草野虹, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kusanoko/ Thu, 16 Feb 2023 06:33:28 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 草野虹, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kusanoko/ 32 32 2022年のSpotifyのデータから考える「ヒットする音楽の傾向」 https://tokion.jp/2023/02/16/thinking-through-spotify-data-in-2022/ Thu, 16 Feb 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=167790 Spotify Japanの音楽部門担当・芦澤紀子に2022年のランキングについて聞く。

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世界で4億8900万人以上のユーザーが利用するオーディオストリーミングサービスSpotifyが発表した2022年のランキングをもとに、2021年からの変化、藤井風の世界的ヒット、日本のボーイズグループの台頭など、日本の音楽シーンの現状を、Spotify Japanの音楽部門担当・芦澤紀子に聞いた。

芦澤紀子
Spotify Japan 音楽企画推進統括。ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに携わった後、2018年にSpotify Japan入社。

——まずSpotifyとして2022年はどのような1年でしたか?

芦澤紀子(以下、芦澤):Spotify Japanがスタートしてから6年目を迎えた年でしたが、ストリーミング配信がより日本のマーケットに浸透してきて、音楽のみならずトークコンテンツなどを含めて関心もアクセスも集めたという実感がありました。その上で音楽を聴くだけでなく、さまざまなパートナーシップを通じて付加価値の高いリスニング体験をお届けできるようにも取り組んだ1年だったと思います。具体的な例としては、話題のアニメ映画とのコラボレーションがまず挙げられます。

——『呪術廻戦』『ONE PIECE FILM RED』『すずめの戸締まり』などがありましたね。

芦澤:そうです。特に『ONE PIECE FILM RED』と『すずめの戸締まり』は音楽に軸足を置いた作品ということで、公式プレイリストとして劇中音楽をお楽しみいただくだけではなく、映画の世界観をより深く楽しんでいただけるようなコンテンツ体験をお届けできるように注力しました。『ONE PIECE FILM RED』ですと、ルフィのキャラクターボイスや、再生中のスマートフォン画面に8秒間のループ動画が表示される「Canvas」、楽曲のストーリーを伝える画像+テキスト機能「Storyline」などを活用し、映画の世界を多面的にお楽しみいただけるようにアイデアを凝らしました。

『すずめの戸締まり』に関しては、「聴く小説・すずめの戸締まり」という初めての試みをさせていただきました。岩戸鈴芽役の原菜乃華さんが小説版『すずめの戸締まり』を朗読するという内容で、Spotify Music+Talk機能を使って全30回に分けて配信しました。映画公開1ヵ月以上前から予習コンテンツとして、日々このMusic+Talkを聴いて期待感を高めてもらえたらという意図で企画したのですが、公開後もたくさんの方に繰り返し聴いていただけて、とても好評でした。

——『すずめの戸締まり』の取り組みは非常に印象的でした。

芦澤:ありがとうございます。他の事例についてもお話しすると、Spotify Japan初の取り組みとしてビデオシングルシリーズ「Go Stream」を展開し、5組の国内アーティストに特別なパフォーマンス映像を撮り下ろしていただき、縦型ビデオシングルという形で配信しました。7月と9月の2回に分けて、ずっと真夜中でいいのに。、Vaundy、宇多田ヒカル、Mrs. GREEN APPLE、星野源の5組のアーティストに参加していただいたのですが、これまでのSpotify Japanの歩みを語る上で欠かせない5組と一緒にスペシャルな取り組みができたことに感謝しています。

2017年から続けている新進アーティストサポートプログラム、Early Noiseに関して言えば、2022年は数年前に選出した藤井風やVaundyの2人が大きく飛躍を遂げた1年でした。藤井風は2020年のアルバム曲「死ぬのがいいわ」が世界中でバイラルヒットし、トータル2億再生を突破、「世界で最も再生された国内アーティストの楽曲」年間ランキングで1位になるなど、目覚ましい活躍をみせています。Vaundyは話題のアニメ『チェンソーマン』のEDテーマ「CHAINSAW BLOOD」のヒットに加え、紅白歌合戦での衝撃的なパフォーマンスのインパクトにより、ストリーミングの世界を超えて、お茶の間レベルの存在へと活躍の場を広げています。

藤井風のヒットについて

——藤井風さんの活躍は本当に目覚ましいと自分も思います。この短期間でここまで再生数が伸びた楽曲はなかったんじゃないですか?

芦澤:単曲で2億再生を超える曲はいくつかありますが、わずか数ヵ月でここまで再生数を伸ばした楽曲は国内アーティストの中には見当たらないですね。リリース自体は2020年の楽曲ですが、火がついてからはすごく速いペースで再生数を伸ばしています。月間リスナーも1100万人を超えていまして、国内アーティストで月間リスナー1000万人を超えたというのは初めてだったのですが、前代未聞の速さでリスナーを世界中に増やしているという印象です。

——藤井風の「死ぬのがいいわ」がここまで大きくヒットしたのは、海外のプレイリストにも入っていたという部分まではわかるのですが、Spotifyの指標からみて、具体的にいつ頃からブレイクして、どのような動きをみせていたんでしょうか?

芦澤:まず2022年7月末にタイのバイラルチャートで1位を取ったのが最初の動きでした。突然1位を取ったということで、藤井風本人も当時Twitterで反応されていました。Spotify社内でも話題になったのですが、その後ベトナムやシンガポール、インドネシア、マレーシアといった東南アジア諸国のバイラルチャートでも次々に1位を取っていきましたね。

——しかもその週だけ上位にいて、翌週、翌々週にはランク外に落ちてしまうという動きではなく、長い間上位にランクインしましたよね?

芦澤:そうですね。7月末から9月までの数ヵ月に渡ってバイラルチャートの上位にランクインしていて、バイラルチャートを元にしたプレイリストにも入り、リスナーの裾野がさらに広がっていきました。最初は東南アジアを中心に広がっていき、次にカザフスタンやUAEなどの中東へと流れ、次は東欧からヨーロッパへ、さらに海を越えて北アフリカからアフリカ全土、ちょっと遅れたタイミングでアメリカ、中南米へと広がっていきました。途中からは同時多発的に世界中に拡散していったような印象です。Spotifyが毎日バイラルチャートとしてデータを集計している国や地域がグローバルチャート含めると74あるのですが、すべてのチャートでランクインし、うち23の国・地域で1位を獲得しました。

——もちろんですが、日本人のアーティストとしてはこのようなヒットソングは生まれてないですよね?

芦澤:Spotifyが2016年秋に国内でサービスを開始して以来、このような形でヒットになった楽曲は今までになかったです。われわれもちょっとビックリするほどの動きでした。

——最終的にはアメリカ・カナダなどの北米にまで波及していったわけですが、それはいつ頃ですか?

芦澤:アメリカのバイラルチャートで2位を獲得したのが9月16日、カナダはそれよりも早くて8月29日に1位を獲得しています。もともと日本のアニメやポップカルチャーに関心の高いリスナーが多い国のインドネシアやフィリピン、アメリカやブラジルなどで反応があるというのは納得できるのですが、アラブ諸国やアフリカ、カリブ海周辺の国々をも席巻したというのはちょっと驚きでしたね。

これまでですと「アニメとの関連性がないと日本の音楽は広まっていかないのではないか」という意見もありましたが、アニメという文脈がなく、しかも日本語で歌われ、タイトルすら日本語であったとしても受け入れられる可能性があるということを示した事例だったと思います。

——正直かなりイレギュラーなヒットに感じられますよね。

芦澤:もともとはMVも作っていなかったアルバム楽曲ですからね。実際聴いてみると、メロディは昭和的で歌謡曲っぽさも感じられますが、トラックはYaffleがプロデュースを務めていて、トラップっぽいビートになっている。昭和的で歌謡曲風なメロディに最新のサウンドプロダクションが合わさって、海外のリスナーにはすごく新鮮に聞こえたのかもしれないです。

——近年日本のシティポップが東南アジアを中心に広く聴かれているという一面がありますが、海外で聴かれているシティポップというと、メロディラインはどちらかという歌謡曲っぽさのあるメロディ、ヨナ抜き音階のものとかが多いと思います。もしかすると日本のシティポップに聴きなじみある海外のリスナーに、「シティポップじゃないけど歌謡っぽさがある現代風なサウンドの曲」という感じで刺さったのかな? と思えますね。

芦澤:シティポップにも通じる歌謡っぽいところが海外リスナーにとって新しく聞こえて魅力的という話はよく聞きますので、そういった受け取られ方や需要はおそらくあると思います。

男性シンガーソングライターのロングヒット

——一度国内に話を戻すのですが、藤井風さん、Vaundyさん、優里さん、Tani Yuukiさんらの男性シンガソングライターの楽曲が、2022年の「国内で最も再生された楽曲」「国内で最も再生されたアーティスト」で上位にランクインしていました。2021年にリリースされた楽曲が1年かけてのロングヒットとなった形なのですが、彼等に注目や人気が集まる理由はなんでしょうか?

国内で最も再生された楽曲
1. W / X / Y / Tani Yuuki
2. シンデレラボーイ / Saucy Dog
3. ベテルギウス / 優里
4. なんでもないよ、 / マカロニえんぴつ
5. ドライフラワー / 優里
6. 水平線 / back number
7. 残響散歌 / Aimer
8. 新時代 / Ado
9. きらり / 藤井 風
10. シャッター / 優里

国内で最も再生されたアーティスト
1. BTS
2. Official髭男dism
3. YOASOBI
4. Ado
5. 優里
6. Vaundy
7. back number
8. King Gnu
9. TWICE
10. Saucy Dog

芦澤:藤井風、VaundyとTani Yuuki、優里を一括りで語ることは難しいですが、ここ数年男性シンガーソングライターの楽曲がロングヒットを続けている背景には、コロナの影響が明らかに強くあると思います。コロナ禍で2020年からライブツアーやフェスが一旦止まってしまって、それまでは人気だったライブ会場で躍らせるような楽曲がリスナーに刺さりづらくなった。アーティストもステイホームの流れでライブやイベントに出演できず、自宅で制作した楽曲を動画投稿サイトに投稿する動きが加速、注目を集めるようになっていきました。2020年には、瑛人やもさを。など、弾き語り投稿から共感を呼んで、SNSで広まっていった男性シンガーソングライターの事例が目立ちます。     

Tani Yuukiや優里などはその頃から楽曲をリリースしていて、この動きとちょうどシンクロしていると思います。優里はTHE FIRST TAKEのステイホームバージョン、“THE HOME TAKE”で「かくれんぼ」を披露し、ここから大きくバズっていきました。

さらに2021年以降はコロナ禍が長期化していく中で、静かな弾き語りスタイルやアコースティックな楽曲だけではない、よりバリエーションや振れ幅をもった楽曲がヒットしていくようになりました。例えばTani Yuukiの「W/X/Y」は2021年5月にリリースされた曲ですが、ゆったりとしたヨコノリを感じられる楽曲で、それに合わせて振り付けして踊る動画がバズりました。

優里も弾き語りを感じさせる楽曲ばかりではなく、「ベテルギウス」など幅を広げた楽曲をリリースするようになり、THE FIRST TAKEを含めた動画投稿サイト、SNSを駆使した数々の施策も功を奏し、ストリーミングサイトでの再生につながっていったと思います。お気に入りに保存される回数や、短期間での再生数・リスナー数がグンと伸びると、Spotifyのアルゴリズム上ではレコメンドに繋がりやすく、公式プレイリストにリストインすることも多い。そういった波に乗ってリスナーを増やし、再生数も伸ばしていきました。

——しかも彼等の楽曲は、ラブソングを制作することが比重として多めなタイプだと思います。コロナ禍という世情も相まってよりヒットしやすい、刺さりやすいんじゃないか? と思います

芦澤:それも大いにあると思います。実はコロナ禍に入ってからSpotifyは若い世代により聴かれるようになっていて、「国内で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」でもトップに入った「令和ポップス」というプレイリストを見ると、ラブソングがとても多いんです。同じく最近人気を集めている「恋するプレイリスト」もZ世代に向けてラブソングを集めたプレイリストで、昨年から年間を通して展開しているんですが、さまざまなタイプのZ世代向けプレイリストがある中で「恋するプレイリスト」は特にとても反応が良いんです。

国内で最も再生されたSpotify公式プレイリスト
1. 令和ポップス
2. Tokyo Super Hits!
3. Hot Hits Japan
4. This Is BTS
5. 平成ポップヒストリー

——コロナ禍におけるインドア生活・自宅生活が増えたことで、人間関係や友達関係が築きにくくなったと思います。そもそものスタート地点が揺らいだことで、恋人関係・彼氏と彼女の関係性そのものが、それまでの時代に比べてもより理想的に見えたり、夢物語なものとして感じられるようになったんじゃないのかなと思います。恋愛というものに、よりロマンを見出してしまう状況になったといえばいいのかなと。

芦澤:加えて言えるのは、「気持ちを届ける・伝える」ということ自体も、会って話せばすぐに済むはずなのに、コロナ禍ではなかなか会えない状況ですし、「一緒に何かをする」ことも減ってしまった。それによって上手くいかない恋愛ソングが増えているのも印象的ですね。

——Spotifyの指標などから見て、女性のシンガーやシンガーソングライターの中から今後ネクストヒットを狙えそうな方は誰が挙がるのでしょうか?

芦澤:2019年のEarly Noise選出から始まり、これまでSpotify Japanが長くご一緒してきたずっと真夜中でいいのに。のACAねは、シンガーソングライターではないですが注目している女性アーティストです。さらに今年の「RADAR: Early Noise 2023」にはTOMOO、春ねむり、Furui Riho、LANAという4組の女性アーティストが入っていまして、それぞれがバックグラウンドや根差しているシーンは異なるものの、大きなポテンシャルを感じており、今後の活躍に期待しています。

ボーイズグループのファンダム

——日本のボーイズグループ・ガールズグループ、特にジャニーズではないグループからの影響力・ヒットが見えてきていると思います。K-POPからの影響も多分にあるとは思いますが、「国内で最もシェアされた楽曲」では彼等が大きく席巻しました。なぜ彼等の楽曲がシェアされやすいのでしょうか?

芦澤:コロナ禍前後からスタートしたオーディション番組を通して輩出されたグループがその中心を担っていて、BE:FIRST、JO1、INIなどが挙がります。彼等を見ていると、やはりファンの応援の仕組みが変わったと感じます。コロナ禍以前であれば、CDを購入して、購入者限定の特典をゲットしたり握手会などに参加する、もしくはファンの間で大量に購入することで、オリコンやビルボードなどのヒットチャート上位に彼らをランクインさせたいというのがあった。さらにファンクラブに入会してライブ会場にも積極的に足を運ぶ、という流れだったと思うんです。

——ライブツアーでしか買えない限定グッズもすべて買って揃えて……みたいなところですよね。

芦澤:そうですね。ですがコロナ禍に入ったことでライブがそもそも開催できなくなり、CDショップにも行けなくなるという状況になって、そういった応援の仕方が難しくなった。その中で応援の仕方で新たなロールモデルになったのがK-POPのファンだったと思います。

——なるほど。アーティストだけでなくファンの応援もK-POP的になった、と。

芦澤:コロナ以前からBTSを始めとするK-POPのファンが世界中にいて、もちろん日本にもかなり大きなファン層を抱えていました。ARMY(BTSファンのファンネーム)がBTSをどのように応援していたかというと、「BTSの楽曲をストリーミングサイトで聴いてSNSにシェアをする」「彼らのメッセージを広めていく」というものが中心でした。それまでのCD販売や握手会など、フィジカルな基盤に基づいた応援とは全く別の、K-POP流の応援の仕方が確立されていったと思うんです。

そこからコロナ禍になった時に、K-POPのような応援スタイルが「外出制限があるステイホーム生活」にもマッチしているということで、応援スタイルやマインドが変わっていったのかなと思います。コロナ禍にデビューしてきたアイドルグループを応援するファンの中でも、ストリーミングで聴いた楽曲をSNSへとシェア・拡散することに重きを置くファンが非常に増えています。結果的に「国内で最もシェアされた楽曲」ランキングでは、BE:FIRST、JO1、INIの3組がほぼ独占した状況になりました。

国内で最もシェアされた楽曲
1. SuperCali / JO1
2. Bye-Good-Bye / BE:FIRST
3. CALL 119 / INI
4. Password / INI
5. With Us / JO1
6. Betrayal Game / BE:FIRST
7. Brave Generation / BE:FIRST
8. 僕らの季節 / JO1
9. Gifted. / BE:FIRST
10. Scream / BE:FIRST

——「Spotifyを使ってSNSにシェアをした」という行為は、チャートにどういった形で表れるのでしょうか?

芦澤:さまざまな指標を用いて算出されている独自のランキングですので、詳しくお話はできないのですが、SNS上で活発にシェアされた楽曲として具現化されるのはバイラルチャートになります。このチャートは「何が一番バズっているのか?」という部分にフォーカスを置いているので、日々変動が激しいのですが、「今のトレンドをいち早く知りたい」という方々が常にチェックしていることが多いんです。バイラルチャートで上位に居続けることでバズを起こしていることがより広く知られ、再生回数が伸びてトップランキングにも入ったり、また他のプレイリストなどにリストインすることで、年間を通してロングタームにヒットする楽曲になる可能性があったります。

J-POPの可能性

——「世界で最も聴かれた・再生されたアーティスト」でバッド・バニー(Bad Bunny)が3年連続で1位を獲得しました。彼が発表したアルバム『Un Verano Sin Ti』はビルボードTOP200では合計13週に渡って1位を獲得して、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)のアルバム『Midnight』よりも多く1位を獲得しています。Spotifyで大きな支持を受け続けている彼ですが、ここまでウケている理由はなぜでしょうか?

芦澤:日本に住んでいると「洋楽といえば英語圏の曲」という印象が非常に強く、実際に日本において洋楽アーティストといえば英語圏のアーティストを指すことが圧倒的に多いと思います。アメリカやイギリスのチャートが主要な指標として参照されている部分がありますよね。ただ世界の音楽マーケットを俯瞰で見てみると、英語圏の国々が多いのも間違いないですが、実際にはスペイン語圏の国々・地域・人口が非常に大きいんです。バッド・バニーの故郷・プエルトリコがある中南米では、ポルトガル語が第一言語になっているブラジル以外、ほとんどの国でスペイン語が使われています。

——国によっては英語を使う国もありますが、第二言語としてスペイン語を話す方も多いと思いますし、中南米・ラテンアメリカ地域ではスペイン語は無くてはならないレベルですね。

芦澤:当然それらの国ではスペイン語で歌われていますし、スペイン語の音楽が国境を越えて広がるポテンシャルが大いにあります。世界中にスペイン語圏の移民も多く、音楽を楽しむことにアクティブなカルチャーも特徴的です。日本にいると気付きにくいですが、ラテン・カルチャーの重要度や影響は世界においては大きいんです。

Spotifyは言語やカルチャーを超えてボーダーレスに音楽を楽しむことができるプラットフォームなので、自国以外のアーティストによる楽曲がプレイリストに入ることはよくあります。日本とは違い、海外ではさまざまな言語・カルチャーが混ざり合っているのが普通の状況なので、「英語圏の国にいながらスペイン語の曲を聴く」ことも日々の生活の中で自然に生まれ、言語の障壁はかなり低くなったように感じます。無意識のうちによりボーダーレスな聴き方が浸透していると思います。

——なるほど

芦澤:BTSをはじめとするK-POPのヒットを見てみると、アメリカやヨーロッパなどで韓国語が理解されているからヒットしている……というわけではないですよね。むしろK-POPというカルチャーを含め自然に受け入れられているんだと思います。

——ここまでのお話を伺って、メインストリームとなって聴かれている音楽には英語の楽曲が多い中で、ストリーミングの普及によってバッド・バニーを中心としたラテン・ポップやK-POPといった「英語圏外の音楽」も世界的な支持を得られるようになってきたと繋がってきました。今年開催されCoachella 2023ではフランク・オーシャン(Frank Ocean)とともに、バッド・バニーとBLACKPINKがヘッドライナーを務めるというニュースが出てきたのも象徴的ですね

昨年の取材では「J-POPのままでも海外でヒットを飛ばせるのでは?」なんて話をしましたが、アニソンやシティポップが海外でウケているという話題に、藤井風さんのヒットのようなヒットが続けば「日本人が日本語のまま歌い、J-POPが世界中で聴かれるのでは?」という未来が見えてきそうですが、改めていかがでしょうか?

芦澤:点々として出てきた現象がいくつかあって、藤井風の楽曲がSNSを通して海外で大きくヒットする、アニメーション作品と紐づいてヒットしていく日本の楽曲がある、年代を飛び越えてシティポップがウケている、それぞれ別々のことなんですけど繋がっているように感じられます。YOASOBIの「夜を駆ける」は「世界で最も聴かれた日本の楽曲」ランキングでここ数年上位にいましたが、あの曲は実はアニメのタイアップ楽曲でもなんでもない。おそらく推測ですが、YOASOBIが「日本のポップカルチャーの代表」としてアイコニックに見られているからだと思うんです。シティポップが広がっていった流れにも繋がるんですが、東南アジアのZ世代のリスナーがこうした楽曲をSNSで投稿する際に、何かしらアニメーションのgif動画などとともに投稿するパターンが多いこともその裏付けだと思っています。     

——藤井風の「死ぬのがいいわ」を使ったUGC投稿(ユーザー制作投稿)では、原曲を早送りにした音源が使用されてましたが、その後は原曲そのものを使った動画が投稿されるようになりました。映像もアニメやゲームからのものが非常に多いですね。

芦澤:UGCのものはほとんどそうですね。しかも歌詞の意味をしっかりと理解していて、「自分の推しのためなら死んでもいい」というニュアンスで動画が制作・投稿されているんです。藤井風、アニメ、推しカルチャー的な応援、日本に住んでいる私達からすればどれも繋がっていないバラバラな現象のように見えますが、すべて日本的なポップカルチャーとして受容されているという印象はあります。もっとこういった点が増えていけば、点と点がどんどんと繋がって、1つのムーブメントのようになるのかなと思います。

——アニメーションなどうまく使いながら、何かしらの光景や情景を感じさせつつ、自分がそこにいるかのように感じさせてくれるもの。そういう風にJ-POPや日本のポップカルチャーが受け入れられているなと、今回のお話を聞いていて感じました。

ここ数年、SNSや動画投稿サイトでバイラルヒットした楽曲がそのまま人気を集めていくという傾向が見えますが、Spotify Japanやストリーミングサービスの役割はどのように変化していると感じていますか?

芦澤:SNSや動画投稿サイトがヒットやバズの「キッカケ」であり「発火点」になりやすいというのは昨今の傾向としてあると思います。ですが、発火するだけでは楽曲やアーティストへの人気や注目には必ずしもつながらず、短期間でクルクル回っているだけになってしまう。それをフォローするのがプレイリストかなと考えています。「この動画でタイトルとアーティストを知れたけど、どこで聴こうか?」となった時には、やはりストリーミングサービスになる。さらに曲を聴いてそのアーティストに興味を持った時に、過去のカタログや関連するアーティストまでどんどん掘り下げ、新たな出会いや発見を楽しんでいくことができる。そういったニーズに応えられればとも感じています。

——ありがとうございます。最後にSpotify Japanとして2023年の展望はどのように考えていますか?

芦澤:Spotifyは2016年秋に国内でサービスを開始し、当初は熱心な音楽ファンを中心に支持されてきましたが、ここ数年でユーザー層は大きく広がりました。ストリーミングの利用が日本でも普及し、音楽やトークコンテンツに対するニーズがますます高まる中、2023年もカルチャーファンダムやコミュニティにおいてSpotifyをいっそう欠かせない存在と感じていただけるように取り組むとともに、新たなオーディエンスとの接点も広げていきたいと考えています。

Photography Yohei Kichiraku

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SNS広告から考える「日本の音楽が海外でヒットする方法」 https://tokion.jp/2022/04/13/interview-kazuma-konno-gma/ Wed, 13 Apr 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=109564 どんな日本の音楽が海外でヒットするのか、また日本の音楽が海外でヒットするためには何が必要か、GMAの代表を務める金野和磨に聞く。

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InstagramやYouTube、TikTokなどでのSNS広告を運用し、アーティストのファンベース拡大をサポートするGMA(Gerbera Music Agency)。同社では海外に向けた広告の運用も行っている。今回、同社の代表を務める金野和磨にどんな音楽が海外でヒットするのか、また日本の音楽が海外でヒットするためには何が必要か。SNS広告のデータをもとに語ってもらった。

——まずは、「GMA(Gerbera Music Agency)」がどのような事業をしているのか、簡単で構いませんので説明していただけますか?

金野和磨(以下、金野):当社は2つのサービスを提供しています。1つは音楽広告事業、音楽業界特化のウェブ広告代理店事業として、アーティスト活動の中でリリースプロモーションをする際に、Instagram、YouTube、TikTokなどでのウェブ広告を運用し、アーティストのファンベース拡大をお手伝いさせていただくもの。もう1つはブランドソリューション事業で、一般企業からSpotifyを使った商品プロモーションをしたいという話があったら、プレイリスト、イベント、楽曲制作などを提案していく形ですね。後者のブランドソリューション事業は、弊社の中でプレイリスト制作チーム「Pluto」を結成しており、そのメンバーが中心となって制作してもらうことが多いです。草野さんもそのメンバーの1人として活動してもらっています。

——そうですね。僕は音楽広告事業については一切お手伝いをしていないので、このインタビューではそちらについて深く話を聞かせてもらえればなと。広告PRを通して音楽を海外に広げていくことで、「実際どのようにフィットしているのか?」というのをご存知かと思うので、お話をうかがいたいです。GMAを設立してからはどのくらい経ちましたか?

金野:今は6年目を終えて、7年目に入ったところです。もともとは2015年にアーティストのエージェント業を始めるためにこの会社を立ち上げました。音楽業界に関する経験はまったくなく、うまく活動ができなかったので早々に挫折しそうになったのですが、「インターネット広告ならばうまくいくのでは?」と思い立ち、2017年か18年頃から広告を中心にした業務をしていくことになりました。

2018〜19年ごろからはストリーミング配信からヒットが増えてきて、音楽業界からも引き合いが強くなってきましたし、当社に依頼してくれたクライアントでも目覚ましく成長したアーティストが何組か出てきました。これが2020年にコロナウイルスが猛威を振るうと大きく変わりました。「外出してCDショップでCDを買う」という購買活動がかなり目減りすることになり、音楽に出会うシチュエーションが難しくなったんです。レコード会社やマネジメント側もこれまで以上にストリーミング配信やネット上での活動を活発化させ、「リスナー数やファンベースを広げていかないといけない」と模索しなければならなくなった。そういった影響で当社にかなりお話が舞い込むことになりました。

——たまに僕と雑談をする時にもそういった話を少しされていましたよね。コロナで明らかに状況が変わった!と。

金野:取引する会社は本当に増えましたね。同じタイミングでInstagram Stories広告が成果をあげるようになり、そこをベースにして今年までやってきました。コロナ禍によってレコード会社を含めて業界がストリーミング配信に本腰を入れたことと、同じタイミングで当社もアーティストのファンベース増加にしっかりと役立てることができるようになった、この2つが要因になっていますね。

SNS広告が効果的な地域は?

——YouTube、TikTok、Instargramと3つのサイトで広告を主にされているとのことですが。

金野: YouTubeでの広告については、2015年に会社を立ち上げてエージェント活動をしていた頃から話にあがっていて、クライアントであるアーティストやマネジメント事務所からもっとも要望が多かったんです。2015年から2018年頃までは「どのようにしてミュージックビデオの再生数を増やすか?」ということが議題にあがりました。主に弊社で手掛けているのは、動画再生中に別の動画が入ってくるという「インストリーム広告」で、5秒経過するとスキップボタンがでてくるタイプのものです。動画視聴者が「いいな」と思って聴いているとMVに移ったり、特設サイトへと遷移するものが多いです。

TikTok広告が増えたのはこの2年ほどです。実は広告プラットフォームとして見ると、何度となくリニューアルを繰り返していて、まだ立ち上がったばかり。そこまで成熟しているわけではないんですよね。広告をきっかけにヒットが生まれるというよりは、TikTokerの投稿をきっかけにして、動画に使用されている音楽に大きな注目が集まるパターンがほとんどな印象です。

——なるほど。今はInstargramでの広告に一番力をいれているとのことですが?

金野:そうですね。弊社ではInstargramのStoriesとReelsでの広告に力を入れています。縦長で15秒ほどの動画広告をStoriesに流して、クリックないしはスワイプすると任意のページに飛んで楽曲を聴いてもらう、というものですね。Instargramでの広告運用は日本限定ではなく、Spotifyが利用できるほぼすべての国々を対象にすることが多いです。

これは肌感なのですが、TikTokで同じような広告をした場合、クリックしてもらって曲を聴いてもらえるのは15%ほどで、1万回広告を見てもらっても1500回しか曲を聴いてもらえず、アーティストをフォローしてくれるところまでうまくいかない。対してInstargramで広告を打った時は、これよりも高い確率で楽曲を聴いてもらえますし、アーティストをフォローしてくれる事が多いんです。クリック後に行動を喚起する力が強い。

——実際に今まで運用してきた中で、「この地域ではかなり強く引っかかってくれる」という地域はありますか?

金野:あります、明確に。

——……アメリカやヨーロッパでしょうか?

金野:実はその2つとも違うんです。地域別にいうと、南米、東南アジア、東欧、この3ブロックです。アーティストによってはドイツ、フランス、イタリア、スペインといった西欧諸国でもたまに反応がありますね。南米でいえば、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリの4か国を筆頭に、コロンビア、グアテマラ、エクアドル、パラグアイなど……。

——南米のほぼ全域にまで渡ると。

金野:これに加えて、サンティアゴ、メキシコシティ、サンパウロといった都市人口が非常に多いところで広告が受け入れられているのが大きいですね。東南アジアではインドネシアを筆頭に、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポール、香港といった国々で広告を見てくれることが多いですね。

——なるほど。先ほど僕が挙げたアメリカ、カナダ、イギリス、フランスといった国々では、日本の音楽を広告として出しても刺さりにくいということでしょうか?

金野:その通りですね、特にアメリカとイギリスでは困難を極めます。

——それはなぜでしょうか?

金野:所得水準が高く、ワンクリックを取るための単価がとても高いんです。ワンクリックを取るための単価とユーザーの所得水準が比例している印象があります。これは音楽性が刺さる・刺さらない以前の問題で、広告プラットフォームとしての問題になります。

アニメーションによる強み

——3つのサイトそれぞれの中でも、ヒットするような日本の音楽はあるんでしょうか?

金野:まずどの国々でもインターネットで反応が強く出る傾向があるのは「アニソン」ですね。広告素材として実際放送されるアニメ映像が使えるとなると、正直無敵の強さを誇りますね(笑)。国内外で音楽をPR広告している側の人間としては、日本の音楽を語るうえでは「アニソン」を外すことはできないです。なお、アニソンではなかったとしても、MVにアニメーションが使われている場合も高いパフォーマンスが得られることが多いです。

——アニソンタイアップとして発表した楽曲が海外でヒットしてファンベースが拡大したというアーティストは本当に多いですしね。

金野:そうですね。「アニメ番組でタイアップからチャンスをつかむ」ということはある種一番理想的な形ではありますが、すべてのアーティストがそういうチャンスをもらえるわけではないのは承知しています。その点、アニメーションのMVやリリックビデオを使うことの多いアーティストは強いですね。

——なるほど。こういったMVで反応が良いのが南米、東南アジア、東欧といった地域になるのでしょうか?

金野:そうですね。そこから飛び火すると西欧にまで見られることが多いという流れです。

——先日Spotifyの芦澤さんとのインタビューでも「日本の音楽の中でもアニソンが世界のリスナーにヒットしている」というお話がありましたね。アニメソング以外にヒットしている日本の音楽、または反応がある地域はどういったところが挙げられますか?

金野:あくまで傾向として受け取っていただきたい話ですが、いわゆる典型的なJ-POPが海外でウケることがわりと多くて、特に東南アジアでウケる傾向が強いんですよ。

——ひと昔前には東南アジアへ海外旅行に行くと、J-POP関係のCDが販売されてたなんていう話や、AKB48グループではインドネシア、タイ、フィリピンといったところで活動しているグループもありますしね。需要層としてしっかりあるんだなと思えます。

金野:一方で少し意外な話だと、日本のロックやガレージロックといったバンドが南米で受け入れられる傾向にあります。アニソンによるヒットの影響もあると思いますが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが2015年に南米ツアーで現地の方から熱烈に迎えられたことからもうかがい知れるかなと思います。ビジュアル系は南米と東欧で受け入れられて、それぞれ反応が強く出る傾向がありますね。

——北米では「ロックは死んだ」と評されるくらいですが、南米ではロックミュージックはまだ受け入れられている部分がありますし、先ほどの名前があがった都市を中心にして、やはり人口もかなり多いですしね。

金野:シティポップはやはり東南アジアで人気ですね。台湾、香港、タイといったところを中心にして反応がありますね。特に現在タイだとTELEx TELEXsというシンセポップバンドがウケているのもあり、日本のシティポップバンドが受け入れられている傾向があります。

——それは無理やり英語で歌っているわけではなく、日本語で歌っていても聴いてもらっているということになりますよね?

金野:その通りですね。台湾は特に親日な文化という影響はあると思います。

——東欧で日本人アーティストがヒットするというと、Serphさんと吉澤嘉代子さんによる「人魚」や大比良瑞希さんの楽曲がリトアニア、スウェーデン、フィンランドで大きくヒットしているという話をご本人がツイートされていましたよね。現地情報をまだうまく探れていないのですが、金野さんが仰っていた話が大きくソレたことではないのは実感しています。

金野:日々の業務として自社で担当したアーティストのMVや楽曲がどのように動くのかをダッシュボードなどでモニタリングしていますが、非常にフィットしているというよりも、あくまで「わりと聴いてくれる人がいるんだな」という感覚で挙げさせてもらいました。

効果的な映像制作が鍵

——日本の音楽を広告という形で海外に届けるという難しさはあると思いますが、どういった部分で難しいでしょう?

金野:これは日本に限った話ではないのですが、制作されたMVが広告に向いていなくて、海外の人にうまく届かないというのはあります。音楽性と言うよりも映像の問題です。もちろん広告用に制作されているわけではないので仕方のないことですが、日本のアーティストだけではなく海外のアーティストの映像を使った広告を見ても、「もっとこうすれば……」と思うこともあります。もしも開始2秒だけでも「見ている人を引き込む」ような映像を制作して、そのビデオを広告配信していればかなり変化はあるはずです。

——広告という意味で言えば、音楽という部分だけではなく、広告配信用に制作された映像の出来次第で、大きくパフォーマンスが変わっていくということですね。

金野:そうですね。ここまでの会話での盲点をあげると、そもそもInstagramやTikTokなどを見ている層は音をミュート状態にしていることが多いということです。そんな中でもユーザーにしっかりとアピールするには、目を引くような映像を作ってみるのが大前提になります。なのでクライアントにはまず「広告配信用に制作された映像」をどのような内容でつくりあげるか、という話になります。

——この話の締めのようにはなりますが、どういった広告がウケやすいのでしょうか?

金野:映像の中に「人の顔や姿」が入っていること。実写であれアニメーションであれ、必ず入れるべきだとクライアントに答えますね。当社ではこれまで5000本を超える広告動画を制作してきましたが、その結果、アイキャッチになるのは人間の顔だと分かりました。風景や文字のみの映像でトライして散々な結果に終わったこともあります。次に、MV中に歌詞の英語字幕を入れたり、Instagramアカウントのプロフィール欄に英語表記などを入れて、海外のユーザーやリスナーもそのアーティストのことを理解できる環境を整備しておくことも大事になります。

——コロナ禍が世界的に収まりつつあり、欧州を含めてマスクを外すような傾向や、観客を動員したフェス開催やスポーツ観戦ができつつあります。国際情勢が不安な状況が続いていますが、今後2022年から先の未来、音楽アーティストはどのように動いていくと思いますか?

金野:仮に以前のような平時な状況になったとして話をさせてもらいますが、まずは海外進出の本格化が進むと思います。このコロナ禍の2年間で海外に向けたプロモーションをしつづけてきたアーティストが、東南アジアを含めたライブツアーを回るケースが増えていくと思っています。いきなり南米や欧州などにいくのではなく、親日ムードのある東南アジアを中心にしたリアルライブをこなし成功体験を増やしていくことで、日本人アーティストにとっても東南アジアのファンにとっても「壁が低くなった」「垣根が無くなった」という領域まで進んでいくのではないかなと思います。

——日本の楽曲が海外で受け入れられている土壌というのは、少しずつ広がっているんでしょうか?

金野:少しずつ広がってきていると思います。そもそもこれまではカタログがしっかりとネット上で聴ける環境ではなかったと思うんです。YouTubeに公式側からフル尺MVがあがって、しかもリージョンブロック(注:国・地域によって見られないという設定)が外れた状態で全世界から見られるようになったのもわりと最近になってからだと思いますし、大御所のアーティストがSpotifyないしはApple Musicで音源を公開しはじめたのも、ローンチされて数年経過してからようやくというパターンもありましたよね。昔から海外の方々が日本の音楽を聴きたいという需要に対してあまり対応できていないというのが、2010年代中ごろまであったというわけです。現在ではそういったかせが無くなり、「ようやく海外から日本の音楽が聴けるようになった」段階じゃないのかなと思います。

——少しイリーガルな話ですが、アニメや漫画などでは違法ダウンロードが昨今何度となく話にあがっていて、音楽についても2000年代中頃からYouTubeが市民権を得ると、YouTube上で違法に音源がアップされつづけているのを皮切りにして、違法ダウンロードが世界的に横行していたという流れがありました。そこにはもちろんアニソンを含めた日本の音楽も含まれているし、海外のリスナーがそちらから聴いていた側面は否定できないですよね。

金野:現在はYouTubeのContent IDをはじめとした著作権保護・収益化の環境なども整ってきましたが、当時違法なUGC(ユーザー生成コンテンツ)がプロモーションに大きく寄与した事例は多々あるかと思います。松原みきさんの「真夜中のドア」がヒットしましたが、今後もそういったヒットケースもあると十二分に考えられます。

——これまで多くのレーベルなどと関わり合いを持ってきたと思うんですが、アーティスト本人も海外志向な方が増えているんでしょうか?

金野:少しずつ増えてきていると思います。話を聞いてみると「国内のファンを増やしたい」というまず意見をもっていて、「国内ファンをみつつ、海外ファンにも目を向けませんか?」と僕らの方から尋ね、実際に広告を海外に出してみると想定以上に海外からの大きな反応があがり、アーティストも考えを改める、なんてことも起こってます。

——これはそもそもの話になってしまうんですが、「日本の音楽が海外の人に聴かれている」というイメージが、アーティストはおろかファンも含めて、いち音楽好きとしてわきにくいというのが第一にありますよね。「J-POPが東南アジアで受け入れられる需要層がある」と言われても、日本のリスナーやアーティストも含めて「そんなわけないだろう?」と若干卑下してしまっているし、そもそも海外に向けて活動しようという気持ちがわきにくいというのはあるでしょうね。

金野:そのように考える方も多いのかなと思います。

——少し違った角度の話にはなりますが、先日Spotifyの芦澤さんとお話ししたとき、「J-POPという形で海外にそのまま打って出ても、もしかすると海外でヒットが残せるのでは?」と質問したところ、「今後海外でヒットするのかはやはりわからないですね」と答えられていたんです。J-POPというと、海外の音楽ニュアンスを歌謡曲の中にさまざまに落とし込んだ独自の音楽性をもった音楽で、昨今世界的にファンベースが広がっているレゲトンやアフロポップなどでも同じようなジャンルのハイブリッド化が進んできて、サウンドに大きな違いはありますが、その手ほどきや狙いが似ていると思えたんです。夢の見過ぎかなと思うんですが、J-POPが世界にヒットする未来というのはありえるんでしょうか?

金野:「受け入れられるか?」というのが「グローバルヒットをする」という意味になると、僕も芦澤さんと同意見で、現状では難しいのではないかなと思います。ザ・ウィークエンド(The Weeknd)やジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)はSpotifyの月間リスナーが5000万人を超えていて、そういったグローバルヒットを狙うアーティストを考えれば確かに難しい。ですが、Spotifyにもたくさんアーティストがいて、ミドルクラスと言われるゾーン、Spotify月間リスナーが300万〜500万人ほどのアーティストもいるわけです。海外進出を積極的にしていくことで、そういった規模感のアーティストは今後日本からも増えていくのではないかと思うんです。

——ちなみにSpotify月間リスナーが300万〜500万人ほどのアーティストというと、現在の日本音楽シーンでいうとどの辺りの方になるんでしょう?

金野:LiSA、YOASOBI、宇多田ヒカル、米津玄師などですね。日本でも指折りのアーティストが現状このラインに揃っています。

——4組ともアニメやゲームにタイアップがあったり、MVにアニメーションを多く使ったアーティストで、「アニメーションに親和性ある」からここまで支持を広げられてきた。ですが彼女らのような規模感を、海外に向けて徐々に活動を広げていけば獲得できる可能性が大いにあるわけですね。ここまでのお話を総合して見てみると、全世界を巻き込んだというグローバルをいきなり狙うのではなく、とあるジャンル・とある地域・とあるムーブメントのなかでの「ローカルヒーロー」になることで、そういった規模感を得ることができると。

金野:そうですね。ローカルヒーローを目指しつつ、ミドルクラスのリスナー数をつかんでいくことで、より強固なファンダムを築くことができると思います。仮にとある国で自分の楽曲がヒットしているのであれば、絶対にその国のリスナーに向けてしっかりとした活動をすべきだと思います。

金野和磨(こんの・かずま)
Gerbera Music Agency合同会社 代表社員 社長。日本大学卒業後、音楽サービス会社、デジタルマーケティング会社などを経て、音楽業界専門の広告・PR代理店事業を行うGerbera Music Agency合同会社を設立。レーベル、音楽事務所、流通会社など複数社のアーティストプロモーションをサポート。InstagramやYouTubeをはじめとしたインターネット広告全般、プレイリストへのピッチングなど、ストリーミング時代のデジタルプロモーションが強み。日本から世界に通用するアーティストをたくさん輩出することを目標に活動している。
https://gerbera-music.agency
Twitter:@konno108

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2021年のSpotifyのデータから読み解く「日本の音楽シーン」と「海外で聴かれる日本の音楽」 https://tokion.jp/2022/04/04/japanese-music-scene-to-be-read-from-2021-spotify-data/ Mon, 04 Apr 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=106877 Spotify Japanが発表した2021年のランキングをもとに、日本の音楽シーンの傾向を多角的に検証していく。

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世界で4億600万人以上のユーザーが利用するオーディオ ストリーミングサービス Spotify。そのSpotify Japanが2021年12月に発表したさまざまな年間ランキングをもとに、今の日本の音楽シーンの傾向を多角的に検証していく。さらに海外で日本の楽曲がヒットする可能性はあるのか。 Spotify Japanの音楽部門担当・芦澤紀子に話を聞いた。

日本国内ではBTSとYOASOBI の強さが目立つ

——まずは全体のお話からお聞きできればと思います。Spotifyとして2021年はどのような年となりましたか?

芦澤紀子(以下、芦澤):コロナ禍の状況となって1年以上が経過し、1周分回った年というのがスタートでした。2020年はコロナ禍に入ったことでライブやフェスティバルなどのイベントも中止となり、アーティストの活動が制限されることも多く、ユーザー側もステイホームの流れになって自宅で新たなエンターテイメントを探す機会が増え、これまでライブやフェスに行かれるような層にもストリーミングや動画配信サービスを楽しむ方が増えたと思います。Spotifyではコロナ禍の初期にはチル系の音楽、ローファイ、インスト系のプレイリストや楽曲が支持されるようになりました。

——それが2021年に入ってどのように変わったのでしょう?

芦澤:2021年にはチル系やノスタルジーを感じさせるような音楽が極端に聴かれることはなくなって、日常を取り戻すように少し落ち着いていった感じです。代わりに「良い音楽がずっと繰り返し聴かれる」というような形で、ロングタームで同じ曲がずっと聴かれ続けるということがありました。「2021年に日本国内で最も再生された楽曲トップ10」ランキングを見れば、日本では2021年はBTSとYOASOBIが占拠していた年だと思います。

「2021年に日本国内で最も再生された楽曲トップ10」
1. ドライフラワー / 優里
2. Dynamite / BTS
3. 夜に駆ける / YOASOBI
4. 怪物 / YOASOBI
5. 群青 / YOASOBI
6. 勿忘 / Awesome City Club
7. Butter / BTS
8. うっせぇわ / Ado
9. Stand by me, Stand by you. / 平井 大
10. 炎 / LiSA

「2021年に日本国内で最も再生されたアーティスト」
1. BTS
2. YOASOBI
3. Official髭男dism
4. 平井 大
5. back number
6. TWICE
7. 嵐
8. 優里
9. 米津玄師
10. あいみょん

——「2021年に日本国内で最も再生された楽曲トップ10」では10曲中5曲が、BTSとYOASOBI の2組で、その強さがハッキリと分かります。「ドライフラワー」「Dynamite」「群青」「うっせぇわ」「Stand by me, Stand by you.」は2020年に、「夜に駆ける」は2019年にリリース。YOASOBIの「怪物」は2021年1月、Awesome City Clubの「勿忘」は2021年2月、BTSの「Butter」が2021年5月にそれぞれリリースされています

芦澤:単曲で最も再生された楽曲は優里の「ドライフラワー」でした。2020年秋にリリースされたのち、「THE FIRST TAKE」で本人が歌ったのをきっかけに、TikTokでもこの楽曲を使った動画がいくつもバズを起こし、YouTubeなどで「歌ってみた」動画の題材にもなったりするなど、ユーザーからの支持を集めた楽曲でした。そこから2021年になると多くのユーザーから「良い曲」という認識で長く聴かれる楽曲へと成長したというのは、面白い傾向だと思います。

——リリース日順に考えれば2020年以前に発表された曲が6曲も「2021年に日本国内で最も再生された楽曲トップ10」を占めているという不思議な状況ですよね。例えば1990年代のオリコンヒットチャートなどではこのような状況は一切なかったわけで、海外のヒットチャートなどではこういったロングテールなヒット傾向は当たり前にある中、先ほどの話を踏まえてロングタームでヒットする楽曲が日本国内でここまで増えたのは特筆すべきだと思います。2020年から2021年にかけてユーザーが増えたのはもちろんだと思うのですが、男女比率や年齢比率は変わったんでしょうか?

芦澤:大きく変わったわけではないですが、いま現在では若干女性ユーザーのほうが多いですね。年齢層だと20代から30代前半の年齢がコアユーザーとなっていますが、その前後にあたる年齢層、ティーンエイジャーと40代以上の利用者が増えています。ストリーミングサイトへの認知が深まって市場全体が伸びていることの影響もありますね。

——日本国内のユーザー全体では、日本国内/国外のアーティストをどのくらいの比率で聴いているのでしょうかコロナ禍で変化はありましたか?

芦澤:日本国内ユーザーの6〜7割は日本国内のアーティストを主に聴いている印象です。他の諸外国でここまで圧倒的にローカルコンテンツ(自国のアーティスト)を聴いている国はほとんどなく、日本と似た傾向の国というとアメリカになるんです。とは言え、アメリカでのローカルコンテンツというとそれはグローバルヒットに繋がると言っても差し支えないわけですし、やはりここまで特殊で顕著な国はほとんどないです。

——そこまでハッキリとしているんですね。

芦澤:逆に日本人が海外の音楽を聴く中で、ハッキリとした伸びを見せているのがK-POPです。BTSやTWICEはもちろんですが、最近ですとIVEやkep1erといった新しいガールズユニットもチャート上位に入ってきますし、加えてENHYPENやTOMORROW X TOGETHERといった男性ユニットも日本のチャートに入っていますね。それも韓国語版や日本語版といった言語の違いもあまり関係なくチャートインしている状況です。

——以前ですと「日本語ヴァージョンをリリースしないとヒットに繋がらない」というレーベルの考えがあったんでしょうけれども、現在では「新曲が出るのであればすぐにでも聴きたい!」という気持ちが先立っていて、言語の違いなど関係なく新曲を聴かれているわけですね。

芦澤:そうですね。この流れは日本だけではなく、アメリカやヨーロッパのチャートを踏まえてみても、世界全体で「K-POPがヒットしている」というように見えてくると思います。韓国という人口のそれほど多くないマーケットにあるからこそ、産業に関わる多くの方々が「世界で勝負しなくてはいけない」という気持ちを持っていたと思います。厳しいトレーニングを重ねたことで歌もダンスもグローバルスタンダードのレベルまであがった。コロナ禍においてストリーミングサイトや動画サイトが浸透していくことによって、人気が落ちることなくK-POPの魅力を知る人が増えたとも言えますね。

「音楽において言語の壁が問題にならなくなってきている」

——なるほど。ここで「世界で最も再生されたアーティスト」に目を移すと、BTSやテイラー・スウィフトを抑えてバッド・バニーが1位になっています。実は2020年から2年連続でバッド・バニーが1位を獲得していて、日本のリスナーやユーザーにはにわかに信じがたいだろうなと思います。

2021年 Spotifyグローバルランキング
「世界で最も再生されたアーティスト」
1. バッド・バニー 
2. テイラー・スウィフト
3. BTS
4. ドレイク
5. ジャスティン・ビーバー

「世界で最も再生された楽曲」
1. drivers license / Olivia Rodrigo
2. MONTERO (Call Me By Your Name) / リル・ナズ・X
3. STAY (with Justin Bieber) / The Kid LAROI, ジャスティン・ビーバー
4. good 4 u / Olivia Rodrigo
5. Levitating (feat. DaBaby) / デュア・リパ, DaBaby

「世界で最も再生されたアルバム」
1. SOUR / Olivia Rodrigo
2. Future Nostalgia / デュア・リパ
3. Justice / ジャスティン・ビーバー
4. = / エド・シーラン
5. Planet Her / ドージャ・キャット

芦澤:確かにそうかもしれないですが、その意外な感覚こそ、日本と世界との距離感と言ってもいいでしょうね。

——彼のほかにも、上の世代ではLuis Fonsi、J.Balvin、Daddy Yankee、新しい世代だとRauw Alejandro、Farruko、Ozunaといったアーティストがレゲトンシーンから出てきました。コロナ禍以前から彼らはグローバルヒットの中でフューチャリングされることが多かったわけですが、「リラックスできて、長い時間流していられるような」音楽というコロナ禍中にあった需要に加えて、「ほどよく楽しくて踊れる」という本来の魅力も失うことなく楽曲をリリースしていた印象があります。

芦澤:K-POPの話にもつながりますが、言語の壁が問題にならなくなったというのはあると思います。K-POPは韓国語で、彼らはラテン語やスペイン語圏で活動していて、ひと昔前までなら「英語で歌わないと世界に打って出られない」という風に思われていたと思うんですが、コロナ禍を通してインターネットやストリーミングサイトがより浸透し、そのハードルが下がった。リスナーはより感覚的に、カジュアルに音楽を楽しんでいる、言葉が100%わからなくても音楽を楽しむことができるという認識が強くなってきているんだと思います。

また、ジャンルのハイブリッド化も現在進んでいると思います。昔のCDショップならばジャンル別に分けられていたり、専門書もきっちりと分けられていた状況で、「邦楽」と「洋楽」を分けて聴いているカルチャーでしたよね。いまではプレイリストの中で世代・国境・ジャンルを飛び越えて聴くことができますし、アルゴリズムでおすすめされたりする。リスナーも、そういったハードルを意識せず、感覚的に楽しんで聴ける環境に徐々に慣れてきた中で、アーティスト側もそれに反応し、ジャンルのハイブリッド化の拍車をかけたのかなと思います。

——プレイリストの話に移るのですが、「国内で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」というランキングでは「Tokyo Super Hits!」「Hot Hits Japan」「Today’sTop Hits」「Spotify Japan 急上昇チャート」と、上位5つのうち4つが直近でヒットしている楽曲で固めたプレイリストになっています。これが「世界で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」になると、「Sleep」「Peaceful Piano」「lofi beats」「Deep Sleep」と、トップヒッツ系なプレイリストではなく、シチュエーションに合わせた4つのプレイリストが上位に来ています。コロナ禍になる以前と変わらぬ傾向とも言えますが、どのように捉えていますか?

「国内で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」
1. Tokyo Super Hits!
2. This Is BTS
3. Hot Hits Japan
4. Today’s Top Hits
5. Spotify Japan 急上昇チャート

芦澤:もともとチル系やスリープ系が強かったのはその通りで、文化風習の違いとしか言えないかなと。日本では1980年代や1990年代のテレビ番組などで「ザ・ベストテン」「ベストヒットUSA」などが人気でしたし、国内外の音楽に関わらず「今、何がヒットしているのか?」を知りたいという欲求がすごく強い。日本人はランキングやヒットチャートを見て音楽を聴いていると言えますね。

海外ではアニソン強し

——話を変えて、「2021年に海外で最も再生された日本のアーティスト」「2021年に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」では、アニソンヒットの影響が目に見えてわかる状態になっています。KANA-BOONの「シルエット」といきものがかりの「ブルーバード」はアニメ『NARUTO』の主題歌になっていますが、「シルエット」は2014年、「ブルーバード」は2008年と、10年以上前の楽曲にも関わらずランクインしています。

「2021年 海外で最も再生された日本のアーティスト」
1.YOASOBI
2.Lisa
3.Eve
4.澤野弘之
5.Linked Horizon
6.久石 譲
7.RADWIMPS
8.ONE OK ROCK
9.たかやん
10.米津玄師

「2021年 海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」
1.廻廻奇譚 / Eve
2.紅蓮華 / LiSA
3.夜に駆ける / YOASOBI
4.unravel / TK from 凛として時雨
5.心臓を捧げよ! / Linked Horizon
6.Tokyo Drift (Fast & Furious) – From “The Fast And The Furious: Tokyo Drift” Soundtrack   / Teriyaki Boyz
7.Black Catcher / ビッケブランカ
8.シルエット / KANA-BOON
9.ブルーバード / いきものがかり
10. 怪物 / YOASOBI

芦澤:2016年秋にSpotifyが日本にローンチして5年ほど経ちましたが、この傾向はずっと続いてきましたね。むしろ顕著になってきているとすら思えます。ここ5年の間で最新のアニメも古いアニメもストリーミング配信を通して見られるようになったというのが大きいと思います。

——「過去5年間に海外でもっとも再生された日本のアーティストの楽曲」でもこの2曲はランクインしていて、LiSA「紅蓮華」とTK from 凛として時雨「unravel」も数えれば、過去5年間で最も再生された日本人の楽曲はアニメソングで独占されている。正直申し上げれば、あまりにも強すぎるし一方的すぎないか? とも思えます。

「過去 5年間(2016〜2021年)に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」
1.unravel/TK from 凛として時雨
2.Tokyo Drift (Fast & Furious) – From “The Fast And The Furious: Tokyo Drift” Soundtrack/Teriyaki Boyz
3.紅蓮華/LiSA
4.シルエット/KANA-BOON
5.ブルーバード/いきものがかり
6.廻廻奇譚/Eve
7.ピースサイン/米津玄師
8.夜に駆ける/YOASOBI
9.狂乱 Hey Kids!!/THE ORAL CIGARETTES
10.crossing field/LiSA

芦澤:「日本のカルチャーはアニメにまつわるもの」という認識がかなり根強いんだと思います。「2021年に海外で最も再生された日本のアーティスト」にYOASOBIが入っていますが、こちらも「夜に駆ける」のMVでアニメーションだったりしていて、海外では「アニメを主体とするポップカルチャーの象徴」のように受け取られているんじゃないのかなと思います。

——確かにそのような面はありますね。動画のコメント欄でも海外コメントが多いですし。

芦澤:インドネシアのYouTuberであるRainych(レイニッチ)はインフルエンサー的な役割を担っているんですけど、彼女は主に日本のシティポップやアニソンを歌っているんです。日本人からすれば「どうしてそれとそれが一緒になるんだ?」と思われそうですが、最近Night Tempoが「日本ではアニメは一部の熱心なファンのものだと思われているかもしれないけれども、僕らはアニメをオシャレなものとして見ています」と話されていたのが印象的ですね。オシャレなものだからこそ、年代や音楽性はあまり問わずにヒットしていくのだろうと思います。

日本と海外での受け止め方の違い

——これらのランキングを見て気づくのが、海外ではアニソンを専業で歌われている人や、声優さんの楽曲がランキングに入っていないということです。日本で「アニソン」という時は、声優さんやキャラクターソングへの人気がよりグっと強い存在感を放っているところですが。

芦澤:その目線の違いが、やはり日本のファンと海外のファンの違いになるんでしょうね。社内でよく「カリフォルニアロール」を例に挙げることがあるんです。日本人から見ると「カリフォルニアロール」はとても邪道なものに見えるけども、現地では高い評価を受けている。逆に日本人が「寿司というのはこれ!」というものを出すと、あまり理解がされないという。受け止め方の違いは顕著にあるのかなと。

——同じようなお話は、現状のシティポップ人気にも繋がるようなお話じゃないのかなと思います。フューチャーファンクやヴェイパー・ウェイヴが流行った中で、サンプリング元にアニメソングや1980年代のシティポップが使われることが多く、ここにTikTokなどでのバズも加わって徐々に日の目を見るようになったと思います。それとは別にして、日本では2015年前後から現在にかけてネオ・シティポップとも言われたアーティストが続々と登場しましたよね。数多くのバンドやアーティストがフックアップされて大きく人気を得たり、現在に至るまで日本国内でしっかりとしたファンダムを築きましたが1980年代のシティポップのように海外で徐々に受け入れられている、または海外リスナーが発見しているとは言いづらい状況ですよね。

芦澤:やはり日本と海外では受け止め方が違うのだと思います。海外ではよりビートやグルーヴが強く出た楽曲が好まれる傾向があって、例えばキリンジの「エイリアンズ」などがシティポップとして挙げられても、海外ではシティポップとしては認識されにくいんです。ディスコらしいアレンジやR&Bに寄せた楽曲が海外では支持されやすいかなと思います。Night Tempoが制作したシティポップのプレイリスト「Japanese City Pop 100, selected by Night Tempo」があるのですが、そちらを聴いてみるとよりわかりやすいかなと思います。

——ここまでのお話をお聞きしていると、日本人アーティストが海外進出する難しさをとても感じます。「日本人が海外でヒットする」という点について、ここまでの活動を通じてどのように捉えていますか?

芦澤:「狙ってやったものが必ずヒットする」とは限らないんですよね。松原みきの「真夜中のドア」や竹内まりやの「Plastic Love」が40年近く経過してここまでヒットするなんて想定していなかったはずです。ストリーミングサイト側の立ち位置でいうならば、「何が起きているのか?」というのをモニターしつつ、何かしらの反響が起きたならば、すぐにそこに合わせて動いていくことが重要になるのではないかなと思います。先ほどお話に挙がった「ドライフラワー」や「夜に駆ける」などは、バイラルヒットから国民的なヒットへと繋がっていきましたし。

——「うっせぇわ」もまさにそうですし、最近ですとChinozoの「グッバイ宣言」でしょうか。

芦澤:そうですね。SpotifyのバイラルチャートはUser Generated(ユーザー主導)の側面が強く、確かにランキングは移り変わりが激しいわけですが、川崎鷹也やTani Yuukiのようにロングヒットにつながった方もいますしね。TikTokの中では話題は作れても、ロングヒットになりにくいというのは、アーティスト側からも話を伺っています。最近で言うと東南アジア、インドネシアやフィリピンでバズが顕著に起きやすい状況です。インターネットを使っている人口も多く、マーケットが若いということもあり、ソーシャルからの影響がダイレクトにストリーミングに反映しやすいんです。

——アニメ人気もシティポップ人気も東南アジアが支えている部分は大いにありますよね。

芦澤:そうですね。東南アジアで大きくバズを起こした後、アメリカや英語圏のマーケットに繋がっていくというヒットパターンが目につくようになりました。

継続的な海外アーティストとのコラボが鍵

——とても素朴なお話になるかと思いますが、例えば星野源やKing Gnuのように日本国内で圧倒的にファンがいるアーティストが少しずつ海外にアクションをかけているような形になっていて、このまま海外ファンを増やすという道筋はあるのでしょうか?

芦澤:海外アーティストとのコラボレーションなどを通じて、プレイリストやアルゴリズムでおすすめされる面を広げていくというのは1つの手段かと思いますね。

——もしくは、日本のランキングやプレイリストなどにBTSが入り続けるのと同じように、海外アーティストがメインになっているプレイリストやチャートの中にずっとリストインして、海外リスナーの目に止まりやすい状況になることも1つありますよね。

芦澤:少し前にプレイリスト「Hyperpop」に4s4kiやTohjiの楽曲が入っていたことがありますし、可能性としては十二分にあり得るのではないかなと思えます。どのようにして公式プレイリストに入るのかというと、テーマに合った楽曲群の中から、Spotify上でどのように聴かれているか? というデータの分析と、エディターによる判断を加味して選曲しています。

——なるほど。日本のJ-POPにまで話を伸ばしたいのですが、J-POPというとイントロがまずあって、Aメロ・Bメロ・サビと繋がり、間奏が入って再びAメロBメロサビが入り、最後に大サビを入れてみるというような曲構造の楽曲が多く、海外のヒット曲とはかなり違った形になっていて、もはや1つの音楽形態・ジャンルのように思えます。J-POPという形で海外にそのまま打って出ても、もしかすると海外でヒットが残せるのでは? などと思うのですが、雑感としてどう思いますか?

芦澤:今後海外でヒットするのかはやはりわからないですね。ただ、日本国内の新世代アーティストの中には、そういった典型的なフォーミュラをかなり崩した音楽を作られる方も多く、J-POPならではの曲作りをしている人が減っているように感じることもあります。とは言え、時代と共に変化していくのもJ-POPだと思いますし、また新しい世代によって変わっていくのかもしれないですね。

——ありがとうございます。2022年が始まって3ヵ月というところですが、Spotify Japanの今後のプランについて教えてください

芦澤:まず期待の新進アーティストをサポートする「RADAR:Early Noise」についてはこの5年間やり続けてきて、過去にはあいみょん、Official髭男dism、King Gnu、Vaundy、藤井風らをピックアップしてきて、実績のあるシリーズになったと思っています。今年も年初に10組のアーティストを選ばせてもらっていて、年間通して彼らを次の段階へと進めていくお手伝いができればと思っています。今年は、アーティストの魅力を伝えるパフォーマンスや過去のドキュメンタリーといった映像も発信していきたいと考えています。The Kid LAROIなどが海外の「RADAR」アーティストとしてフックアップされていた時に、同じような取り組みを行い、大きなアーティストへと成長しています。加えて海外で展開している「RADAR」プログラムと連携して、海外アーティストとのコラボレーションできるチャンスを狙っているところです。

——昨年からは音声とトークを楽しめる「Music+Talk(ミュージックアンドトーク)」を利用できるようになりましたよね。

芦澤:配信アプリのAnchorを利用して、スマホ1つあれば簡単にトークを録音・編集ができ、これをSpotify上で公開されている音楽と合わせることで1つの音楽番組のようなコンテンツが作れます。アーティストやレーベルが公開したり、Spotifyがオフィシャルとして制作したものなど、多くのコンテンツが生まれています。また、アーティスト本人が最新アルバムの収録曲について深く語り、そのまま楽曲も聴いて楽しめるという「Liner Voice+」にも注力しています。aiko、RADWIMPS、クリープハイプ、年初にはマカロニえんぴつに宇多田ヒカルと、注目作品がリリースされるタイミングでは「Liner Voice+」を通して、音楽の魅力を多くの人に届けていければと思ってます。

芦澤紀子
Spotify Japan 音楽企画推進統括。ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに関わった後、2018年にSpotify Japan入社。

Photography Mayumi Hosokura

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「アニメなら日本が第一」 人気イラストレーターのイリヤ・クブシノブが語る創作への想い https://tokion.jp/2021/11/08/kuvshinov-ilya/ Mon, 08 Nov 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=72431 ロシア出身のイラストレーター・アニメーターのイリヤ・クブシノブの創作の原点を探りつつ、彼のイラストやアニメへの想いを聞く。

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ロシア出身のイラストレーター・アニメーターのイリヤ・クブシノブ。SNSに毎日イラストをアップし続けたことがきっかけで、SNSフォロワー数はInstagramが200万、Twitterが51万という人気ぶり。2016年には初画集『MOMENTARY』(パイ インターナショナル)を出版し、その後2019年公開の原恵一監督作品『バースデー・ワンダーランド』ではキャラクターデザインをはじめ、美術設定を担当。また、2020年にNetflixにて配信された『攻殻機動隊 SAC_2045』ではキャラクターデザインを担当するなど、イラストレーターだけではなく、アニメ業界にも活躍の場を広げている。

9月1〜26日には東京・原宿のAnicoremix Galleryで個展「CRYSTALLINE」を開催するなど、展示も積極的に行っている。今回、イリヤ・クブシノブに創作に興味を持つようになったきっかけから日本のアニメに関わるようになった原恵一監督との出会い、イラストに込めた想いまで、幅広く語ってもらった。先日の個展の様子とともに、そのインタビューをお届けする。

——現在イラストレーターやアニメのキャラクターデザインなどで活躍されていますが、ご自身の生い立ちや子供の頃のお話をお聞かせください。

イリヤ・クブシノブ(以下、イリヤ):幼い頃は本を読んだり絵を描いたりしていて自分の世界にずっと入っている子供だったので、母によく注意されたりしていましたね。その時は子供向けの童話を読むことが多かったですけど、家の書斎にあった小説やプログラミング、パソコンの本、恐竜・自然・動物の図鑑などもすべて興味深く読んでいました。

——新しいことを教えてくれる本というものが刺激的だったんですね。

イリヤ:子供だったので、読めないような難しい言葉と出会うと「何だろうこの言葉?」と調べたり、想像を巡らせたりしました。「風見鶏」という言葉を初めて読んだ時は、ずっとどういうものかを想像していたのですが、実際の意味を知ったときには「そういうことか!でも僕が想像していたものの方がずっとすごいぞ」なんて思ったりもしましたね(笑)。

——日本のアニメやマンガのカルチャーに興味を持ったのは同じ頃でしょうか?

イリヤ:ロシアでも日本のアニメがいろいろと放送されていたんです。よく覚えているのは人魚姫のアニメでしたね、ディズニー版の人魚姫と違って小説に寄せた作品で、とても感動したんです。大人向けの日本アニメも放送されていて、6歳の頃に押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』を見た時には非常に衝撃を受けましたし、日本のアニメ作品を好きになっていくきっかけになりました。当時は日本のアニメーション作品だとは気づきませんでしたが、キャラクターデザインや動き方などを含めて、すごくお気に入りでした。

故郷からモスクワに引っ越したあと、日本のアニメや漫画を紹介する雑誌やこういったカルチャーが大好きな人達が集まるクラブに参加するようになり、そこからどんどんと日本のポップカルチャーを学んでいきましたね。

——現在では日本のアニメが海外でヒットしているということが広く知られているとはいえ、今から20年ほど前にロシアで日本のアニメが放送されていたというのは、当時日本の多くの人は知らなかったことだと思います。

イリヤ:印象的な作品だと、アンデルセン童話のアニメ作品などが放送されてましたね。私が『美少女戦士セーラームーン』を初めて見たのは1997年だったと思うんですが、当時は主題歌にボーカルがなくて、伴奏しか流れなかったんです。だから歌詞を知ったのはホントに最近のことだったりします。

言葉よりも絵のほうが多くの人に伝えられる

——ちなみに、ロシアにもアニメ作品があるとは思うのですが、どういった作品が多いんでしょうか?

イリヤ:もちろんロシアのアニメ作品もありましたし、私も見ていました。一番有名な制作会社だと、ソ連時代にできたソユーズムリトフィルムだと思います。ジャンルを問わずにユニークな作品がいっぱいあって、ストップモーションの人形劇や手描きのアニメーションもありましたが、大人向けの作品はほとんどなく、子供向けの作品ばかりでしたね。ユーリイ・ノルシュテインが制作した『霧につつまれたハリネズミ』という作品は、切り絵を使ったアニメで子供向けのように見えるんですが、話が重いし怖かったのをよく覚えてます。私としては、ロシアのアニメ作品にはエンターテイメントな作品はほとんどなく、アートな作品が比較的多いと思っています。

——なるほど。その後、アートの道へと進んでいくことになるとのことですが、おいくつくらいの時でしょうか?

イリヤ:11歳の時からロシアの芸術学校に入学して、大学時代には建築を学ぶようになりましたね。芸術の道を目指そうと思ったのも、小説を書き始めたのがきっかけですね。でも小説を書いても誰にも読んでもらえなくて、それで絵を描いてみたらみんなに見てもらえて、すぐ反応してもらえたんです。「言葉にするより、絵のほうがみんなの心に届きやすいんだ」と幼いながらに学んで、7歳くらいには絵を描くようになったんです。

——ロシアの芸術学校ではどんなことを学ばれていたんですか。

イリヤ:芸術学校なのでデッサンを中心に描いていたんですけど、アニメっぽい絵を描いてみたところ、「そういう絵を描くのは学校を卒業してからにしてほしい」と先生に怒られたりしましたね(笑)。

原恵一監督との出会いが大きなきっかけに

——日本に来たのはいつ頃ですか?

イリヤ: 24歳の時に日本に来ました。大学の後2年ほどはロシアでゲーム作品やモーションコミックを制作する会社にいました。デザインはもちろん、絵コンテを担当したのもそこが初めてで、会社の先輩達に教わりながらでしたね。

——一念発起して日本へと旅立っていくきっかけになったのはなんだったんでしょうか?

イリヤ:自分が監督した作品を制作し終えた後、会社の方針でモーションコミック作品を止めてゲーム作品を再度作るようになったんです。絵コンテを描く楽しさをとても感じたし、ロシアにはないエンターテイメントな作品を作りたいという気持ちが強くなったので、日本へ行こうと決めたんです。当時は日本語も話せなかったんですが、ネットで知り合った日本在住のロシア人がいて、その人にアドバイスをもらって来日したんです。

——そうして2014年に来日してから7年ほどになりますが、日本に来てから一番驚いたことはなんでしょうか?

イリヤ:街がきれいで、ゴミがどこにも落ちてないということ。ロシアとは違って夜になって暗くなるまでが早いことや、自販機やコンビニの多さや便利さ、電車があまりにも多いことも、来日した最初の頃はいろんなことに驚きました。でも私にとって一番大きかったのは、中央線沿いにはアニメスタジオが集まっていて、その近辺に素晴らしいクリエイター達がいることを実感できたことです。ある日、中央線に乗っていた時に押井監督をお見かけして、感激しました。私にとって憧れのクリエイターが集まる場所、まさに日本のハリウッドですね。

——僕がイリヤさんのお名前を最初に知ったのは、原恵一さんが監督された『バースデー・ワンダーランド』(2019年4月公開)のキャラクターデザインからでした。それ以前にはアニメ作品でほとんど見かけたことがないお名前だったうえに、とても特徴的なデザインが印象的でした。同作への制作にはどのように関わっていったのでしょう?

イリヤ:日本に来てからはイラストレーターとしてInstagramなどにイラストを公開していて、それがきっかけで画集『MOMENTARY』(パイ インターナショナル)を出させていただくことができたんです。ちょうどそのタイミングで原さんが画集を見つけて「彼が良いんじゃない?」と推薦してくださり、作品制作に関わることになりました。最初はキャラクターデザインだけだったんですが、原さんに「建築やプロップなどを描ける人を知らない?」と聞かれたので、自分から名乗り出て、美術設定やメカ設定、それに作画監修の部分まで関わらせていただきました。

——初めて日本のアニメ制作に関わった現場で、そこまで活躍できるクリエイターさんはなかなかいらっしゃらないかと思います。

イリヤ:そうですね、本当に恵まれていると思います。私が美術やメカ設定をやるかわりに、原さんは、いろいろな打ち合わせ現場に私を付き添いとして置いてくれたんです。声優さんや音楽にまつわるところや、その他の打ち合わせなどにも同席させてくれて、日本のアニメ制作を熱心に教えてくれたんです。なんというか、私に対して、弟子のように接してくれていました。その中でアニメ制作がどういうものかを学んでいきました。

——その後、2020年4月に配信された『攻殻機動隊 SAC_2045』の制作にも参加されていますよね。ペースを考えると『バースデー・ワンダーランド』の制作からすぐこちらに加わったように思えるのですが、こちらはどのように参加されたんでしょうか?

イリヤ:実はこちらも原監督がきっかけです。「いま新しい攻殻機動隊の制作が始まっているみたいだから、連絡を取ってみたらどう?」と原さんに声を掛けられて、Production I.Gの社長である石川光久さん宛てに草薙素子のアートを提案させていただいたところからスタートしました。

イラストは見てくれた人が自由に感じてほしい

——現在でもpixivやInstagramなどでイラストを公開されていますが、イラストを描かれている時に注意していたり、こだわっているのはどういった点でしょうか?

イリヤ:私は女性を描くことが多いですけど、彼女自身にあるバックストーリーを作って描いています。ちょっとこれは絵を見せつつ説明してもいいですか?

——お願いします。

イリヤ:この絵のタイトルは『蜘蛛』です。蜘蛛は糸で巣を作って獲物を捕まえているというのをヒントにして、女性は目の力や瞳でいろんなものを魅了する、夢中にしていくということを描きました。でもこの絵に関して、「なんで周りに線がたくさんあるの? 意味ないんじゃないの?」とコメントが来たことがあって。確かに『蜘蛛』だけでは説明は足りないとは思いますが、実は私からはあまり説明をしたくはない、見てくれた人それぞれが、より大事な意味を見つけてくれたら、そちらのほうが私としては嬉しいからです。

——ありがとうございます。イリヤさんにとって、『イリヤ・クブシノブといえばこの1枚』といえるような代表的な1枚を挙げるなら、どのイラストになりますか?

イリヤ:少し悩みましたが、こちらのイラストですね。私らしい表現というより、私が伝えたいメッセージというものがこのイラストに一番現れているかなと思います。この絵を見て「なんだろう?」と感じてもらって、時間をかけて大事な意味を見つけていただければ嬉しいです。

——イリヤさんは今後どういった活動をしていきたいですか?

イリヤ:子供の時から本を読んで想像するのが一番好きでした。セリフや情景を思い浮かべて、どこから撮って、どうやって動いて…というように。これと通じるところだと思うのですが、絵コンテを描く仕事をやりたいですね。私にとって、それ以上に楽しい仕事は思いつかないです。

——自分が中心となって監督をするとしたら、どういう作品を作りたいでしょう?

イリヤ:最近では小説や本を読む方がグっと少なくなったと思うのですが、素晴らしい物語はたくさんあります。自分が好きな小説を映画やアニメーション化して、多くの人に伝えたいと思っています。例えば『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『ニューロマンサー』『ファイト・クラブ』など、もしもアニメ作品になったとしたら見たいと思いませんか? 私がもしも監督をするのなら、そういった作品をアニメ化してみたいです。

——もしかしたら20年後30年後には、ご自身が脚本・キャラクターデザイン・作画監修しての監督作品が見られる未来もありえそうですね。

イリヤ:まず小説を書いて、それがヒットしたら「私がアニメ作品を作ります!私が監督しますので!」と制作に入っていくという流れが一番理想ですね(笑)

——例えばアメリカやロシアなどから声がかかったら、 制作が海外に移るということもありえるのでしょうか?

イリヤ:仮にアメリカ発のIP(Intellectual Property:知的財産権のこと)コンテンツがあって、日本在住のままで制作できるのであれば、参加できるんじゃないかなと思います。日本で、素晴らしいクリエイター達と一緒に、日本らしいアニメーションを作っていく、それが私にとっての一番の幸せなんです。今は日本から離れようとは思わないですね。

イリヤ・クブシノブ
イラストレーター。1990年生まれ、ロシア出身。SNSで定期的に作品を発表して人気を集め、フォロワー数はInstagramが200万人、Twitterが51万人。2014年から日本を活動拠点とし、2016年には初画集『MOMENTARY』(パイ インターナショナル)を発売。2019年公開の原恵一監督作品『バースデー・ワンダーランド』ではキャラクターデザインをはじめ、美術設定を担当して多くの反響を呼んだ。また、Netflixで配信中の『攻殻機動隊 SAC_2045』ではキャラクターデザインを担当。現在、自身の夢であるアニメーション監督を目指しながら、イラスト・アニメ業界で活動中。
Twitter:@Kuvshinov_Ilya
Instagram:@kuvshinov_ilya

Photography Yohei Kichiraku

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