する言葉で、これはいいなと思って正式名称となりました。

楽曲制作における構造的アプローチ

――今作のために書き下ろした楽曲「I come from the Moon」について、渋谷さんはどのようなアプローチで制作を進めていったのでしょうか?

渋谷:先ほどお話ししたように、僕は音楽でも映画でも、作品を構造的に捉えていきます。それで、構造にこそ人は心を動かされると思っているんです。

その観点から言うと、この作品で一番重要なのは円環構造になっていることです。同時に、登場人物たちやオルタ4の瞳のアップが多かったり、月の存在だったり、作品を通して円という形態が象徴的に登場している。それで、最後に「これはおとぎ話だ」という最初のシーンと同じセリフが翁役のアオイ(ヤマダ)さんから発せられ、作品の円環性が提示される。つまり象徴的にも構造的にも円が重要で、それは当然ながら月の形態でもある。それをどのように音楽で表現したらいいかを考えました。

そしてもう1つ核になると思ったのは、アオイさん演じる翁が、頂上にいる満島(ひかり)さん演じるかぐや姫に向かい東京タワーを駆け上がっていくシーンです。作品に頻出する円という形態は、精神分析的に言えば女性器を象徴するものとして解釈できるわけですが、ここで東京タワーはそれに対をなす男性器の象徴として登場しているとも言えます。言わば、女性同士のラヴストーリーの描写なんだけど、そこに記号として男性的なものも介在している。それは作品を見ている人の無意識に強く働きかけるところがあると思って、ここでは強い欲動性のあるメロディが必要だろうと考えたんです。

――なるほど。渋谷さんが構造や記号的な視点から作品分析を行い、楽曲制作を進めていったということがよくわかります。

渋谷:ただ、その東京タワーのシーンで、メロディも一緒に上昇していくと、単純にオーガズムに達してしまうことになるから(笑)、それでは駄目で。先ほど長久さんがお話ししていたように、今作では「抗うこと」が大切なテーマになっているわけで、それを表現するために上昇するコード進行に対して下降するメロディをつけました。

そしてこの東京タワーを駆け上がるところからBPMが急激に上がっていくんですけど、クライマックスの月を背景に2人が抱擁する頃には、急激にBPMを落として完全に最初のシーンと同じBPMに戻っていて。そのことによって、作品の円環構造を音楽上で表現しているんです。

長久:どのシーンの音楽も素晴らしくて、僕はかぐや姫と翁がガチャガチャの人形になって踊り出すシーンもすごく好きですね。あそこのシーンでは、今まで実写だった映像が急にCGに切り替わるんですけど、音楽のほうでも音色がガラッと切り替わって映像の変化にシンクロしていて。

――音色というところでいうと、渋谷さんの作品ではあまり使われてこなかった生ドラムの音色や、シンセベースではなくエレクトリックベースの音色も聴こえてきます。

渋谷:アンドロイドが語り部、歌い手として重要な役割を担う中で、あえて人間的な感触を持ったサウンドを組み合わせたほうがおもしろくなると思ったんです。今回のプロジェクトは、自分の中で機械的なものと人間的なものとの距離感を考えるいい機会にもなりました。ベースだけではなくて、エレキギターや1950年代の生ドラムのシミュレーションとかも使っていて、アンドロイドが音楽の中心にいるとなぜかこういう音色が欲しくなりますね。

――先ほど長久さんがお話ししていた通り、今作では映像と音楽に強い一体感、シンクロ感を感じます。その辺りは相当こだわられたのでしょうか。

長久:そうですね。例えば細かいところの話でも、音の余韻、残響がカット終わりできっちり切れているのと、次のカットに少しはみ出ているのとでは、受ける印象がめちゃくちゃ変わるじゃないですか? だから、映像と音の調整は1フレーム単位で最後のギリギリまで調整していました。

渋谷:長久さんは、広告もやってきたというのも大きいと思うんですけど、カット割とか、コマのフレームに対する意識は自主映画だけやってきた人よりも厳密ですよね。音についても「ここのシーンの10フレーム目で音のアタックが来ないと感動しないんです!」みたいな感じで。僕は、そういう厳密さって絶対的に正しいと思うんですよ。制作の場では、数字で言えることは数字で言えないと、全く無効というか、話にならない。

アンドロイドという存在を通して見えてくるもの

――長久さんは今作でアンドロイドという存在に対峙し、どのようなことを感じましたか?

長久:僕は、人の生き死にや、感情と表情の乖離・ずれみたいなものをテーマにして作品を制作してきましたが、それはこの先も変わらないと思っていて。アンドロイドは、その存在自体がそういった自分の問題意識に関わってくるので、自分にとって、とても重要な存在だと感じています。今後、アンドロイドがますます普及しその重要性を増していくであろう中で、物語作家としてじっくりと向き合うことができたのは得難い経験でした。

渋谷:アンドロイドは、映画や演技という観点から見てもおもしろい存在だと思います。かつてはエモーションとモーションのつながりをいかに上手く表現できるかということが、いい俳優やいい映画の評価基準だったじゃないですか。それを(ジャン=リュック・)ゴダールが方法論的に切断したことで新しい映画が始まったわけだけど、アンドロイドにおいては、その両者間に最初からそもそもリンクがない。その存在自体が「感情とは何か」と問いかけてくるようなところがある。

長久:本当にそう思います。僕は、人間ってそもそもエモーションとモーションが合致してないとずっと感じているんです。基本的に人は状況に対して、感情ではなく反射でしかものを言っていないというか。そこにある乖離、「ガタガタ性」みたいなものが、僕はとても美しいと思っていて。だから、それを体現しているアンドロイドという存在に惹かれるんです。

渋谷:人は反射や習慣で行動するし、何かを好きという価値判断の背景には必ず社会的要因がある。例えばアイドルという存在は、見た目という基準のみではなく、それを「かわいい」とする社会的な価値観があってこそ成立しているわけで。というか、実際に会うとそんなにかわいくないことも多い(笑)。人間がそこまで感情で動いているわけではないということは、今わりと共有されてきている気はしますね。

――AIやアンドロイドという存在によって、人間という存在や感情というものに対する認識や感覚が改まってきているとも感じます。

渋谷:そうして感情という前提が崩れると、物語の作られ方が変わりますよね。これは、日本にとって結構チャンスだと考えていて。ヨーロッパは基本的に人間中心主義で、人間という存在を疑わないから、「人間には感情があって、ロボットにそれはない」という前提を崩すのが難しかったりするけど、日本はそれとは異なる価値観に基づいた新しい物語を提示できると思うんです。

長久:日本は代々、浄瑠璃を作ってきていますし、めちゃくちゃ基盤がありますよね。

渋谷:そうそう。

長久:人形には感情があるし、人間は人形が表現できる以上の感情はない、みたいな。それは他の国の方は持ってない感覚のような気はします。

渋谷:それを僕は「新しいエスニック」と言っているんだけど。

長久:わかります。僕の映画は日本よりも、アメリカやヨーロッパのほうが評価してくれるんですけど、それは僕の映画で表現されている、直接的な描写やモチーフといったレイヤーではなくて、悲しみを表明しない感じや、諦観に対するドライさなどといった精神性に対して、日本的な特殊性というかある種のエスニック性を感じているからみたいで。それが、おもしろいと。

渋谷:僕もこの10年くらい、作品を通して、「私」という存在に自明性が無いことや、感情の実証不可能性みたいなことを描いてきましたが、そういったトピックは日本よりも日本以外の人との方が議論の対象になるんですよね。

長久:やっぱりそうなんですね。『Kaguya by Gucci』の制作中に田辺さんから、渋谷さんと僕は今の社会や人間に対する考え方に近いところがあると言われたんですけど、いろいろとお話をさせていただいて、改めて実感しました。今日はありがとうございました。

渋谷:こちらこそありがとうございました。ゆっくりとお話ができて楽しかったです。

Photography Tasuku Amada

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香取慎吾の個展会場サウンドデザイン、TR-808特別番組の音楽制作を渋谷慶一郎が担当:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」EXTRA https://tokion.jp/2022/12/16/massive-life-flow-extra/ Fri, 16 Dec 2022 11:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=161050 ヒカリエで開催中の香取慎吾個展『WHO AM I』の音楽・音響と、12/17放送のNHK『ノーナレ』TR-808特集の番組音楽を渋谷慶一郎が担当。稀代の音楽家の最新のクリエイションに触れるまたとない機会を決して見逃さないよう。

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領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。連載「MASSIVE LIFE FLOW」は、そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探っていく。今回は特別回として、渋谷による最新のクリエイションに触れられる2つのトピックを紹介する。

TOPIC1:香取慎吾個展『WHO AM I』で、10ギガ以上のサウンドファイルと24本のスピーカーを用いたサウンド・インスタレーションを制作

香取慎吾の個展『WHO AM I』が渋谷ヒカリエ、ホールAにて12月7日から開催中だ。歌や演技、ファッションブランドのディレクションと様々な領域に渡り活動を行う香取だが、2018年に仏ルーブル美術館にて自身初の個展『NAKAMA des ARTS』を開催するなどアーティストとしての顔も持ち合わせており、今回で国内2度目の個展開催となる。

本人が「より深く自分を知ってもらいたい」と語る同展では、実に200点もの作品を展示。会場は「闇」と「光」の2つのエリアに分かれており、前者にはこれまで香取が表立っては見せてこなかった、不安や迷い、焦燥などといった感情を想起させるような作品も見られるなど、『WHO AM I』は香取慎吾という表現者を多面的に感じ取ることのできる展示となっている。

そんな同展の音楽・音響を手がけたのが、渋谷慶一郎である。香取と渋谷――。少し意外にも感じられる組み合わせだが、2人はかつて渋谷がパリに滞在していた頃に同地にて知り合って以来の仲で、今回の取り組みは香取本人からの指名を受けて実現したのだという。

本展において渋谷が制作したのは、固定的・静的な楽曲ではなく、10ギガ以上のサウンドファイルと24本のスピーカーを用いた空間的・動的なサウンド・インスタレーション。サウンドファイルは全て渋谷自身がコンピューターやシンセサイザーで生成/プロセッシングしたもので、それらは渋谷のコラボレーターである今井慎太郎が作成したプログラムを介して天井に吊るされたスピーカー群を動き回り、会場に無限変化のサウンドスケープを織りなし続けていく。

このプログラムは1~8個のサウンドファイルを同時再生し、ファイルの選択や再生範囲・ピッチ、サラウンドパンニングには偶然性を介在させているものの、各エリアでどのような傾向のサウンドスケープが形成されるかについては、渋谷のディレクションによりコントロールされているのだという。それを広義の「作曲」と捉えるならば、この会場に鳴り響いているのは、香取の作品世界を受けて渋谷が書き下ろした「サウンドトラック」とも言えるのかもしれない。また、サウンドシステムには渋谷のライブパフォーマンスでのPAを手掛ける鈴木勇気が手掛け、今井慎太郎と共にアンドロイド・オペラのチームが多様なランダムネスを含む本展の音楽を綿密に仕上げていることも特筆に値する。その聴取体験は、来場者の鑑賞体験にこの上ない豊かさと奥行きをもたらすことになるだろう。

香取の個展『WHO AM I』はヒカリエでの会期を終えた後に全国を巡回予定で、会場を移す度、渋谷も現場に入り、ベストな聴取体験を生み出すべくスピーカーやプログラムの調整が行われるとのこと。香取の作品世界を立体的に感じることができ、渋谷のサウンド・インスタレーションとしても貴重な機会。ゆめゆめ見逃すことなきよう、スケジュールをチェックしておきたい。

■『WHO AM I -SHINGO KATORI ART JAPAN TOUR-』
会期:~2023年1月22日 
会場:渋谷ヒカリエ9階 ヒカリエホール ホールA
住所:東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ 9F
時間:12:00〜19:00(月~木 ※最終入場18:30)、12:00〜20:00(金 ※最終入場19:30)、11:00 〜20:00(土 ※最終入場19:30)、11:00 〜18:00(日 ※最終入場17:30)
※2022年12月28日~2023年1月3日は土曜日と同じ開催時間
休日:2023年1月1日
入場料:一般・ ¥2,300(平日)、 ¥2,500(土日祝)/中高生・ ¥1,300(平日)、 ¥1,500(土日祝)
※2022年12月28日 ~ 2023年1月3日は土日祝価格での販売。
オフィシャルサイト:https://www.whoamitour.jp/
※今後の巡回予定など詳細はオフィシャルサイトを確認のこと

サウンドスタッフ:
COMPOSER, SOUND PRODUCER: Keiichiro Shibuya
SOUND PROGRAMMER: Shintaro Imai
SOUND SYSTEM ENGINEER: Yuki Suzuki

TOPIC2:伝説の名リズムマシン「TR-808」特集の番組音楽を渋谷が制作

TR-808は1980年から1982年までの間に日本の楽器メーカー・ローランドが製造・販売したリズムマシン。特色あるアナログサウンドと(当時としては)強力なシーケンス機能を持つ同機は、ジャンルを超え先進的なアーティスト達に愛され、エレクトロ、ヒップホップ、ハウス、R&Bなどの発展に多大な影響をもたらすこととなった。

12/17にNHK総合にて放送される『ノーナレ』では、今でも世界中で愛され続けるそんな伝説の名機を特集。「808 Revolution」と題した同特集には、YMOの作品・ライヴにマニピュレーターとして参加した松武秀樹、エレクトロ、ヒップホップの草分け的存在であるアフリカ・バンバータ、日本テクノ・シーンを牽引し続ける石野卓球、米ビルボードR&B /ヒップホップ部門1位獲得作を手掛けた日本人プロデューサーのTRILL DYNASTY(トリル・ダイナスティ)、そしてTR-808の開発者である菊本忠男が登場し、各々の同機に対する想いや貴重な開発秘話が語られるという。

渋谷はそんな全ミュージックラヴァー必見の特集において番組音楽を担当。かねてよりTR-808を愛用し、時にはピアノや声明を交えながら同機を用いたパフォーマンスも行ってきた渋谷。今回の番組音楽の制作にあたっては、TR-808のみを音源として使用し、同機の内部シーケンサー、リアルタイムのリズムプログラミング、サウンドエディットを駆使して楽曲制作を行ったという。

音楽の未来を切り開き、永遠のスタンダードとなったTR-808。錚々たるクリエイター陣は、その革新性と独自性をいかに語るのか。そして、渋谷はどのようなサウンドを紡ぎあげたのか、心して見届けたい。

■『ノーナレ』最新話「808Revolution」
放送日時:12月17日 23時20分~
出演: 松武秀樹、アフリカ・バンバータ、石野卓球、TRILL DYNASTY、菊本忠男
音楽:渋谷慶一郎
番組サイト:https://www.nhk.jp/p/ts/268WGKYP84/episode/te/QJ4GWZ51R5/

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対談・渋谷慶一郎 × 飯島望未 新曲「BORDERLINE」のMVで初共演した2人が語るビハインド・ザ・シーン:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第7回 https://tokion.jp/2022/10/04/massive-life-flow-7/ Tue, 04 Oct 2022 04:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=148664 連載第7回では、渋谷の新曲「BORDERLINE」のMVに出演したバレエ・ダンサーの飯島望未との対談をお届けする。

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領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探る連載「MASSIVE LIFE FLOW」。第7回では、渋谷エリアを盛り上げる文化プロジェクトとして発表された渋谷の新曲「BORDERLINE」、そのMVに出演したバレエ・ダンサーの飯島望未との対談をお届けする。

「BORDERLINE by Keiichiro Shibuya feat. Alter3 and Stephanie Poetri」
渋谷駅の東口地下広場を舞台に渋谷・オルタ3・飯島の3者が共演し、フューチャリスティックで独創性あふれる映像・音世界を展開。飯島は振付家・ダンサーの小㞍健太のコレオグラフによる、「人間とアンドロイドの境界線」を見る者に問いかけてくるような唯一無二のダンスを披露している。本楽曲の歌詞はAIによるもので、「渋谷/地下/BORDERLINE」といったキーワードをもとに、東京大学の池上高志教授の協力により、AIによる作詞が実現した。

「アンドロイドとAIによる世界初のポップミュージック」と銘打たれた渋谷作曲の楽曲「BORDERLINE」は、AIが作詞した詞世界を、渋谷の諸作でもおなじみのアンドロイド・オルタ3と、世界を席巻する〈88rising〉所属シンガーのステファニー・ポエトリーが歌い上げるという、コンセプチュアルでいてキャッチーさも併せ持つ渋谷ならではの刺激的な1作。そのコンセプトを表現する映像作品において、渋谷、オルタ3とともに出演し重要な役割を担うのが、世界的に活躍するバレエ・ダンサー、飯島望未(K-BALLET COMPANY プリンシパル)だ。今作で初共演を果たした両者に、プロジェクトの背景や互いの表現領域などについて、言葉を交わしてもらった。

揺らぐリアリティの閾値、人間/アンドロイドの境界線

――この度公開された「BORDERLINE」は、渋谷エリアを盛り上げる文化プロジェクトとなり、楽曲、映像ともに非常に刺激的な作品となっています。まず、今作が生まれた経緯やコンセプト、そして飯島さんをオファーされた経緯を教えてください。

渋谷慶一郎(以下、渋谷):そもそものオファーが「ただ音楽を作るだけではなく、何か作品を制作してほしい」という内容だったんです。渋谷が関係するプロジェクトということで、僕は生まれも育ちも渋谷、姓も渋谷の「渋谷系」なので、僕以外に適任はいないだろうと喜んでお受けしました(笑)。

「BORDERLINE」というコンセプトは、今さまざまなところでリアリティの閾値が揺らいでいることや、ボーダーライン・パーソナリティ・パターンの方が増えていること(笑)、撮影することになっていた場所が渋谷の地下の改札前であること、そして僕が近年の作品で問い続けている「人間とアンドロイドの境界」といった背景や問題設定から生まれました。でも、一番大きかったのは「このプロジェクトのタイトルを決めないと」と思ってた時に、結構前に買った胸に「BORDERLINE」と書いてあるTシャツが部屋で目に入ったことで、こういうことはよくあるんです(笑)。

それで、「BORDERLINE」をテーマに、AIが作詞した歌詞をアンドロイドと人間が共に歌う楽曲を作り、そのMVとして渋谷という街の地上・地下のボーダーライン=地下空間を舞台に映像を制作することにしたんです。あまりない形態のコラボレーションだからあえてMVという定型に落とし込んだ方がいいと思って。その映像作品で、僕とアンドロイドのオルタ3と共演してもらうのは誰がいいかと考えていたところ、望未ちゃんがぴったりだなと思って、声をかけたんです。

――飯島さんはオファーがあった際、どのようなことを思いましたか?

飯島望未(以下、飯島):正直なところ、不安な部分もありました。私が主に踊っているのはクラシック・バレエで、伝統的な作品が多いんです。一方、渋谷さんは先進的なテクノロジーを使って、そういった伝統的なものを踏まえつつそこからは1歩踏み出した芸術作品を生み出してる人だから、「果たしてうまく融合できるかな……」と思ったんです。私はコンテンポラリー・ダンス作品を踊ることもあるんですけど、それともまた違うものですし。でも、渋谷さんがやっている作品には興味や憧れがあったので、不安以上に「やりたい!」という気持ちが大きかったですね。

渋谷:クラシックだけじゃなく同時にコンテンポラリーもやっているのも、望未ちゃんがいいなと思った理由の1つ。僕がパリに住んでいた頃、あっちで最初にやった仕事がオペラ座とパレ・ド・トーキョーのコラボレーションで、その時にオペラ座のバレエ・ダンサーのジェレミー・ベランガールと仲良くなったんです。彼もクラシック・バレエとコンテンポラリー・ダンスを両方やる人なんだけど、やっぱり基本的なメソッドができていて、ちゃんと動ける。僕も、普段全然意識しないけどベースにあるのはクラシックというか西洋音楽で、そこにエレクトロニクスやアンドロイドのようなテクノロジーが介在している。それもあって、(クラシックもコンテンポラリーも)両方同時にやってる人は、僕としてもやりやすいというか、しっくりくるんです。

――飯島さんは過去にインタビューでウィリアム・フォーサイスがお好きだとも仰っていましたね。

飯島:そうですね。ヒューストン・バレエにいた頃に、『精密の不安定なスリル』と『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』、『アーティファクト』を踊っています。先ほどの渋谷さんのお話にあったように、フォーサイスもまたクラシック・バレエの動きを根底にしつつ、新しいムーブメントを開拓した振付家なので、そういった意味でも彼の作品が好きです。

渋谷さんがクラシックを通っているというのは、作品を聴いていても伝わってきます。ピアノ曲ではもちろんですけど、電子的なサウンドの楽曲でも無機質な感じではなくて、とても心に刺さる。今回、渋谷さんの音楽で初めて踊ってみて、「意外に踊りやすい!」って思ったんです。それも、クラシカルなものが根底にあるからなのかなって。

渋谷:「踊りやすい」っていうのは撮影の時も言ってたよね。

飯島:音楽に乗せられて体が動いたというか、気持ちよく踊れましたね。

音楽家にとってのダンス・舞台芸術、ダンサーにとっての音楽という存在

――渋谷さんは音楽家としてオペラ作品も手掛けており、ダンスやパフォーマンスにも関わっています。そんな渋谷さんから見て、バレエや舞台芸術の魅力はどんなところにありますか?

渋谷:まず、色々な芸術のハブになり得ること。100年くらい前に音楽を(エリック・)サティ、(パブロ・)ピカソが衣装と美術、(ジャン・)コクトーが脚本をやった『Parade』とかあったじゃないですか。僕も、10年前に初音ミクのオペラ作品『THE END』をやった時に、当時「ルイ・ヴィトン」のデザイナーとしてモード界を席巻していたマーク・ジェイコブスが初めて2次元のキャラクターの衣装をデザインするのはおもしろいと思って、彼にオファーしたんです。1つの作品に集ってコラボレーションができるのは、舞台芸術のおもしろいところですね。あと、やはり身体の動きを想像することで音楽的に触発されることは当然あります。

あと、僕はフィリップ・グラスの作品にもあるような、ピアノとダンサーの1対1のパフォーマンスもすごく好きで。いつかそういうのもやりたいなって思ってます。

――では、飯島さんにとって音楽はどのような存在でしょうか。

飯島:クラシック・バレエにとって音楽の力は絶対的なものだと思います。だから、音楽が何か奏でられることによって体が自然と動き出すことがほとんどです。

渋谷:クラシックやっているダンサーって、みんなそう言うよね。さっき話したジェレミーも、オペラ座で一緒に作品制作してる時に「10秒全く動かないで固まってて」って言ったら、「それはできない」って返されて。不思議というか、やっぱり身体的な訓練っていうか習慣、癖はすごく強いんだよね。

飯島:確かに、それが振り付けであればできても、即興だと、ちょっと難しいんですよね。やっぱり、いかに音楽が私たちにとって必要不可欠かっていうのはありますよね。

即興という営為、アンドロイドとの共創関係

飯島:渋谷さんは昔から即興をよくやってたんですか?

渋谷:僕が一番最初に人前で即興をやったのは、学生時代にレストランでピアノ弾きのバイトをしてた時かな。 いつも楽譜を持って行ってたんだけど、楽譜って重たいから、バイトが終わった後に遊びに行く時に邪魔でさ(笑)。それである時、楽譜を持たずに即興で演奏してたんだけど、誰もそれが即興だと気付かないというか文句も言われなくて(笑)。「これでいいんだ」と思って、そこからはずっと即興でピアノを弾いてた。「今の曲はなんですか?」とか聞かれると困ったりしながら。それで、初めてコンサートで人と一緒に即興演奏をしたのは大尊敬していた高橋悠治さんで、 我ながら度胸あったなと思う。今では人間相手だけじゃなくて、アンドロイドとも(即興を)やってるけど、すごくおもしろくて。

飯島:人とアンドロイドとやる時の、一番の違いってどんなところだと思いますか?

渋谷:アンドロイドと即興をすると、自分の演奏が悪いと(アンドロイドは)それについてくるから、全体として良いものにならない。まず自分の演奏が良くないと駄目。あと、自分が好き勝手にやっても駄目で。アンドロイドもこっちの流れから脱線して歌い始めたりもするから、それについていったり。人間とやる時よりも、もっと協調していかないとおもしろいことにならない。そうするとお互いどんどん良くなるから、あっという間に時間が経っちゃう。

――飯島さんは今回の作品でオルタ3と共演されましたが、振り返ってみていかがですか?

飯島:渋谷さんが今お話ししていた、アンドロイドと即興する時の感覚に近いものを感じました。オルタ3も踊っていて、一緒に踊る時に、自分が感じている身体感覚を向こうに協調させていくというか……。そうやってオルタ3に動きを合わせていく中で、「今、オルタ3と感覚がつながっているかも?」と感じる瞬間があったりして。それは私の錯覚なのかもしれませんけど。

渋谷:いや、オルタ3と望未ちゃんの動きがシンクロしてる瞬間が本当にたくさんあって、どのテイクを使うか迷うくらい、いいものが撮れてた。

飯島:ありがとうございます。難しいところもありましたけど、とても刺激的で楽しい経験でした。

芸術における伝統的なものと、テクノロジーの在りよう

飯島:今日は渋谷さんにすごく聞きたいことがあって。渋谷さんが作品にアンドロイドを用いる理由を教えてもらいたいんです。私は人間だけでつくる伝統的なバレエをやっていて、渋谷さんがやっていることはそのちょうど反対の際にあると感じているので、その意義や必要性を知りたいし、学びたいんです。

渋谷:バレエでもオペラでも、とにかく人間が中心になってるじゃない? その人間中心主義というのは西洋の特徴的な思考、制度なわけで。例えばクラシックの歌手とか演奏家とか演じる側の人はそこで競うしかないかもしれないけど、僕は作曲家だから、西洋の形式・制度に従っていても、その枠組みを超える作品を作ることができないし、結局のところ西洋人に勝てない。僕がやってるような音楽はどこまでいっても西洋音楽がベースにあるから。「じゃあどうしようか?」って時に、これまで琴や尺八を使う作曲家達もいたわけだけど、それは装飾とかアクセント的なものとしてしか機能しないから、もっと根本的に違うことをやらなくちゃいけないとずっと思ってた。

だから、今から10年くらい前にさっき話した『THE END』という、オペラだけど指揮者もオーケストラもいないし、歌手もいなくて舞台映像だけがあり、初音ミクが歌う「人間不在のオペラ作品」を作ったのね。重要なのは、それをレスタティーヴォとかアリアとか、伝統的なオペラの形式に則った上で、パリのシャトレ座という通常のオペラもできる劇場でやることで、そのコントラストが現代だと思った。そのギャップは、日本人だからこそできる戦い方かなと思って。それを経て、「人間不在の芸術」で次に何がやれるかを考えて出てきた答えが、アンドロイドを使うことだった。

飯島:なるほど。そういう経緯でアンドロイドにたどり着いたんですね。

渋谷:中心にいるのが、人間じゃなくてアンドロイドの歌手や指揮者になった時に、人間の側がどう変わるのかという問題提起でもあるし、実際に社会の中で人間がテクノロジーに使われていることのメタファーだったりもする。人や社会のリアルの閾値って変わっていくし、2018年に最初にアンドロイド・オペラをやった時に比べて、今はその感覚がもっと伝わってるって感じるね。

飯島:あと単純に、アンドロイドの存在ってすごくキャッチーで、人を引きつけるところがありますよね。

渋谷:同時に、気持ち悪いじゃん、少し。僕は、気持ち悪さとか怖さって、表現や芸術においてすごく重要な要素だと思ってる。

飯島:確かにそうかもしれません。まさに『Scary Beauty』(※編注:渋谷による2018年初演のアンドロイド・オペラ作品)というか。

渋谷:そうそう。あのルックスで感動的な歌を歌ったら、ざわざわするよね。その「感じたことなさ」が重要だと思ってて。

――先ほどお話しされていたように、飯島さんはコンテンポラリーも踊られていますし、モデル活動などファッション方面でもご活躍されています。そのような飯島さんが、伝統やクラシック・バレエというものにどのように向き合っているのか、改めてお聞かせください。

飯島:私は、コンテンポラリー・ダンスも好きだし、ファッションも好きで色々やらせてもらっていますけど、私にとって、第一にあるのはクラシック・バレエなんです。クラシック・バレエという伝統、変わらないものを守るために、少しずつ自分の活動や気持ちを変えてきたところがあって。

――以前のインタビューで、日本でクラシック・バレエをもっと幅広い層のお客さんに見ていただきたいとお話しされていました。

飯島:そうですね。日本だと、アートや演劇、ファッションなどに関わっている人でも、バレエを観たことがない人が多くて。アメリカやヨーロッパに比べると、バレエを観る人、知ってる人の数が少ないと感じています。向こうは、教育として子どもを美術館に連れて行ったり、バレエや舞台を観劇させたりする文化があるので、そういう違いも影響しているのかもしれませんけど。あと、日本ではまずダンサー個人の人柄だったりを好きになってファンになってくださって、そして作品を観に劇場に足を運ばれる方が多いと感じています。

渋谷:いわゆる「推し」みたいな。

飯島:そうそう。だから、自分がメディアに出たり色々やったりして、それがたくさんの方にバレエを観に来てもらうきっかけになればいいなって。バランスは難しいし、やり方はきちんと考えなきゃいけないけど、まずはバレエを知ってもらうことが大事だし、そういう活動は今後も続けていきたいと考えています。

アンドロイドやAIが社会に浸透してきた今だからこそ生まれた表現

――渋谷さんは飯島さんとコラボレーションされてどう思われましたか?

渋谷:新しいテイクを撮る時も、なんとなく惰性でやるんじゃなくて、明確に前回との違いを作ったり、ロジカルに考えて踊っているのが印象的でした。自分のことをメディアとして見ているというか、自分の身体をどう使うかを俯瞰的にコントロールできているし、勘所を掴むのも早くて。

こういう本格的な映像作品で新しいことやるの、今回が初めてだよね?

飯島:初めてですね。反響が楽しみです。今回の作品を楽しんでほしいですし、初めて私を知ってくださった方がバレエやダンスに興味を持ってくださると嬉しいですね。

渋谷:反響というところでは、未来の反響も楽しみなんだよね。今回のプロジェクトもそうだけど、僕が今やっていることは、AIやアンドロイドが人々の生活に入ってきている時期だからこそ可能な表現だと思っていて。例えば30年後にこれを見た人がどう思うか、すごく興味がある。

飯島:それは気になりますね!

渋谷:芸術というのは大体そういうものなんだけど、特にアンドロイドのことをやっていると、時間が生むギャップが強烈になってくる。この作品も、世界が終わる頃に「この時、人類はこんなことをやってたんだ」っていう記録としておもしろいものになってればいいなと思う。

■「BORDERLINE」
・作曲:渋谷慶一郎
・作詞:Cypher (AI)
・ヴォーカル:アンドロイド・オルタ3、Stephanie Poetri (88rising)
・映像出演:渋谷慶一郎、アンドロイド・オルタ3、飯島望未
・オルタ3製作監修:石黒浩
・オルタ3プログラミング:今井慎太郎
・GPT-3 プログラミング:池上高志
・コレオグラフィ:小㞍健太

渋谷慶一郎が映画作品『ホリック xxxHOLiC』(監督:蜷川実花、主演: 神木隆之介×柴咲コウ)に書き下ろした全21曲を収録したアルバム『ATAK025 xxxHOLiC』を発表。

渋谷慶一郎
東京藝術大学作曲科卒業、2002年に音楽レーベル ATAKを設立。作品は先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる。2012年、初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を発表。2018年にはAIを搭載した人型アンドロイドがオーケストラを指揮しながら歌うアンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』を発表、日本、ヨーロッパ、UAEで公演を行なう。2020年に映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当し、第75回毎日映画コンクール音楽賞、第30回日本映画批評家大賞 映画音楽賞を受賞。
2021年には新国立劇場にて新作オペラ作品『Super Angels スーパーエンジェル』を世界初演。2022年3 月ドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽 声明、UAE 現地のオーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』を発表。
4月には蜷川実花監督の映画「xxxHOLiC」の音楽を担当。8月にはGUCCIのショートフィルム「KAGUYA BY GUCCI」の音楽を担当。人間とテクノロジー、生と死の境界領域を作品を通して問いかけている。
http://atak.jp
Photography Mari Katayama

飯島望未

飯島望未
K-BALLET COMPANY プリンシパル。大阪府生まれ。6歳からバレエを始める。2007年ヒューストン・バレエ団研修生、翌年16歳最年少で入団。19年3月、同団のプリンシパルに昇格。主なレパートリーは『白鳥の湖』のオデット/オディール、『ロミオとジュリエット』のジュリエット、『マイヤーリング』のミッツィ・カスパー、『ジゼル』のタイトルロール、『シルビア』のタイトルロール、『くるみ割り人形』の雪の女王/クララ/金平糖の精、『眠れる森の美女』のリラの精/フロリナ王女、スタントン・ウェルチ振付『マダムバタフライ』のスズキ、『マリー』のマリー・アントワネットなど。その他多くのケネスマクミラン、ウィリアム・フォーサイス、イリ・キリアンやスタントン・ウェルチ作品などで主要パートを踊る。また、様々なコンテンポラリー作品にも多数出演。2019年7月、熊川哲也が総合監修を務めたBunkamura30周年記念「オーチャードバレエガラ〜JAPANESE DANCERS〜」に出演。2019年、シャネルビューティーアンバサダーに就任。2021年に帰国し、5月にKバレエ カンパニー『ドン・キホーテ』にゲストで主演。同年8月、プリンシパル・ソリストとして入団。2022年3月プリンシパルに昇格。
K-BALLET COMPANYオフィシャルサイト:https://www.k-ballet.co.jp/
Instagram:@nozo0806


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大阪に誕生した「世界初のアンドロイドと音楽のラボラトリー」の可能性 :連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第6回 https://tokion.jp/2022/06/23/massive-life-flow-6/ Thu, 23 Jun 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=122344 連載第6回では、渋谷が客員教授として運営に携わる、大阪芸術大学アートサイエンス学科内に開所した「Android and Music Science Laboratory」の開所記念イベントのレポートをお届けする。

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領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探る連載「MASSIVE LIFE FLOW」。第6回では、今年4月に大阪芸術大学アートサイエンス学科内に開所した「Android and Music Science Laboratory」(アンドロイド・アンド・ミュージック・サイエンス・ラボラトリー)の開所記念イベントのレポートをお届けする。

同ラボラトリーの開所に際して渋谷は同学科の客員教授に就任。これまでの作品のコラボレーターであるロボット研究者・石黒浩、電子音楽家・今井慎太郎とともに、アンドロイドと音楽をめぐるさまざまなプロジェクトを同ラボラトリーにおいて展開していくという。「世界初の音楽とアンドロイドのラボラトリー」の実態と可能性に迫る。

アート&テクノロジーの未来を照射する研究所が大阪芸大に誕生

左から:オルタ4、ロボット研究者・石黒浩、大阪芸術大学アートサイエンス学科学科長・萩田紀博、音楽家・渋谷慶一郎、電子音楽家・今井慎太郎、建築家・妹島和世 Photography Kenshu Shintsubo
左から:オルタ4、ロボット研究者・石黒浩、大阪芸術大学アートサイエンス学科学科長・萩田紀博、音楽家・渋谷慶一郎、電子音楽家・今井慎太郎、建築家・妹島和世 Photography Kenshu Shintsubo

1970年の大阪万博において、米国の前衛芸術集団のE.A.T.(Experiments in Art and Technology)がプロデュースを手掛けたペプシ館や、武満徹と宇佐美圭司が監督・演出を務めた鉄鋼館の「スペースシアター」、山口勝弘や一柳慧らが参加した三井グループ館などに代表されるように、アートとテクノロジーは1つの幸福な結実の在りようを見せ、そこで提示されたヴィジョンやアウトプットがその後のクリエイティブシーンに多大な影響を与えたことはよく知られている。

それから半世紀余りを経て、3年後に2度目となる万博の開催を控える大阪の地に、表現と先進技術の新たな未来を照射し得る画期的なラボラトリーが誕生した。

それは、大阪芸術大学のアートサイエンス学科内に開所した「Android and Music Science Laboratory」(アンドロイド・アンド・ミュージック・サイエンス・ラボラトリー:以下、AMSL)であり、「世界初の音楽とアンドロイドのラボラトリー」と銘打たれ、本連載の主役である音楽家・渋谷慶一郎、渋谷のアンドロイド・オペラ作品で「主演」を務めてきたアンドロイドのオルタ・シリーズの開発者であるロボット研究者・石黒浩、渋谷の『Super Angels』(2021年世界初演)以降の作品でオルタの音声・歌唱から動作に至るまでのシステム開発を担う電子音楽家・今井慎太郎の3名が運営を担っていくのだという(以前から同学科の客員教授を務めていた石黒に加え、渋谷と今井がラボラトリーの開所に際してこの4月から同学科の客員教授に就任)。

その実態と可能性を確かめるべく、4月の終わりに催されたラボラトリーの開所式典と渋谷による記念演奏会へと足を運んだ。

シリーズ最新アンドロイド・オルタ4と音響機器がセットアップされたSFのような空間

Photography Kenshu Shintsubo

大阪芸術大学のアートサイエンス学科は、アートとサイエンスを融合させた領域横断的な研究・教育を行い次代を担うクリエイターを育むことを目的として2017年に新設され、ロボットとアートの融合について研究・実践を重ねてきた萩田紀博が学科長を務める。同学科の拠点となる校舎は、日本屈指の建築家であり同学で客員教授を務める妹島和世の設計によるもので、オーガニックな曲線美と360度のガラス面の開口が印象的な開放感あふれる空間となっている。

ラボラトリーが位置するのは、そんな校舎の地下1階。エントランスホールを抜け階段を降り、同ラボに足を踏み入れてみると、妹島が内装から什器に至るまでデザインを手掛けたミニマルな空間に、オルタ・シリーズの最新型であるオルタ4が、ピアノ、シンセサイザーとともにセットアップされ、悠然とした動きと表情をたたえながらこちらを見つめていた。

日常的な想像力の閾値を超えた光景を前にSF作品の1シーンに入り込んだような感覚すらも覚える中、改めてこの空間の主役であるオルタ4にじっくりと目を向けてみる。
これまで渋谷の過去作品などで幾度もオルタ・シリーズを目にしてきたが、オルタ4を前に感じたのはその表情と動きのさらなる豊かさだ。当日配布された資料によれば、オルタ4は従来機よりも表情筋の可動域が増え、舌の動作が強化されたことにより、これまで以上に豊かな表情をつくることが可能になったのだという 。
また、全身の強度が増し関節数も43から53に増え、よりダイナミックな表現も行えるように。ますますの自由度を獲得したオルタ4は、ラボラトリーから今後生み出されていくプロジェクトへの期待感を高めずにはいられない際立った存在感を放っていた。

アート&テクノロジーにおける予定調和とつまらさなさを打ち破る

ラボラトリーでは、渋谷、石黒、今井の3名が中心となりオルタ4を主軸としたパフォーマンスやインスタレーション作品の制作を行っていくが、そのプロセスはアートサイエンス学科の学生達に公開され、学生達は自身のスキルに応じ見学や参加を行うことが可能とのこと。
世界水準のプロジェクトに参加していくことは決して容易ではないだろうが、アートとテクノロジーが交錯する領域の最前線において次代を切り拓くクリエイションが紡がれていくプロセスを共有する経験は、得難い学びや気付きをもたらしてくれる筈だ。

式典の前に行われたパネルディスカッションにおいて、渋谷はアートとサイエンス、或いはアートとテクノロジーの融合を謳うプロジェクトや作品は多々あるものの、つまらないものも決して少なくないとの指摘を行っていた。
その理由として挙げられていたのは、プロジェクトに関わる主体がアートの側もテクノロジーの側もそれぞれが己の専門性の裡に留まっていることが多く、その結果として生まれるアウトプットが極めて予定調和的になってしまうというもの。

職人的なこだわりを捨て去り自身の専門性を飛び越え互いの領域を侵食し合うことによって、その「つまらなさ」は打破できるのだと渋谷は言うが、それはまさに渋谷自身がこれまでの活動、作品において体現し続けてきたことであり、その横断性や知的蛮勇さは石黒と今井もまた持ち合わせているものでもある。
この場から生み出されていくプロジェクトの具体的内容についてはまだ知る術もないが、それがつまらなさや予定調和とは無縁であるということは確実に言えるだろう。

未来の可能性を存分に伝える、人とアンドロイドによる即興の「セッション」

関係各位によるテープカットを経てラボラトリーは遂に開所となった Photography Kenshu Shintsubo
関係各位によるテープカットを経てラボラトリーは遂に開所となった Photography Kenshu Shintsubo

式典において関係各位によるテープカットが行われラボラトリーは正式に開所となり、その後には渋谷とオルタ4による記念演奏会が披露された。
渋谷が自身のセッティングとして用意したのは、グランドピアノと1978年に発表されたアナログシンセサイザーの名機・Prophet-5(プロフェット5)が2020年に最新型として改良、発表されたRev4。

グランドピアノを弾く渋谷と「即興」で歌うオルタ4 Photography Kenshu Shintsubo
グランドピアノを弾く渋谷と「即興」で歌うオルタ4 Photography Kenshu Shintsubo

渋谷はまずプロフェット5を用いて低音のドローンやアブストラクトなサウンドを奏で始める。するとオルタ4はその音に合わせてゆったりと身を揺らしながら、英語によるポエトリーリーディングを開始。そんなオルタ4の反応を確かめながら、渋谷は倍音豊かなベルサウンドやメランコリックなリードなど、緩やかに音色を変化させながらサウンドを展開していく。

そして、渋谷がパッドサウンドでハーモニーを奏でた時──、オルタ4は機械と人の間にあるような独特な声で、歌を歌い始めた。驚くべきは、この歌は事前にプログラミングされたものでは一切なく、あくまでこの今、渋谷のサウンドを「聴き」ながら、オルタ4自身が即興で生み出しているものであるということだ。
パフォーマンスの後半にかけて渋谷はグランドピアノの前に身を移し、現代音楽的なトーンクラスターから繊細でリリカルなフレーズ、ハーモニーまで多彩にサウンドを紡いでいくが、その中でもオルタ4は渋谷の演奏に完全に合わせて自在に歌で応えていく。

互いが相手のアウトプットに耳を澄ましそれに応じて音を繰り出していく様はまごうことなくセッションと呼べるものであり、事前にプログラムされたものとは異なる次元の緊張感や充実感を見る者に伝えてくる。
アンドロイドと音楽の未来の可能性を十二分に示し、記念イベントは幕を閉じた。

左から:石黒、オルタ4、渋谷。石黒は大阪・関西万博でテーマ「いのちを拡げる」のプロデューサーも務める Photography Kenshu Shintsubo
左から:石黒、オルタ4、渋谷。石黒は大阪・関西万博でテーマ「いのちを拡げる」のプロデューサーも務める Photography Kenshu Shintsubo

ラボラトリーが向かうゴールの1つには、3年後に開催を控える大阪・関西万博がある。
「いのち輝く未来社会のデザイン」の実現を目指す同万博には8つのテーマが設定されており、石黒はその内の「いのちを拡げる」のプロデューサーとしてさまざまな展示や企画を担当するが、そこではラボラトリーを拠点につくり上げるプロジェクトの成果も見られる予定となっている。

70年の万博で切り拓かれたアートとテクノロジーの地平がどのように更新されることとなるのか。渋谷、石黒、今井らにより3年後に描き出される創造と想像の新たな未来に、今から期待せずにはいられない。

■Android and Music Science Laboratory (AMSL)
客員教授:渋谷慶一郎、石黒浩、今井慎太郎、妹島和世(ラボ設計)

設計家具・内装:妹島和世建築設計事務所(担当 / 妹島和世、棚瀬純孝、降矢宜幸、原田直哉、松永理紗)
音響アドバイザー:清水寧
施工・建築:大成建設(担当 / 山浦恵介、松久峻也)
什器:空想舎、hhstyle.com (担当:渡邊淳)
カーテン:クリエーションバウマン(担当 / 中島昌史)
照明協力:ミネベアミツミ株式会社

アンドロイド製作:株式会社エーラボ
音響システム:久保二朗(株式会社アコースティックフィールド)

プロジェクトマネジメント:松本七都美(ATAK)
プロデューサー:内藤久幹

協力:株式会社ヤマハミュージックジャパン、ヤマハ株式会社、NATIVE INSTRUMENTS、ATAK

渋谷慶一郎が映画作品『ホリック xxxHOLiC』(監督:蜷川実花、主演: 神木隆之介×柴咲コウ)に書き下ろした全21曲を収録したアルバム『ATAK025 xxxHOLiC』を発表。

渋谷慶一郎
音楽家。東京藝術大学作曲科卒業、2002 年に音楽レーベル ATAK を設立。作品は電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる。代表作は人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』(2012)、アンドロイド・オペラ®『Scary Beauty』(2018)など。
2020 年に映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当、毎日映画コンクール音楽賞、日本映画批評家大賞映画音楽賞を受賞。2021 年8 月 東京・新国立劇場にてオペラ作品『Super Angels』を世界初演。2022 年3 月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、UAE 現地のオーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ®『MIRROR』を発表。人間とテクノロジー、生と死の境界領域を作品を通して問いかけている。
http://atak.jp
Photography Mari Katayama

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ドバイ万博、アンドロイド・オペラ®『MIRROR』世界初演を現地レポート:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第5回 https://tokion.jp/2022/05/08/massive-life-flow-5/ Sun, 08 May 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=114765 連載第5回では、今年3月にドバイで開催されたアンドロイド・オペラ®『MIRROR』のレポートをお届けする。

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領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探る連載「MASSIVE LIFE FLOW」。第5回では、今年3月にドバイで開催されたアンドロイド・オペラ®『MIRROR』のレポートをお届けする。

アンドロイド・オペラ®『MIRROR』は、渋谷慶一郎と、アンドロイドのオルタ3、真言宗僧侶の藤原栄善を筆頭とする仏教音楽・高野山声明(しょうみょう)家、そして現地UAEのオーケストラである「NSO Symphony Orchestra」という、異質な「他者」達が集い織りなす新作オペラ作品。同作は、もともと昨年12月にドバイ万博にてジャパンデーのメインプログラムとして開園が予定されていたものの、新型コロナウイルス オミクロン株の世界的流行を受け開催直前に中止と相なっていた。しかし、その後の渋谷の積極的な働きかけが奏功し、この3月、満を持してドバイ万博のジュビリーステージで世界初演を迎えることとなった。現地で同公演を見届けた小川滋が、その革新性と可能性を伝える。

アンドロイドのポエトリーリーディングと僧侶の声明、電子音とピアノの重なり合いから聴こえてくるもの

ドバイ万博、アンドロイド・オペラ®『MIRROR』世界初演を現地レポート
©︎ATAK. Photography Sandra Zarneshan

2022年3月2日、日没を迎えるドバイ国際博覧会(以下ドバイ万博)会場内、ジュビリーステージ。ここは野外フェス会場のようなリラックスした場所で、ステージ前には人工芝が敷かれ、野外用のクッションを思い思いの場所に移動して、くつろいで過ごす人の姿が見られる。しかし、この日は少しばかり空気が違っていた。急遽決定したアンドロイドオペラ®『MIRROR』の世界初演を目撃しようと集まってきた人達の予感が、周囲に薄い緊張を醸していた。

「Android is a mirror」―流れるエレクトリックな持続音を背景にアンドロイド・オルタ3のポエトリーリーディングで、オペラがスタートした。「Music is a mirror」―60BPMのビートが重なる。「It is a reflection of yourself」-1文ずつ、厳かに言葉を捧げるように続くと、仏教音楽のマスター、藤原栄善による声明が強いコントラストをもって立ち上がる。やがてすべてを覆わんばかりに響いたかと思えば、そこにオルタ3が問いかける-「What is the boundary between existence and non-existence? (存在と非存在の境界とは何か?)」

ステージ中央にはLED照明にぎらつく金属の身体と、能面のようだが人工皮膚の質感も生々しいアンドロイド・オルタ3。向かい合う壮麗な袈裟を纏った高野山から来た4人の僧侶。LEDスクリーンには、3Dスキャンされた彫像のような姿のオルタ3と藤原が映し出され、そこにオルタ3が発するテクストがインサートされる。渋谷とコラボレーションを重ねているビジュアルアーティストのジュスティーヌ・エマールによるビジュアルが感覚を揺さぶる。ステージでもアンドロイドと僧侶が対峙し、波の押し引きのうちに海が満ちていくようにパフォーマンスが進む中、ようやく渋谷がピアノを奏でる。「Let’s celebrate this new experience together(この新しい体験を一緒に祝祭しよう)」-オルタ3が祝福とショーの開始を告げる言葉を繰り返して、このオペラのタイトルにもなっている新曲「Mirror」が、高密度で重層的だが抑制の効いたピークを迎える。

現地のオーケストラが加わり織りなされる多層的で濃密な作品体験

45人編成のNSOシンフォニーオーケストラ ©︎ATAK. Photography Sandra Zarneshan
45人編成のNSOシンフォニーオーケストラ ©︎ATAK. Photography Sandra Zarneshan

滑らかにテンポが速まり、2曲目に移行する。渋谷の合図で動き出す45人編成のNSOシンフォニーオーケストラが、さらに情報量を加算する。しかし、4人の僧侶の存在感はオーケストラに全く引けを取らない。ベーストラックの上でテーマを反復しながらテンションを高めるオーケストレーションに、ピアノと声明が絡みあう別次元の音楽体験にオーディエンスがさらされる中でオルタ3が「Scary Beauty」を歌い始める。ジュビリーステージの開放感をものともしない、密度の高さに気持ちの高まりを抑えられない。まだ2曲目が始まったばかり、開演から7分しか経っていないのが信じられないくらいにアンドロイドオペラ®『MIRROR』は強烈だ。

この作品は、昨年12月11日にドバイ万博にて、ジャパンデーのメインプログラムとして実施を予定されていた。しかし新型コロナウイルス・オミクロン株の世界的な流行の懸念から経産省がジャパンデーを大幅に縮小したため、開催直前に中止となっていた。これを潔しとしなかった渋谷本人の情熱的な働きかけが実り、日本館主催のイベントとして復活し、この3月2日にドバイ万博のジュビリーステージで世界初演が実現することとなった。

(中止決定後、実現を訴えるための個人的なUAE渡航の様子はこちらの記事で →連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第4回

©︎ATAK. Photography Sandra Zarneshan
©︎ATAK. Photography Sandra Zarneshan

オペラを構成するのは渋谷慶一郎による楽曲、ピアノ演奏と電子音、アンドロイド・オルタ3の歌唱と自律的に生成されたテクスト(歌詞)、藤原栄善率いる4人の真言宗僧侶による1200年の歴史を持つ仏教音楽・声明、そして既に渋谷と共演実績のあるUAE現地のNSOシンフォニーオーケストラの演奏。歴史、文化、信仰、テクノロジーなど、時間的にも空間的にも実に多様な文脈が交錯する壮大、複雑でスリリングなプロジェクトであることは想像に難くない。港湾都市の歴史を背景に、ムスリム圏にありながら人口の9割以上を占める移住者との協調で活力を得るドバイ、中でも南アジア・中東・アフリカで初の開催となったドバイ万博会場で世界初演を行うことに、渋谷がこだわったであろうことも理解できる。

しかしもう1つ、あえてここに記しておきたい事がある。直前となる2月24日にロシアがウクライナに侵攻。チョルノーブィリ制圧と原子炉暴走の懸念、核兵器が選択肢という驚愕の発信、国際決済システム(SWIFT)からのロシア排除という壮絶な経済制裁、果ては原子力発電所への意図的な攻撃と、すさまじい速度で狂った創造性が可視化され、目を覚まされるような驚きの中でこの日を迎えた。事実、リハーサル中に上空を旋回する戦闘機の轟音に楽器を弾く手が止まった瞬間もあり、否が応にも五感の解像度が高まった状態で体験したアンドロイドオペラ®『MIRROR』がわずか30分にも関わらず如何に刺激に満ちていたか? それを想像していただきたい。

生命と非生命の境界を往来するパフォーマンス

ピアノを奏でる渋谷慶一郎 ©︎ATAK. Photography Sandra Zarneshan
ピアノを奏でる渋谷慶一郎 ©︎ATAK. Photography Sandra Zarneshan

「Scary Beauty」後のわずかなインターバルに会場から湧いた拍手を受けてオルタ3の存外軽妙なMC。これから歌う2曲の歌詞は「AIが、つまり、自分が書いた」というくだりでは自然と笑い声と歓声も湧いていた。しかしこれは笑い事ではない。1200年前に書かれた声明の仏経典をAIに学習させて出来上がった英語の歌詞をオルタは歌う。その歌が、元になっている4人の僧侶による声明を模倣し、即興的に重なることによって出来るハーモニーは比喩ではなく時空を超えている。続いての「今日ここで演奏できて嬉しい」という言葉も素直に聞き取れる。姿といい声音といいすでにオーディエンスは「アンドロイドのシンガー」に違和を感じなくなってきているようだ。

3曲目となる「The Decay of the Angel」の前後には、藤原とオルタ3が向かい合って歌を交わすシークエンスがある。独唱する藤原と向かい合うオルタ3。その声音は明らかに人ではないのに、何か惹きつけられる響きを孕んでいる。メカニカルな身体と手指は対話的な音楽に応じて繊細な動きを示す。実はここでオルタ3は、予めプログラムで確定した旋律を歌うのではなく、藤原の声明を聞いてリアルタイムに即興で歌を返しているのである。そのオルタ3をただひたすら受け入れ、見つめながら合掌して声を発する藤原。生命と非生命の境界を往来するかのような印象的なシーンだ。藤原はSNSにこう書いている。『アンドロイドと向き合って一身になるつもりで融合を目指して心込めて唱えさせて頂きました。』人がこの身体のままで成仏する、悟りを得て仏となること、即身成仏という概念が密教にはある。藤原にとって、合一する対象としてオルタ3も、仏像、曼荼羅も区別はなく、言ってしまえばいずれも大日如来の化身として同じ、と捉えられているのかもしれない。戯曲による役どころの設定ではなく、本心からオルタ3との同一化を求めている。そこに生まれる強さが、オルタ3の生命感を高めていることに疑いはない。その意味で、藤原は歌手として優れた能力を持つ声明の専門家であることを超えて、真言宗の僧侶としての資質がプロジェクトの本質に触れる不可欠な要素となっている。当の藤原にとってはいつもの修法と同様にこのオペラに臨んでいるだけなのかもしれないが。

(一方、オルタ3自体が目に見えないところで変更を重ねていて、特に電子音楽家、プログラマーの今井慎太郎の参加を得てから声や動きに生命感を増してきた経緯についてはこちらの記事で →連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」第3回

祝祭感と強度、可能性に満ちた30分間

©︎ATAK. Photography Sandra Zarneshan
©︎ATAK. Photography Sandra Zarneshan

「Scary Beauty」は2017年にアデレードで、「The Decay of the Angel」は2018年に東京で発表したアンドロイドオペラの定番ともいうべき楽曲である。だがこの日は、NSOシンフォニーオーケストラの1人ひとり大胆に強く鳴らす演奏、声明とのマッチアップ、さらにドバイ万博内の野外会場という場所柄も踏まえた祝祭感あふれる新しいアレンジと構成、大型のLEDスクリーンやムービングライトを利かせたステージ演出も相まっていつにもましてスペクタクルな展開となり、オーディエンスは驚かされることを楽しみ、時にライティングにぎらつくオルタ3はロックスターのようにも見えた。

最後となる4曲目は「Midnight Swan」。渋谷が第75回毎日映画コンクール音楽賞ほかの映画音楽のアワードを獲得した映画のメインテーマだ。導入でピアノとストリングスの奏でる抒情的な旋律に声明が重なる。LEDスクリーンに舞い散る桜のように見えたのはジュスティーヌ・エマールが藤原の寺院を訪れて3Dスキャンした外構空間のポイントクラウドデータによるグラフィック。ティンパニーの連打と共にテンポがあがり、オルタ3が自ら書いた詞を歌ううちに奔流のようにオーケストラ、ビート、ノイズといった要素が重なり一気呵成に情報量が増す。僧呂による満を持した大般若経の転読(厚い経典を頭上でばらばらっと捲るパフォーマンス)が繰り出され、叫ぶような読経と声明が、まばゆいステージを祝祭感で満たし、オーケストラ、ピアノ、オルタ3との絶妙なバランスを探る内に潔く演奏が終わる。その間際、僧侶が歌う声明が英語でプロジェクションされた。「May the world be peaceful(世界が平和でありますように)。この声明を選んだのは1年前だという。まさかこの言葉がこんなにリアリティを持つとは誰が予想しただろうか?そう考える間に、短いカーテンコールで驚くほどあっさりとオペラは幕を閉じていた。

アンドロイドオペラ®『MIRROR』の世界初演は、時間にしてわずか30分に満たないほどの短さだったがその時、その場所に居合わせることができたことを、永く記憶にとどめるに十分に値する濃密な体験だった。

期間限定で、フルサイズの演奏の様子が下記サイトから見ることができる。

Android Opera MIRROR
Concept, Composition, Direction, Piano, Electronics: Keiichiro Shibuya
Buddhist Music: Eizen Fujiwara, Yasuhiro Yamamoto, Jien Goto, Hoshin Tani
Orchestra: NSO Symphony Orchestra

Artists & Crew
Android Programming : Shintaro Imai
Visual: Justine Emard
Lighting: Go Ueda
Sound: Yuki Suzuki
Technical Management: So Ozaki
Project/Production Management: Natsumi Matsumoto

Production: ATAK
Organizing: Japan Pavilion

渋谷慶一郎が映画作品『ホリック xxxHOLiC』(監督:蜷川実花、主演: 神木隆之介×柴咲コウ)に書き下ろした全21曲を収録したアルバム『ATAK025 xxxHOLiC』を発表。

渋谷慶一郎
音楽家。東京藝術大学作曲科卒業、2002 年に音楽レーベル ATAK を設立。作品は電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる。代表作は人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』(2012)、アンドロイド・オペラ®『Scary Beauty』(2018)など。
2020 年に映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当、毎日映画コンクール音楽賞、日本映画批評家大賞映画音楽賞を受賞。2021 年8 月 東京・新国立劇場にてオペラ作品『Super Angels』を世界初演。2022 年3 月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、UAE 現地のオーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ®『MIRROR』を発表。人間とテクノロジー、生と死の境界領域を作品を通して問いかけている。
http://atak.jp
Photography Mari Katayama

Photography Sandra Zarneshan(©︎ATAK)
Edit Takahiro Fujikawa

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