小山守, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/mamoru-koyama/ Wed, 12 Oct 2022 12:38:23 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 小山守, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/mamoru-koyama/ 32 32 ザ・リバティーンズ『Up The Bracket』リリースから20年 ベースのジョン・ハッサールが語るこの名盤の魅力 https://tokion.jp/2022/10/14/interview-the-libertines-john-hassall/ Fri, 14 Oct 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=150221 ファースト・アルバム『Up The Bracket』がリリースから20周年を迎えるザ・リバティーンズのベーシストのジョン・ハッサールへのインタビュー。

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ザ・リバティーンズのメンバー。 左から、ジョン・ハッサール(ba.)、カール・バラー(vo./gu.)、ピート・ドハーティ(vo./gu.)、ゲイリー・パウエル(dr.)Photography Roger Sargen

ザ・リバーティーンズ
ピート・ドハーティ(vo./gu.)、カール・バラー(vo./gu.)、ジョン・ハッサール(ba.)、ゲイリー・パウエル(dr.)による4人組バンド。ザ・リバティーンズは、カール・バラーとピート・ドハーティという2人のカリスマ的フロントマンを中心に1997年に結成。デビュー・アルバム『Up The Bracket』(ザ・クラッシュのミック・ジョーンズがプロデュース)を2002年10月にリリース。2004年8月にリリースされたセカンド・アルバム『The Libertines』は全英1位を獲得。活動休止を経て、2015年にアルバム『Anthems for Doomed Youth』をリリースした。
Twitter:@libertines

ザ・リバティーンズが2002年に出したファースト・アルバム『Up The Bracket(リバティーンズ宣言)』がリリースから今年で20周年を迎え、20周年記念盤が10月21日に発売される。このアルバムは、2000年代初頭という時代に極めてシンプルでダーティーなロックンロールを表してみせ、当時起こったロックンロール・リバイバルの代表的存在の1つとなった傑作だ。今回の20周年記念盤はアルバム本編に最新リマスターが施され、限定ボックス・セットにはデモ音源やアウトテイク、ラジオ・セッションなど数多の未発表音源やライヴ映像などが収録されるという充実した内容で、この名盤の魅力をいっそう高めている。最近では「サマーソニック」で来日を予定していたものの中止になってしまったことが記憶に新しいが、それも含めてベーシストのジョン・ハッサールに話を聞いた。

ファースト・アルバム『Up The Bracket』について

——ザ・リバティーンズのファースト・アルバム『Up The Bracket』をリリースしてから20年が経ちましたけど、どう感じていますか。

ジョン・ハッサール(以下、ジョン):今感じているのは、すべて本当にあったことで、良かったことも悪かったことも全部受け止めて、ようやくそれが昇華されるような、カタルシスのような感覚ということかな。

——今回の20周年記念盤は、最新リマスターが施されていたり、ボックス・セットにはたくさんのデモ音源やラジオ・セッション音源、それにライヴ映像なども収録されるようで、かなり充実していますね。聴きどころはどこだと思いますか。

ジョン:デモ音源やラジオ・セッションはおもしろいと思うよ。このアルバムのサウンドがどうやって築き上げられていったかがわかるのは、すごく魅力だと思うし、それを聴くことでよりアルバムの理解が深まると思う。

——リマスタリングについてはどうですか。満足していますか。

ジョン:すごく満足している。リマスタリングという作業は複雑な部分もあるけど、今回の出来に関しては、これまでよりもエキサイティングに仕上がっていて、すごくいいと思っているよ。

——このアルバムは2000年代に起きたロックンロール・リバイバルの先陣を切った作品として、世界的に高く評価されたわけですが、当時はそういう評価に対してどう思っていましたか。

ジョン:すごく生々しくてリアルなサウンドのアルバムだと思っていたし、今でもそう思っている。音楽のハートというものが表現されたアルバムだ。そういうロックンロールをやろうとしたバンドが、当時は少なかったしね。自分達の誠実な気持ちを表現するということは、サウンドを完璧にすることよりも大切なことで、そう思って作ったアルバムなんだ。そこが評価されたということはすごく嬉しいことだったし、ベストな評価だったと思っている。当時はもっと洗練されたサウンドを作ることもできたけど、ちょっとした間違いとかノイズとかも入っているのが重要だと思うし、それは今の時代だってそうだ。それが逆に魅力とも思うんだよね。

——個人的にこのアルバムは、ピュアでみずみずしい初期衝動が漲っている、ダーティーでワイルドなサウンド、というところが魅力だと思います。こんなピュアなアルバムはあの時だからこそ成し得たものだと思うんですが。

ジョン:その通りだね。あの時代のあの瞬間のスナップ・ショットのような作品だと思う。だから2002年の自分達というものが映し出された作品だと思う。今、まったく同じスナップ・ショットを撮るのは不可能だし、まったく同じアルバムを作ることもできないと思う。だけど、自分達が今も変わらずにできることは、今の自分達のフィーリングだったり、今の自分達のまわりにあるものを捉えるということで、そういう姿勢そのものは変わらない。だからこれからの作品も、良くも悪くも今の自分達が映し出されるスナップ・ショットのような作品になっていくんじゃないかな。それは実はすごくエキサイティングなことで、これからの人生も音楽も進化し続けると思うし、新しい作品を作ることを僕は楽しみにしているんだ。

——リバティーンズのアルバムは枚数を重ねていくごとに変化していますし、今言われたような姿勢がサウンドに表れていますよね。

ジョン:これからピート(・ドハーティ)とカール(・バラー)がジャマイカで曲作りをやることになっているので、それでまたどんなものが生まれてくるかはわからないけど、次のリバティーンズがどういうものになるか、僕自身すごく楽しみにしている部分でもあるね。

——じゃあ改めて、ジョンさんにとってこのアルバムはどういう作品でしょうか。

ジョン:ファースト・アルバムっていうのは、ゲイリー(・パウエル)が言っていたんだけど、まるで美術館に入って最初に見る作品のようなもので、それですべての作品を見てみたい気持ちになる、それに似ていると思うんだよね。最初のアルバムなので、エネルギーや勢いや衝動がしっかり詰まったアルバムだと思うよ。

「バンドとしてこれまでで一番いい状態」

——ちなみに、リバティーンズはピートとカールという強烈な個性のフロントマン2人がいるわけですが、そこにジョンさんというとても物静かなベーシストがいるから、バンド内のいろんなことがうまくいっているように思えるんですけど、どう思いますか。

ジョン:やっぱりバンドが機能している理由というものがあるわけだよね。確かに、メンバーの性格もそうだし、全体のバランスもそうだし、うまくいっていると思うよ。それでそこから化学反応が生まれてくるわけで、それがうまく機能しているのなら、崩すべきではないと思う。どんなに大変な時期を一緒に過ごしていても、それはずっと守っていくべきものだし、お互いの存在に感謝すべきとも思うし、それを保って活動していくべきだと思うね。

——それを保つための努力もしているわけですか。

ジョン:それはやっぱりあるよね。バンドって恋愛関係とか夫婦関係に似た部分もあるからね。もちろん大変なことも葛藤もあったりする。それは誰かと一緒にいれば避けられないものだと思うので。そういうことを経験しながら、ずっと一緒にい続けることが大切だし、それを乗り越えれば自分達がより強く、よりハッピーになれると思うし、多くを学べると思う。

——今年のライヴ映像などを見ると、今のリバティーンズは音楽的にも人間的にもとてもいい状態だと思えますけど、実際のところどうですか。

ジョン:その通りだね。バンドとしてこれまでで一番いい状態だと思うよ。活動していてすべてのことを楽しむことができている。今は全員が、次のアルバムに向けて、興奮した状態でいられているからね。最近は真剣に次のアルバムのことを話すようになったしね。

——そのニュー・アルバムなんですが、最近のカールの発言によれば、コロナ禍で中断してしまっていたそうで、「ピートはフランス、ジョンはデンマークにいるから、移動できなくて作業が進まない」と言っていましたけど、今はそんなことはないんですか。

ジョン:いや、コロナについてはもう制限はなくなっていて、今はもうとりかかっているところだよ。ファースト・ステップを踏み出したところだね。

——例えば2015年にリリースした前作『Anthems for Doomed Youth(リバティーンズ再臨)』もあの時点での成長を感じさせる内容だったと思うんですが、今回もそうなると思いますか。

ジョン:そうだね、自分達もミュージシャンとしても人間としても成長しているので、それが反映されたアルバムにはなると思うよ。どういう風に変わるかというのは、まだ言えないんだけど。でも、その進化が反映された新しいサウンドのアルバムになると思うよ。

——もう1つ、今年の夏に「サマーソニック」で来日する予定だったのが、中止になってしまいましたね。日本のファンもとても残念がっていたんですが、これについてはどう思っていますか。

ジョン:すごく悲しく思っているよ。日本に行って「サマーソニック」に出ることは、今年の夏で一番楽しみにしていたことで、他のメンバーも全員そうだったと思う。だからすごくガッカリしたし、ファンのみんなをすごくガッカリさせてしまって、とても申し訳なく思っている。でも、できるだけ早くまた日本に行けるように、次回の来日をどうにか実現できるように、がんばるよ。

■『Up The Bracket』20周年記念盤
今回のアニヴァーサリー・リイシューにあたり、アルバム本編は最新リマスターが施され、世界4000セット限定のボックスには多数のオリジナル・デモ、ラジオ・セッション、ライブ録音を含む65もの未発表音源が含まれており、作品の制作過程を紐解くのに役立つほか、2002年の100クラブでのライブ音源や特典映像を含むDVDも収録。また、マット・ウィルキンソンのライナー、アンソニー・ソーントンによるバンドの最新インタビュー、多くの未公開写真などが掲載された60ページのブックレットが同梱され、シリアル・ナンバーが刻印される。また日本盤CDには解説および歌詞対訳が封入され、輸入盤CD / LPはライヴ音源が付属した2枚組仕様となり、数量限定レッド・ヴァイナルが同時リリースとなる。
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12862

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柴田聡子にとっての“弾き語り” そして新曲「雑感」で見出した新境地 https://tokion.jp/2021/11/26/singer-songwriter-satoko-shibata/ Fri, 26 Nov 2021 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=79434 シンガーソングライターの柴田聡子が語る、ギター弾き語りというスタイルと、これからのネクスト・ステージ。

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シンガーソングライターの柴田聡子が、ライヴ映像作品『柴田聡子のひとりぼっち’20 in 大手町三井ホール』を今年10月にリリースした。彼女の真骨頂といえるギター弾き語りスタイルで、初期の曲やレア曲、最新曲まで27曲を歌いまくった、現時点での集大成というべき重要作だ。思えば彼女の2020年とは、全国ツアーがコロナ禍で延期になってしまったため自宅からの配信ライヴを行ったり、その後のリアルな有観客ツアーや今回の大手町三井ホール公演など、“弾き語り”に特化したような1年だった。これを機に、彼女にとっての弾き語りということを中心に、新曲「雑感」や今後の展開も含めて話を聞いた。

──2020年の柴田さんは、結果的にですけど弾き語りのライヴが多くて、小編成のアコースティック・サウンドだったEP『スロー・イン』も含めて、弾き語りに回帰していた印象があったんですよね。

柴田聡子(以下、柴田):回帰したっていうよりは、弾き語りはもうずっとある、常にやっていることという感じなんですよね。アルバムこそバンド・サウンドが多くなっていましたけど、ライヴだと弾き語りがすごく多いんで。だから特に“今は弾き語りのモード”ってわけでもなかったです。ただ、5thアルバム『がんばれ!メロディー』(2019年)でがっつりバンド・サウンドをやったので、『スロー・イン』はちょっと小編成で作りたいなと思って、そういう心境は確かにあったかなと思います。

──アルバムでいえばバンド・サウンドが3枚続いていたわけで、そうなると飽きてきちゃうとか違うことがやりたくなるとか、あると思いますか。

柴田:飽きるっていうよりは、いっぱいやるとちょっと違う観点が自分にできてくる感じはあります。バンド・サウンドを持ちつつ、違うことも考えられるようになってくる感じがしていて。やり切った! とも全然思いませんし。それは時期とか、自分の私生活とか、全部合わさって、きっといろんな志向になるのかなっていう気がしますね。

──そもそも弾き語りって、柴田さんにとってどういうものだと思いますか。

柴田:弾き語りは、一番簡単にできるから始めたことで、それが大きいんですよね。まわりに友達がそんなにいなくて、一緒にやってくれるような仲間もまだいない時に、自分がやりたいなって思うことを、手っ取り早くかなえてくれたっていうか。ああギター1本で歌うことができるんだな、っていうところから始めたので。ほんとに始まりは“あったから”くらいの感じで、“やってみてから考えた”っていうものだと思うんで。でも今はちょっと違ってきていると思うんですけど、今は、なんですかね、なんだろう。

──例えば新曲の「雑感」は、リリースした音源はバンド・サウンドですけど、MVとして弾き語りの映像をアップしていますよね。あれは意地みたいなものを感じたりしましたけど。

柴田:意地というよりは、逆かもしれないですね。弾き語りだと、アレンジはかなり限定されてしまうから、ギター1本で私のやれることしかできないという思いがあって。でも曲自体がダイレクトに伝わるってあると思うし。あとギター1本で1人で歌っている姿って、おもしろいなって思うから。

そういうことが、私もやっていてやりがいがあるんですよね。1本でどこまでがんばって伝えられるかな、みたいなところが。そういうところで弾き語りを捉えてはいるんで。だからMVを出したのは、意地ではないですけど、どっちがいいとかじゃなく、同じ曲のいいところとか、推したいところとかを、伝えられたらいいな、って思って。

──じゃあ「雑感」をライヴで弾き語りでやる時と、バンドでリリースする時との違いってなんだと思いますか。リリース音源が完成形みたいな感じですか。

柴田:それはどっちも完成形だと思っていて。弾き語りだと、どうしてもバンド・サウンドと比べると少し足りない感じがすると思うんですけど、足りてる方が完成形とか理想形かというと、そうではなくて別物って感じですよね。

──『基礎からの柴田聡子』で山本精一さんが「柴田さんの歌は弾き語りが一番」って書かれていましたけど、個人的にもそう思っていて、1人だけでやるということ、その空間を自分だけの表現で満たしていくということが、最も合っていると思うんですよね。

柴田:それはあると思います。1人だけってけっこうすごい図ですよね。なにやってんだろって。不思議な図だよなっていうのはあります。音楽を楽しむとかとちょっと違いますよね。だからバンドとも比べられないし。

「自分の中にあるものをちゃんとやる」という思い

──今回の映像作品『柴田聡子のひとりぼっち’20 in 大手町三井ホール』はまさに全編1人だけなわけですけど、映像面でギターのアップだったり横からのショットだったり引いた画面だったり、すごく工夫して単調にならないようにしていますよね。

柴田:私も最初は大丈夫かなと思っていたんですけど、全然大丈夫でしたね。映像も驚異の7カメだったので、映像の人もこれはヤバいぞって思って、いける限りのアングルをいくしかない、ってちゃんと考えてくださっていて。照明もすごくバリエーションをつけてくれたし、そういう変化が付くように、最初からしてくれていたようで。これはもう皆様のおかげとしか言いようがないですね。

──アコースティック・ギターとエレキ・ギターを使い分けていますけど、これも単調にならないように、ということですか。

柴田:曲によって、アコギだとフォーク過ぎるなとか、そういうのを考えるようになって、変化を付けたくて、曲によって変えようかなって思うようになったんです。

──今じゃあまりやらないファースト・アルバムの曲とかレア曲とか、かなり幅広くやっていますよね。この時点での総決算みたいな感じがすごくしますけど、そういう気持ちがあったんですか。

柴田:そうですね。ツアーの前にやった“インターネットひとりぼっち”(自宅からの配信ライヴ)の影響が大きくて、(無料なので)見たい人は全部見られるタイプだったので、飽きさせずにやりたいな、楽しんでもらいたいなって思って。

これまであまりやっていなかったけど、今のセットリストに入れても、案外いい曲がありそうだなって。ちょっとスキルも上がってて、“あれ、歌えるようになってる!”とか。あの時って、コロナでつらい時期でもありましたよね。(2020年10〜11月の)ツアーもきつかったし。お客さんもやっぱみんな緊張していたし。絶対に気をつけるぞ! みたいな感じで。みんなが大変な時にやったので。それが自然と、総決算ムードというか、自分の中にあるものを自分もちゃんとやる、みたいな気持ちがあったのかもしれないし、そういう時期だったから、また新しい方に行くために、振り返ったようなところもあったのかもしれないです。

「歌って自由だから、かなりのことが許容されていることにも気付いた」

──この映像作品の最後に新曲として「雑感」が入っていて、今年10月に配信リリースもされたわけですけど、この曲は基本的に繰り返していく曲ですよね。

柴田:私は繰り返しから作っていくことが多くて、繰り返していくうちにメロディーを付けていったりするので。繰り返しを多めに採用して、歌として聴きやすいというか、体に入っていきやすいようにしたいなって思いましたね。

──繰り返しなんですけど変化もあって、Aメロ→Bメロ→Aメロ→Bメロときて、そこでCメロ→Dメロが入ってきて、最後にまたAメロに戻るじゃないですか。完全な繰り返しにしないで、CとDメロを入れたのはどうしてですか。

柴田:最初のABABまではけっこうハードな感じなんですよね。歌詞もハードで、コード進行もハードめだと思うんですけど、1回ちょっと救いが欲しいなと思って(笑)。ハード&タフっていうのが今回のテーマで、そういう曲にしようと思っていたけど、やっぱ人間そうばっかではいられない。自然を見に行くとか、海を見に行くとか、花を見に行くとか、ちょっと嬉しくなるような瞬間って、いつの時にもあるんで。常にハードでタフっていう状態はあんまりないなと思って。そういうのを入れておこうかって。

──確かにハード&タフという感じがすごくするんですけど、歌詞でネガティヴというか毒づいているというか、意地の悪さみたいな部分が出ていますよね。「あなたなんかにはきっと一生わかるはずない夢です」「私には私しかわからないことがあるんです」とか、人間関係における悪態というような。

柴田:歳を取っていくと、そういうモードってどんどんいらなくなるじゃないですか。持っていたとしても、人と付き合っていくうちに、いいところでもないなっていうか、あると全然うまくいかないみたいな。そこは別にしておけるようになるじゃないですか。毎日を過ごしていく上ではいらないな、っていうところ。

でも私は歳を取って、それが自然なんじゃないかとか、そういうところが自分なんじゃないかとか、分かってきて。逆に、ダメだな自分って思っていたりすればするほど出てくるっていうか。それが歳を取ってくると、そんなこと言ってられなくなるんですよね(笑)。自分ってダメって思っていることすらできなくなってくるんだなーって。「そこがイヤだなって思いつつ、そういうこともあるよね」って思ってやっている時は逆に隠してたから、歌にもそんなに出てこなかったと思うんですけど。最近はようやくダメだな自分っていう部分も受け入れられたんですよね。

──自分の中で整合性が取れたということですか。

柴田:そう。“そこはイヤだな”じゃなくて、“あるな”って思った瞬間に、自由自在に出せるっていうか。歌ってすごく自由だと思うから、そんなに嫌悪感を出すのは良くないと思うんですけど、それ以外ならば、すごくちゃんと考えていれば、かなりのことが許容されていることにも気付いたんですよね。むしろそこは積極的に検討していかないと失われていくなっていう気もしますし、見え方がつまらなくなってくるっていう気もしますし。だから、なんとなく勘が働くようになったのかな。

──それでそういう部分を抑えないようになったわけですか。

柴田:そうですね。特段悪いこととして、隠し通して生きていかなければいけないことだ、っていう感じではなくなってきた気はします。だから今回は、いつもは使うのをためらう言葉も、ちょっと使ってみよう、って感じですかね。

──メロディーが繰り返されることで中毒性がありますし、演奏もクールでありつつ熱を帯びている感じがしますし、全体としてすごく新鮮なんですよね。柴田さんの次の段階を示す曲とも思えますし。

柴田:そういう曲かもしれません。構成もポップスのことを考えたりしたし。構成は最近すごくよく考えるようになって、昔は自然とやっていたんで、珍しい構成になっていたりしたような気もするんですけど。大ヒット曲の構成ってけっこう決まっていたりするし、それを聴きつつ、構成に気をつけるなんていうのは、このところ始まったことかもしれません。サビらしいサビが作れないのが悩みなんですけど。

──2021年10月16日の日本橋三井ホールでの弾き語りライヴでは、新曲もかなりやっていましたよね。ニュー・アルバムも近いんじゃないかと思うんですが。

柴田:もう絶賛制作中で、そろそろ見えそうな感じはあります。ようやく自分の中で、できそう! って感じになりましたね。今までは、作ろうって感じはあったんですけど、全然できないわって思っていたのが、だんだんと、できそうだなって思ってきた感じ。バンド・サウンドは、『がんばれ!メロディー』の時よりもう少し整理が付いているかもしれないです。私の(メンバーへの)お願いの仕方もちょっと変わってきたので。『がんばれ!メロディー』の時は写真とか見せて、大喜利みたいな感じだったんですよね。でも今回はデモを作って渡したりとか、ほんとに音のイメージを共有するようになってきたので、ちょっと方針が定まっている感じがします。

柴田聡子(しばた・さとこ)
1986年北海道札幌市生まれ。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。大学時代の恩師の一言をきっかけに、2010年から都内を中心に活動を始める。2012年6月1stアルバム『しばたさとこ島』をリリース。2014年6月に2ndアルバム『いじわる全集』を、2015年9月に山本精一プロデュースによる3rdアルバム『柴田聡子』を発売。2016年6月、初の詩集『さばーく』を発売し、同年第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。2017年5月に4thアルバム『愛の休日』を、2019年3月に5thアルバム『がんばれ!メロディー』をリリース。2020年7月、EP『スロー・インをリリース。10月には延期となっていた「柴田聡子のひとりぼっち’20」の振替公演を開催(札幌公演のみ再延期)。2021年10月には「柴田聡子のひとりぼっち’20」千秋楽、大手町三井ホール公演がブルーレイ映像作品として発売された。
https://shibatasatoko.com
Twitter:@sbttttt
Instagram:@batayanworld
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UClJXO9c8uqJhIl3yZRlCT2g

Photography Rie Amano

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新世代を象徴する存在、諭吉佳作/menが語る“今” 「今日思っていることを明日も思っているかはわかんないです」 https://tokion.jp/2021/01/15/yukichi-kasaku-men-a-singer-songwriter/ Fri, 15 Jan 2021 06:00:06 +0000 https://tokion.jp/?p=16732 iPhoneで曲作りを始め、でんぱ組.incに楽曲を提供した、17歳の新世代シンガーソングライター諭吉佳作/menは今何を考えているのか。

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現在17歳のシンガーソングライター、諭吉佳作/men(ユキチカサクメン)。小学6年の時に作曲を始め、iPhoneアプリのGarageBandだけで楽曲制作を始めたことや、アイドル・グループのでんぱ組.incに楽曲を提供したことなどで、多方面から注目を集めている人だ。作り出される楽曲は、言葉そのもののインパクトを重視した豊かなイメージの歌詞世界、ストレンジなトラックメイキング、マナーを逸脱した曲構成など、全てが新鮮であり不思議な感覚に満ちあふれている。既成概念にとらわれない自由で軽やかなスタンスがあり、長谷川白紙、君島大空、崎山蒼志らとともにいわゆる新世代系の象徴といえるだろう。まだアーティストとしてはデビュー前の諭吉佳作/menに、“今”の話を聞いた。

──小学6年で曲作りを始めたそうですが、それ以前から音楽は好きだったんですか。

諭吉佳作/men(以下、諭吉):最初に自分で音楽を聴くようになったのは小学3〜4年くらいの時、ボーカロイドが好きになった時期だと思うんですけど。ただ自分はオタクなので(笑)、音楽がどうこうっていうよりは、その周辺のキャラクターとかのコンテンツ自体に惹かれていたのが大きくて。その時はそんなに音楽大好きってわけでもなかったんですけど、歌うのは好きでした。それで主にボーカルを聴くという態度で椎名林檎さんを好きになったタイミングがあって。それと音楽とは関係なく文章を書くのが好きだったので、音楽を作ってみたいと思ったのも、言葉を扱うことをしたかった、というのが最初のきっかけとしてありました。

──そこからどういうきっかけで、iPhoneで曲作りをするようになったんですか。

諭吉:音楽を好きになったタイミングと合ったんですよね。音楽じゃなくても、何か好きになったら自分で作りたくなる、っていうのがすごくあって、それがたまたまその時は音楽だったんです。最初は小6の頃に、それまで習っていたピアノをあまり弾けないなりになんとなく弾きながら曲を作り始めました。それで中学2年の時に地元のオーディション(K-mix主催「神谷宥希枝の独立宣言 ザ☆オーディション」)を受けることになって、そのために楽器が弾けないからDTM的なことをやるのが早いんじゃないかなと思って。でもパソコンがなくて、母が見つけてきたのがiPhoneのGarageBandで。その時に初めてGarageBandを触って、何もわからないけどとりあえず打ち込んでみて、という感じで作っていました。そのオーディションで、一緒に出ていたアーティストの方や崎山蒼志さんとかと知り合って、その辺のつながりで(地元の)静岡県内のいろんなライヴに出るようになったんです。だから成り行きみたいな側面が大きくて、音楽に決めた! っていうタイミングってなかったんですよね。

諭吉佳作/menはあくまで1つのアカウント的な存在

──2018年からSoundCloudにオリジナル曲を上げていくわけですけど、その頃には諭吉佳作/menの名前もついて、「音楽をやりたい」って感じになっていたんですか。

諭吉:……とは思っていなかったと思うんですよね。それ以前からTwitterなどにアカウントを持っていて、そのアカウント名をつけるのが好きだったんですよね。自分の好きなように名前をつけて、1つのアカウントとして存在できるわけじゃないですか。それがすごく感覚的になじんでいて。だから曲をアップし始めた時は、音楽をやりたいって気持ちはもちろんありましたけど、音楽家としてどうこうっていうよりは、諭吉佳作/menという名前として存在している1つのアカウントができた、みたいな感覚だったと思います。

──諭吉佳作/menと本来の自分とはイコールではない、ということですか。

諭吉:そうですね。どれが本当の自分とかじゃなくて、自分っていっぱいあるし、どんだけでも広がっていくような、そんな感じです。

──曲作りは歌詞から書いてメロディーをつけていくそうなんですが、イメージやテーマみたいなものがあって作るんですか。

諭吉: SoundCloudに上がっている曲は、テーマというか、なんとなく歌詞の内容に統一感があるというか、これについて書こうかなっていうのがあったりとか、もしくは後付けで、結果的にこういうことを言ってるっぽいな、みたいなのがあって。でもSoundCloudの中では一番新しい曲(2019年1月発表の「プロトタイプ-11」)以降の曲は、全くそういう感じじゃなくて。テーマがあった時は詞を先に書いていたんですけど、最近作っている曲はいろいろと同時にやっていて。歌詞は、「伝えよう」とか「こういうことを言いたいんだ」っていうのが全くなくなってきて、言葉のリズムや、自分がその言葉を言った時の感じがいいか悪いかとかを重視していると思います。

──歌詞は諭吉さんの脳内妄想の具現化というか、イメージの連鎖みたいに思えるんですけど、書く時にどんな感じで言葉が出てきますか。

諭吉:メロディーがすでにあったら、そのメロディーに合わせて……、その合わせての基準も、自分にとっては、「このメロディーにはこういうリズムでこういう言葉しかハマらないだろ」、みたいな感覚ができていて、それに従って作る感じです。例えば、メロディーに合わせて歌詞を作っている過程で、どうしても“ほろ”って言葉を使いたかった時があったんです。でも“ほろ”って言葉があるかどうかも知らなくて。“ほろ”って入力したら、札幌の“幌”って出てきて、調べたら一応意味があったんですね。意味があるんだったら使えるじゃん、みたいな感じで使っちゃうとか。だからほんとに発音の感じだけで決めて使っちゃう時もあります。

──“腎臓”とか“阿呆な桜桃”とか、いきなり異物感のある言葉が出てきたりしますけど、そういう、「この曲心地良いけど、なんか気持ち悪いぞ」、みたいな、ちょっと引っかかってほしいという気持ちはありますか。

諭吉:それはたぶんあると思っています。世の中にすでにある、自分が干渉していない文章に、なにかしら違和感を感じたりして、それが楽しいと思って言葉を好きになってきたと思うので。それを自分が作るものにも含ませて感じてほしいというのはあります。基本的にはやっぱり好きな言葉を使っていますし。

──その“違和感”って、言い換えるとグロテスクなものとか不穏なものとかってことですか。

諭吉:そういう時もあった気がしますね。でも今はそういう縛りみたいなものもないです。自分が好きだなと思う言葉を、特になんの順序もなく、好きな時に好きなものを出して歌詞に並べているだけだから。最初の頃は言いたいことがないなりに、曲を作るのであれば、言いたいことをひねり出してそれを歌詞にしなきゃいけないような気がしていたんですが、別にそうじゃなくてもいいかなって思って。歌詞の意味っていうよりは、言葉も音として聴いていて、こういう言葉を言うのって気持ちいいよねみたいな、早口言葉みたいな気持ちよさがあるよね、って聴き方ができるようなものを作れるのが楽しいな、の方に変わってきていますね。

「サビを作らないのも、自分らしいのかな」

──ちなみにでんぱ組.incに提供した3曲の中では、根本凪ソロ曲の「ゆめをみる」がすごく興味深いんですけど、いわゆるサビ部分がどれなのかよくわからないっていう、不思議な曲ですよね。

諭吉:自分の最近の曲もそうなんですけど、これがサビです、みたいなところを作るのが、あんまり上手じゃなくて。ヤマ場です! 盛り上げます! っていうのが、絶対に必要なわけじゃないよなと思っていて。1個目のAメロを作って、Bメロを作って、だいたいの曲だったらその次サビに行くのかもしれないけど、Bメロまで作って別にサビに行きそうじゃないなって思ったらCメロになって、っていう作り方がすごく多くて。根本さんと打ち合わせをした時に、「好きなように作ってください」ってお言葉をいただいたので、いつもの自分に近い作り方で作った結果、ああなった感じです。

──既存の構成だったらAメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→サビ→Cメロ…ってなっていって、ABサビってきたらまたAに戻るじゃないですか。でもこの曲って、ABCDE…って感じで行ったら行きっぱなしで戻らないんですよね。そういう既成概念みたいなものがないわけですか。

諭吉:そうですね。崎山蒼志さんと曲を作った時(2019年の「むげん・」)に、サビをお互い1つずつ作って、両方使って、最初と最後の部分もサビだとすると、サビが4種類くらいある状態になっていて。その時に、よくよく考えたらこういうことをしてもいいんだよなと思うようになって。もともと自分も「これはこうじゃなきゃ」みたいなことはそんなに考えないタイプなので、一番自然な形になればそれでいいと思っています。「ゆめをみる」を作った時は、流れにまかせるというか、こうでこうきたからこうきて、みたいなのは別になくてもいいよな、というのはあったと思います。

──諭吉さんファンも新作を待っていると思います。今後のリリースについては決まっていたりしますか。

諭吉:まだ決まってはいないんですが、頑張って制作しているので、待っていていただけると嬉しいです。

──最後に1つ、これからアーティストとしてどうありたいと思っていますか。

諭吉:自分がどうありたいかって、その都度変わっちゃって。自分でもよく、今日思っていることを明日も思っているかはわかんないですからね、って人に話すことがあって。自分で自分の在り方をコントロールしているようなところがあるから。その都度の考え方があって、「こうです!」っていうのが変わっちゃったりもするので。たぶんその都度、「今はこうです」っていうのがあったらいいし、そう思っている通りに行動できたらいいんじゃないでしょうか、みたいな感じ。あと、音楽もやれたらいいし、音楽以外のこともやれたらいいし、いろいろやれたらいいですね。

──いきなり音楽をやめるかもしれないし?

諭吉:……怖いですよね(笑)。音楽をやめたくはないんですけど、でも自分の考えが変わりやすいから……。でも音楽、がんばります。

諭吉佳作/men(ユキチカサクメン)
2003年生まれの音楽家。2018年、中学生の時に出場した「未確認フェスティバル」で審査員特別賞を受賞。インディーズバンド音楽配信サイト「Eggs」では年間ランキング2位を獲得。2019年6月、でんぱ組.inc「形而上学的、魔法」の楽曲提供を行い話題に。10 月に発表された崎山蒼志とのコラボレーション楽曲「むげん・」はYouTube80万再生を突破。坂元裕二作品「忘れえぬ 忘れえぬ」主題歌を担当。2020年11月ヒップホップバンドAFRO PARKERとのコラボレーション楽曲「Lucid Dream feat.諭吉佳作/men」を発表。音楽活動以外にも、執筆活動やイラストレーションなどクリエイティブの幅は多岐にわたる
https://soundcloud.com/yukichikasaku
Twitter:@kasaku_men
Instagram:@ykckskmen

Photography Yoko Kusano

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「他人と共有するよりも、自分が抱きしめていたい音楽」を目指す、田中ヤコブの“内向き”なポップ・ミュージック https://tokion.jp/2020/10/25/jacob-tanakas-introverted-pop-music/ Sun, 25 Oct 2020 06:00:38 +0000 https://tokion.jp/?p=9458 バンドの家主やギタリストとしても活動するシンガー・ソングライターの田中ヤコブが放つ、グッド・メロディー満載のニュー・アルバム。

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シンガー・ソングライターの田中ヤコブが、約2年4ヵ月ぶりのセカンド・ソロ・アルバム『おさきにどうぞ』をリリースした。彼はバンドの家主のメンバーであり、ギタリストとしてもnever young beachやラッキーオールドサンのサポートを務めるなど多方面で活動しているが、メインは宅録系のシンガー・ソングライターだ。特に今作は、彼のルーツであるビートルズ直系のみずみずしくエヴァーグリーンなメロディーが全編で冴え渡り、内省的な孤独感を漂わせる歌詞や練り込んだサウンドとともに、非凡な才能が存分に発揮された傑作といえるだろう。今回は彼の生い立ち、マイノリティ的な価値観、それに音楽活動に対する独自のスタンスなどを、たっぷり語ってもらった。

──音楽を好きになったのはお父さんの影響が大きかったそうですが、音楽的には恵まれた環境だったんですよね?

田中ヤコブ(以下、田中):そうですね。父が音楽好きだったので、ずっと家でかかっていた音楽を自分も聴いていて。主にビートルズ、ELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)、XTC、カーネーションとか。ビートルズと彼らから影響を受けた音楽がずっと流れていました。

──そういうビートルズの遺伝子を受け継いだような音楽が、ヤコブさんの音楽的な原風景というわけですか?

田中:原風景ですね。ポップ・ミュージックに対しての自分の土壌が、小さい頃から培われていた感じですね。楽器を始めたきっかけは、中学の時にTHE BLUE HEARTSを好きになったことなんですけどね。

──自分で曲を書くようになったのはいつ頃ですか。

田中:高校生の時です。もともとくるりが大好きで曲やコード・ワークに共感するものがすごくあって、彼らの曲は日本的なものが根底にあるような気がして。そういう表現を自分もやってみたいと思って曲を作るようになりましたね。

──その時点で自分に作曲の才能があるのかも、って自覚したりしましたか。

田中:それは全くないです。偉大な先人達の音楽ってものすごく陶酔できるものがあるんですけど、自分が作る音楽には陶酔できない感覚がずっとあって。自分がそれなりに納得できる曲を作れるようになったのは、ここ3〜4年くらいですね。

──自分が聴きたい曲を作りたい、って以前からよく言っていますよね。その気持ちは最初からあったんですか?

田中:理想はそうだったんですけど、そこに近づけないジレンマをずっと抱えていました。だから今までに100曲以上作っているんですけど、ほとんどはボツなんです。ファースト・アルバム(2018年の『お湯の中のナイフ』)を出す前に、6枚くらいフル・アルバムを作っているんですけど、どこにも出さないで、友達に配るだけで(笑)。だからファースト・アルバムは実質7枚目ということになるんです。そこまで習作を量産する過程を経て、ようやく人に聴かせても大丈夫な曲ができ始めたんですよね。

──大学時代にバンドの家主を組むわけですけど、ソロも並行してやっていて、その両方が現在まで続いていますよね。個人的にはヤコブさんってソロの人、宅録の人だと思うんですよね。バンドで自分の曲をやって世界が広がっていくという在り方もあるけど、それよりもソロの宅録で自分の内面に深く入っていくほうが本質ではないかと。

田中:そう言っていただけるのはすごく嬉しいです。バンドやサポート・ギターをやってはいるんですけど、やっぱりルーツは宅録で、自分は1人でやる人間だと思っています。そういう内向きというか、“個”に収斂していくっていうのは、自分が音楽を聴くスタイルと似ているような気がして。高校時代、僕は全然友達がいなくて、他の人達はみんなと共有できる音楽を聴いていたと思うんですけど、自分が好きな音楽は他人と共有できないっていうか、自分が本当に好きで抱きしめていたい音楽だったので、今もそういう姿勢でいたいし、ありたい。自分が作る曲も、他人と共有して楽しんでほしいっていうよりも、自分自身が抱きしめていたいものを作ろう、っていう気持ちがあるんですよね。あと高校時代、人間椅子にドハマりしていて。当時は今よりも鬱屈とした毎日を過ごしていたので、「面白くねえ……」みたいな気持ちがずっとあったんですけど、そういう時に人間椅子を聴くと、精神が落ち着くというか。他人に関係なく好きって言えるようなものが好きだったので。だから自分が開かれるより閉じているっていうのは、そういう経験からきているんだと思います。

──以前に「学校にギター・ケースを背負ってくるようなヤツは軽蔑していた」って言っていましたよね。それって“ケッ”みたいな、世の中にツバを吐く的な、マイノリティでありオルタナティヴってことだと思うんですよ。そういうメンタリティが根底にあって、でも音楽自体は聴き手を選ばない普遍性もあるところが、ヤコブさんのおもしろさだと思うんですよね。

田中:その“ケッ”っていうメンタルは、未だに高校の頃と変わらず、むしろ今のほうがそこから膿んできたような、良くない方向に肥大化しているような気がめちゃくちゃするんですけど(笑)。ただそれを売りにするほどのメンタリティもないというか、そこを主眼に置けるほど精神が強くないというか。だからそういう思いを、自分の好きなポップ・ミュージックに消化していく形が、自然とできてきたんですよね。

──今回の『おさきにどうぞ』は、さっき言ったようなビートルズ直系というか、厳密に言えばビートルズから影響を受けたXTCやELOからの影響を強く感じさせる、みずみずしくてエヴァーグリーンなメロディーがこれまで以上に際立っていますね。特に最初の曲(「ミミコ、味になる」)と最後の曲(「小舟」)がすごく明るくてキャッチーなメロディーですけど、どうやって作っていったんですか?

田中:作っている時に、じっくりと構造美的なものを求める時と、直感的にポンと出てきて作品としての強度も感じる時があって。最初と最後の曲は、わりとすんなり出きました。でもそういう時って「いやまてよ、こんなにツルッとできるってことは何かからパクッているんじゃないか」って不安になるんで(笑)、自分の脳内のライブラリーでいろんな曲と照らし合わせて、いや被ってない、これで大丈夫だ、って。そういう作業をファーストはもっと時間をかけてやっていたんですけど、最近は直感的に出てきたメロディーをもうちょっと信じてみよう、って気持ちになってきていますね。そういうヴァイブスを重視する余裕も出てきたのかなって。

──歌詞では例えば「膿んだ星のうた」で、「自由なんて欲しくないのに 何処へでも行けるんだよ だけど何処へも行けないんだよ」というあたりなどは、在宅自粛で時間はいくらでもあるけどどこへも行けない状況、とも思えたりしたんですが。

田中:これはコロナが流行る以前にできた曲で、逆にそういう解釈もできるんだなと思いました。本当に友達が全然いないので(笑)、仕事している時に土日を迎えても、誰からも誘われなくてやることないから、別に自由なんていらないのにな、みたいな。それで自由っちゃ自由だから、行こうと思えば旅行とか行けるし、働いているからお金もあるし、なんでもできるだけど、別に何もしたくならないしどこにも行けない、みたいな気持ちをそのまま歌詞にしました。

──コロナ禍によって、音楽活動で変化したところはあると思いますか?

田中:制作に関しては特に影響はないんですけど、精神的なところで思うのは、自分が家で1人で制作している時は当然うまくいかないことも多くて、それなのに社会は普通に動いている、っていうところに乖離というか噛み合わないところを常に感じていて。みんなは頑張っているのに自分は全然だな、みたいに思ってナーバスになることってよくあるんです。みんな休めばいいのに、って正直思うこともあったんですけど、逆にコロナが流行ってみんなが休まざるを得なくなると、それはそれで違う。やっぱり社会は動いていて、その中で自分が停滞している時のほうがやりやすいんですよね。

──マジョリティになっちゃダメってことですか?

田中:そうなのかもしれないです。みんなが動いていることへの焦りみたいなものから曲ができるっていうことはあったんだな、ということを自覚しましたね。

──ヤコブさんは音楽とは別に仕事をしていたそうですけど、音楽を仕事にはしたくないという気持ちはあるんですか。

田中:仕事になってしまうと、どうしても忖度っていうか、求めてくれる人に対しての音楽を提供する、みたいな形になると思うので、それがもし自分がやりたくないものだった場合には、やっぱりやりたくない。自分がやりたいもの、良いと思うものを作る姿勢は変えたくないので。だから仕事にすることよりも自由に動けることを大事にしたいです。

──もう1つ、ミュージシャンとして、目指すものとかこうありたいっていうものはありますか。

田中:自分は自分のことをミュージシャンとかアーティストとは全く思ったことがなくて。1人のただの人間、っていうイメージ。仕事をしている時も自分だし、音楽をやっている時も自分だし、バイクに乗っている時も自分だし。肩書きというか、自分を“何”ってはめ込まないように、むしろしているというか。逆にミュージシャンって自分で言ってしまうことにはすごく抵抗があって。趣味でやっているようなところがすごくあるので。便宜的にギタリストとかミュージシャンって言ってもらうことは全然ありがたいんですけど、自分から「私はミュージシャンです」とは、恐れ多くて言えない。何者でもないし何者でもある、みたいなスタンスでいたいですね。

田中ヤコブ
ギターをはじめ、ベースやドラムなどさまざまな楽器を演奏し、録音からミックス、イラスト、映像制作も手がけるシンガー・ソングライター。2018年にはトクマルシューゴ主宰のレーベル「TONOFON」からファースト・アルバム『お湯の中のナイフ』を発表。ソロの他、4人組バンド家主のフロントマン、ラッキーオールドサンやnever young beachなどのサポート・ギターも務める。

Photography Takuroh Toyama

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