宮崎敬太, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/keita-miyazaki/ Thu, 28 Dec 2023 10:07:40 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 宮崎敬太, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/keita-miyazaki/ 32 32 「自分がかっこわるいからマンガを描いてるんだと思います」——『スーパースターを唄って。』作者・薄場圭インタビュー https://tokion.jp/2023/12/28/interview-kei-usuba/ Thu, 28 Dec 2023 10:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=221036 話題のマンガ『スーパースターを唄って。』の作者・薄場圭インタビュー。

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「自分がかっこわるいからマンガを描いてるんだと思います」——『スーパースターを唄って。』作者・薄場圭インタビュー

薄場圭
1998年、大阪府生まれ。漫画家。『飛べない鳥達』で第84回新人コミック大賞<青年部門>佳作を受賞。「月刊!スピリッツ」2020年3月号にて『君の背に青を想う。』でデビュー。現在連載中の『スーパースターを唄って。』が初連載。
X:@usubane_
Instagram:@kei_usuba

一部のマンガ読みや日本語ラップマニアの間で話題になっている『スーパースターを唄って。』という作品をご存知だろうか。本作は感情を殺してドラッグを売っていた少年が、さまざまな仲間達の力を借りて、心の内に閉じ込めていた澱(おり)をラップに落とし込んでいく物語。どこまでも人間臭い登場人物、緻密な背景の描写、音楽や映画好きに刺さるディティールとが相まってストーリーが進んでいく。12月27日に第2集が発売されたのを記念し、作者の薄場圭に話を聞いた。

「自分が今、音楽をテーマにマンガを描くならラップかな」

——マンガを描き始めたきっかけを教えてください。

薄場圭(以下、薄場):昔から絵を描くことが好きで、映画を観たり、物語を作るのも趣味みたいな感じでした。他にできることもないのでマンガを描いてみようと思ったのがきっかけです。

——シナリオも書かれてたんですね。

薄場:そんな大したものじゃないです。絵が好きな人が授業中に落書きしてる感覚で、自分はちょっとした物語というか文章みたいなものを書いたり想像したりしてました。

——好きなマンガや映画を教えてください。

薄場:映画だったら『リリイ・シュシュのすべて』とか。日本のノワール映画も好きです。マンガだと松本大洋先生の『Sunny』とか。堀越耕平先生の『僕のヒーローアカデミア』も大好きです。あとは宮沢賢治の小説も読んでました。他にもめちゃくちゃいっぱいあります。マンガの描き方で強く影響を受けたのは、真造圭伍先生です。

——もともと真造圭伍先生のアシスタントをされていたんですよね。

薄場:はい。何も知らない状態でアシスタントに入らせてもらったので、マンガの描き方のほとんどを真造先生から教わりました。だから教わってないことは今でもできない(笑)。真造先生が手描きだったから、僕も全部手描きだし、真造先生が自分で背景まで描いていたから、僕も自分で描いてます。今、自分にもアシスタントが数名いますが、現状は仕上げ作業をお願いするくらいです。

——背景の汚れた雰囲気に真造先生を感じました。

薄場:それはすごく嬉しいですね。背景ってキャラクターよりもコマを占める面積が大きいんですよ。だから誰が描くかでマンガの空気感みたいなものは変わってくると思います。

——アーティストのGILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEさんとはお友達?

薄場:辞めてしまったんですけど、大学時代に知り合いました。腐れ縁的な。

——お互いに高め合う存在?

薄場:それはないです(笑)。ただの友達ですね。

——ではヒップホップを題材にマンガを描こうと思ったのはなぜですか?

薄場:最初からヒップホップを描きたいと思ったわけじゃなくて、まず週刊連載をしたかったんです。僕の作風で週刊誌の連載をしようと思った時、何が柱になるかなと考えて、「音楽がいいかも」と思いつきました。自分自身もラップが好きで、ラッパーがヒーローだったので、こういう話になりました。

——先日別媒体でSEEDAさんと対談されてましたよね? あと第2集にはANARCHYさんの『GROWTH』が背景にさらりと登場しててお好きなのかなと思いました。

薄場:SEEDAさんもANARCHYさんも大好きです。『GROWTH』は小学5年生くらいの頃に聴いて衝撃を受けました。

——ということは京都が地元?

薄場:いえ、大阪の泉州あたりです。レゲエ文化が根強い地域で、小学校の給食時間にJ-POPと同じ流れでレゲエがかかるんです。そんな環境だからか、ヒップホップもかなり身近というか。レゲエも好きだけど、ヒップホップにハマりましたね。

「あくまで自分が見てきた肌感覚を描いています」

——以前のインタビューで主人公の雪人(ゆきと)に自分を重ねたと発言されてましたね。

薄場:僕はキャラクターを作る時に、最初に自分を当てはめるんです。他のキャラクターにも自分のある部分が反映されてたりします。その発言に関しては、自分には姉がいるので、そういう面が雪人に反映されている。ただそれは雪人の設定を作る最初期段階の話で、物語が動き出すとむしろ自分が10代の頃に一緒に遊んでた友達が投影されていきました。自分を重ねて描いている部分が多いのは完全にメイジです。

——なぜこんな質問をしたのかというと、各キャラクター達が放つエネルギーがものすごいからです。どうやってあんなキャラクターを生み出したのかなと思って。

薄場:そこはしっかりと作ったからだと思います。自分の想像から離れるくらいまでキャラクターができてくるとエネルギーを感じさせるような強いセリフを言ったりします。

——あと貧困やドラッグの描写があまりにもリアルでびっくりしました。

薄場:実はその辺に関してはほとんど取材してなくて、完全に肌感覚で描いてます。緻密に取材するスタイルのマンガだと、小学館には『闇金ウシジマくん』や『九条の大罪』の真鍋昌平先生がいらっしゃるので。僕はあんなに緻密に取材することはできないので、あくまで自分が見てきたものを描いています。友達の話とか、10代の頃にこういう人いたなとか。地元感の描写に関してはむしろあまり取材しないようにしてるかもしれないです。ただ音楽に関してはわりといろんな方にお話を聞かせていただきました。

——第1集の巻末の取材協力に音楽レーベル・SUMMITの増田岳哉さんやライターの渡辺志保さんのお名前がありましたね。

薄場:友達に誘われて、去年(2022年)渋谷の「WWW」の年越しパーティに行った時に、増田さんも現場にいらしたので簡単に自己紹介して、乾杯して「今度お話を聞かせてください」とお願いしたら快諾していただきました。

——ちなみに増田さんにはどんな話を聞いたんですか?

薄場:増田さんは日本語ラップの流れを見続けてきた方だと思うので、キングギドラが出てきた頃、TOKONA-Xが出てきた頃、さらにフリースタイルバトルが出てきた一方で、違うカルチャーも出てきたりという時に、どんなことを感じていたのか、そして増田さんから見て、それらがどのようにカルチャーに浸透していったと思うか、みたいなことを伺いました。またどういう人のどういうところに才能を感じるか、とかも。あとシンプルにSUMMITの増田さんに実際に会ってお話ししてみたかったっていうのもあります。

プロット段階の仮タイトルは「花と雨」だった

——ANARCHYさんのどんなところに惹かれたんですか?

薄場: ANARCHYさんの曲をちゃんと聴き始めたのは中学生くらいの頃なんです。自分は結構ひねくれた部分があるんですね。その中学時代はひねくれがすごくて、むしろ卑屈になってたんですよ。何もかも「どうせ俺なんて」みたいな。そんな時にANARCHYさんの「死ぬまでの生い立ち泣いてても仕方ない」ってリリックを聴いたんです。MACCHOさんの「どの口が何言うかが肝心」じゃないけど、ANARCHYさんに「泣いてても仕方ない」って言われたら、仕方ねえなって思うじゃないですか。

——間違いないですね。

薄場:言葉単体だけ抜き出すと普通にテレビとかでも言ってることじゃないですか。でもANARCHYさんが言ってたってことが僕にとっては意味がありました。

——第1集では雪人もよく殴られてますが、すごく痛そうに描いてるのが素晴らしいと思いました。暴力と貧困とドラッグ、そこに寄り添うヒップホップ。メディアが報じない世界を描こうと思ったのはなぜですか?

薄場:その質問に関して、めちゃくちゃ正直に答えると「わからない」です。僕は友達のことを描きたかったってだけなんです。貧困がどうのこうのとか、社会を映し出すみたいな意識は一切ない。むしろもう会わなくなった友達に向けて描いてる部分が大きいです。

——自分は癖でつい批評っぽく作品を読んでしまったんですが、むしろ今の薄場さんの発言を聞いて完全にラッパー的なマンガの描き方だと思いました。間違いなさすぎます。

薄場:ありがたいです。でもやっぱマンガは作者と作品が切り離されてるとこがあると思うんです。自分は、自分の思想とマンガのキャラクターを切り離して描いてます。マンガはラッパーよりも作者の匿名性が高いし、作品が面白ければ読んでもらえる。音楽とかになると、自分は本人がどういう人なのかで曲を聴くことが多いです。実際にお会いしたSEEDAさんも、周りの音楽をやってる人達も、みんなめちゃくちゃかっこよかったんです。僕は、自分がかっこわるいからマンガを描いてるんだと思います。

——今、SEEDAさんのお名前が出ましたが、やはりこの作品の設定からは「花と雨」を思い出してしまうんです。

薄場:「花と雨」は大好きです。というか、プロットの段階では「花と雨」という仮タイトルにしていました。連載が決まった時に、正式に『スーパースターを唄って。』というタイトルをつけました。

ライブシーンに込めた想い

——僕はオッサンやクラブ・MOON DOLLの店長の孫さんのような大人に感情移入して読んでました。

薄場:オッサンに関してはどのコミュニティにも大人になれなかった大人がいるような気がしていて。このマンガは子供がスーパースターになる話なので、どこかで大人が助けてくれないと無理だなって思って、オッサンや孫さんを出しました。孫さんに関しては、友達のラッパーにお願いしてクラブの楽屋を取材させてもらいました。どんな雰囲気か、どんな話をしてるか、空気感を知りたくて。あとは僕個人の経験も大きいです。この企画の連載を通すまでもいろんな大人が助けてくれたし、今も編集部の人達にいっぱい助けてもらっています。それは増田さんも、渡辺志保さんも多分、シーンの若手に同じことをしていて、やっぱり子供だけじゃなくて、導いてくれる大人が必要だと思います。

——そういうふうに考えてくれる若い世代がいてくれるのは嬉しいです。今SNSを見ると世代間の断絶ばかりが目立つので。

薄場:この作品に関して言うと、意図的にステレオタイプな悪者を出してないんですよね。みんなそれぞれ事情がある。第2集でわかることもかなりあります。もちろん悪い人も出てくるけど、その人はそう生きると決めてる人。それはそれでちゃんと描く予定です。

——第1集のハイライトはライブのシーンだと思います。音楽を絵で表現するのは難しくなかったですか?

薄場:そうですね。ライブのシーンまで雪人の心情は吹き出しじゃなくて、コマの外に書いてたんですよ。ライブのシーンではそれを絵にしたんです。目で観てわかるように。だからセリフもない。

——だからあのシーンでフォントを変えたんですね。

薄場:そこは編集担当の西尾さんがやってくださいました。僕は昔描いてた短編でもコマの外にポエムを書きがちで。たぶんそのへんは宮沢賢治からの影響だと思います。

——ライブシーンの観客の反応もめちゃくちゃリアルだと思いました。

薄場:当然刺さる人もいれば刺さらない人もいると思ったんで。今年「POP YOURS」に取材に行かせてもらったんですね。その時Tohjiさんのライブが終わって民族大移動みたいな感じで人がいなくなって、今度は喫煙所からAwichさんのファンの人達が入れ替わるようにやってきたんです。僕はTohjiさんもAwichさんも好きだから普通にずっと観てたけど、その入れ替わる感じがすごく印象的だったんです。さっきも言ったけど、このマンガは雪人、メイジ、リリー達がスーパースターになっていく話なので、いろんな人達に刺さるクルーにはいろんなタイプのやつがいると思ったんです。

——ライブ前に雪人が「ナイキ」の「エアフォース1」から「アディダス」の「スーパースター」に履き替えるのは?

薄場:ヘッズは真っ白の「エアフォース1」を履くと思うんですよ。僕も今日履いてますけど。雪人はボロボロになるまで「エアフォース1」を履いてた。あのライブで「スーパースター」を履くのはラッパーになったってことを明示したかったからです。あとはシンプルにRUN DMCへのオマージュでもあります。

——話せる範囲で構わないので、今後はどのような話になっていくか教えてください。

薄場:第1集は雪人の話で、次の第2集はメイジの話になります。その後は群像劇的に主要キャラクター達の話を掘り下げていく予定です。最終回はもう決まってます。最終回が一番面白いです。だから楽しみにしててほしいです。

——ちなみに今後描いてみたい漫画のテーマはありますか?

薄場:ガンダムを描いてみたい。僕は太田垣康男先生の『機動戦士ガンダム サンダーボルト』が大好きなので。ガンダムが出てこないゲリラの少年の話とか面白そう。

Photography Tameki Oshiro

『スーパースターを唄って。』

■『スーパースターを唄って。』
第2集が12月27日に発売
第1集発売即重版。貧困と友情の極限ドラマ。
主人公・大路雪人。18歳、売人。
幼い頃に最愛の姉を含む、全ての家族を失った彼だが、
信じてくれる唯一の親友がいた。
益田メイジ。18歳、ビートメイカー。
「お前は言いたいことだけ言え。」
「オレが売ってやる。」
メイジに誘われ、再び音楽の道を歩み始めるも、
劣悪な職場と地元のしがらみが容赦無く雪人を襲う。
ボロボロの姿で初ライブのステージに立った先は……
メイジと雪人の過去と絆が今、紡がれる。

『僕のヒーローアカデミア』堀越耕平先生、絶賛!!
今年最注目の人間叙情詩、最新2集!!

著者:薄場 圭
発行:小学館
https://bigcomics.jp/series/1de5c7e1986fe

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NewJeansの楽曲プロデューサー250の自問自答 “ポン(뽕)”に込めたニュアンスを解体する https://tokion.jp/2023/07/21/interview-250/ Fri, 21 Jul 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=196680 音楽家の250はなぜ韓国の大衆音楽・ポンチャックをテーマに選んだのか。映画『母なる証明』から〈MAD DECENT〉、YMOまでさまざまな話を交えながら250の創作源を探る。

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50(イオゴン)

250(イオゴン)
韓国の音楽プロデューサー。2011年からヒップホップのトラックメーカーを始める。2014年から〈BANA〉に所属し、自身の制作と並行してBOAやNCT、ITZY等K-POPの作曲も行う。2022年8月デビューしたNewJeansの楽曲プロデュースも手掛けている。韓国大衆音楽の根底に潜む「ポン(뽕)」を探究し続け、2022年3月にアルバム『Ppong』を〈BANA〉からリリースした。

NewJeansの「Attention」「Hype Boy」「Ditto」を手掛けた音楽プロデューサーの250(イオゴン)が1stソロアルバム『Ppong』を発表した。同作は第20回韓国大衆音楽賞で「今年のアルバム」「今年の音楽人」「最優秀エレクトロニック・アルバム」「最優秀エレクトロニック・ソング」の4冠を達成した他、世界でも高く評価された。

韓国のアンダーグラウンドヒップホップのプロデューサーとして頭角を現し、NCT 127の「Chain」やITZYの「Gas Me Up」といったK-POPの制作にも携わっている。韓国の敏腕クリエイターとして脚光を浴びる彼はなぜ韓国のノスタルジックな大衆音楽・ポンチャックをテーマに選んだのだろうか? そんな疑問を持って初の日本ツアーが終わったばかりの250の元に向かった。すると彼は、「ポンチャックは韓国で常に鳴っているのに誰も聴こうとしない音楽だった」と話し出した。そこから話題はポン・ジュノ監督の『母なる証明』、さらには2000年代後半〜2010年代前半のMAD DECENT、韓国社会へと広がっていく……。

『Ppong』は溢れるインテリジェンスと皮肉の効いたユーモアで表現されたK-POPへの自問自答だ。世界的ムーブメントになったNewJeansを手掛けた才人が作らなくてはならなかったもう1つのアルバムを本人のインタビューとともに解体していく。

ポンチャックは何を混ぜてもいいオープンな音楽

ーー最近の日本のメディアのインタビューで「MAD DECENTに影響を受けた」と話されていましたね。

250:ヒップホップがコアにありつつ、いろんなジャンルのいろんな音をミックスしていくところがおもしろいと思ったんです。

ーーBeenzino、E SENS、 Kim Ximyaといったラッパー達の楽曲も手掛けていますね。

250:ドクタードレー。『The Chronic』はお気に入りのアルバムの1つです。僕はドラムの音を愛していて、ドレーのドラムの音を愛しているから。僕にとって音楽で最も大事なのはドラムの音だと考えています。中でも『2001』に収録されている「Still D.R.E.」のドラムの音がベストですね。

ーーそんな250さんが初のソロアルバムでポンチャックをベースにしたエレクトロニックミュージックを制作したのはなぜですか?

250:ポンチャックはどこにいても流れてくる韓国の大衆音楽。自分が最初になじんだ音楽で、僕にとっては韓国のバックグラウンドミュージック(BGM)のような位置づけです。だから最初のアルバムはポンチャックにしたいと思っていました。“ポンチャック(뽕짝)”の“ポン(뽕)”にはすごくいろんなイメージがあります。例えば、麻薬を“ヒロポン(히로뽕)”と言うとか。他にもダサさ、いやらしさ、あと哀愁みたいなニュアンスもある。しかもあまり良いニュアンスで使われない。僕はそこを表現したかったんです。韓国に住んでいる人だけが文化的に感じること。そもそも“ポン”という言葉は、日常ではほとんど発することがない言葉ですね。

ーーそんな意味があったんですね……知りませんでした。

250:あと僕はいろんなジャンルの音楽を聴いて、そこから好きな音を探して、混ぜるのが好きなんです。例えば“チャンポン(짬뽕)”。“ポン”には混ぜるって意味もあります。ヒップホップも、ハウスも、全部ミックスします。ポンチャックは何を混ぜてもいいオープンな音楽です。何が起こってもいい。そういう意味では、いろんなジャンルから好きな音を持ってきて音楽を作る韓国人の僕にとって、ポンチャックは一番いいジャンルだと思ったんですよね。

映画『母なる証明』で垣間見える韓国の情緒

ーー『Ppong』の「Bang Bus」を聴いてポン・ジュノ監督の……。

250:映画『母なる証明』のバスのシーンですか?

ーーそうです! あそこで鳴っている音楽をポンチャックと考えていいですか?

250:音楽的には違いますけど、あの場面が与えてくれる情緒はものすごくポンチャック的であると言えますね。

ーーあのシーンにものすごい衝撃を受けたんです。

250:僕もです(笑)。

ーー映画そのもののインパクトもすさまじかったし、中高年の方が高速バスの中で爆音で踊っていることにもすごく驚きました。日本にはない文化です。

250:1990年代は韓国のおばちゃん達がよく高速バスで旅行をしてたんですよ。高速バスは移動時間が長いから飽きちゃう。だからバスにはショーをする人が同乗していたんです。そういう人の中ですごく有名だったのがイ・パクサでした。

ーーうわぁぁ……。

250:それで彼はサービスエリアみたいな高速道路の休憩所で、旅行中のおばちゃん達に自分のアルバムを手売りしていたわけです。実は韓国でもバスで踊ったりするのは、社会的にあまり良いイメージを持たれてない文化なんですけどね。

ーー250さんがポンチャックに注目したのは、そういった部分に韓国らしさを感じたから?

250:“韓国らしさ”というとちょっと違いますね。みんなが知っているのに誰の目にもとまらない。どこからでも聴こえてくるのに自分からは聴かない。そこにおもしろさを感じたんです。さっき「ポンチャックは韓国のバックグラウンドミュージックだ」と言ったのもそういう意味です。つまりポンチャックは本当の意味で韓国の大衆音楽なんです。

ーー少し話は逸れますが、『パラサイト 半地下の家族』が世界的にはやった時、韓国の友達が「韓国のあんな部分は見せないでほしい。恥ずかしい」と言っていたのがすごく印象的だったんです。

250:社会的な意味では、僕にもその気持ちはわかります。ただ感情面だとそう思わなくて。自身の悲しみや恥ずかしさを見せることは勇敢だと感じています。

韓国人の欲求を満たすEDMの爆発的な低音

ーー爆音といえば、韓国は街で鳴る音楽も爆音ですよね。

250:僕も日本に来て感じました。明洞とかと比べると原宿は店内BGMの音が小さいなって。たぶん日本は文化的に音楽を繊細にリスニングしてて、韓国はフィジカリー(身体的)なのかなって。

ーーフィジカリーをもう少し具体的に言うとどんな表現になりますか?

250:うーん……韓国人の感覚だと「あのくらいの音量を出さないと聴こえないでしょ?」というニュアンスですかね。

ーーそれはサービス精神で音を大きくしているということですか?

250:違います。もっと感覚的なことです。食べ物で例えるとわかりやすいと思うんですけど、僕等からすると日本でからいといわれている料理は全然からくないんですよ。さらに日本の方が韓国で何かを食べて「からい」と感じたとしても、たいてい僕等にとっては全然からくない。むしろもっとからさがほしい。これは音楽に対する捉え方にも通じていると思います。

ーーポンチャックは現在のK-POPに比べると音圧が軽いですよね? 250さんの体感として、韓国の音楽の音圧が上がったのはいつ頃からだと思いますか?

250:EDMが韓国に入ってきてからですね。正確な年はわかりませんが、2010年代の前半か半ばくらいじゃないかな。

ーーなぜEDMが韓国にハマったんだと思いますか?

250:食べ物の話と同じで、あの爆発的な低音が韓国人の欲求にハマったんだと思います。

ーーなるほど。そんな爆音文化の韓国で音楽制作をしている250さんがエンジニアリングで意識していることはなんですか?

250:当たり前のことなんですが、ドラムはドラム、ベースはベース、それぞれの音がしっかりと聴こえることが一番重要。あと空間とバランスですね。音をどう配置するのかはものすごく意識しています。

「イ・パクサさんだけは参加させちゃいけないと思っていた」

ーー先ほどイ・パクサの名前が挙がりましたが『Ppong』の「Love Story」に参加していますね。

250:実を言うと『Ppong』を作るにあたって、最初イ・パクサさんだけは参加させちゃいけないと思っていたんです。それはイ・パクサこそがポンチャックだからです。彼に参加してもらうのはあまりに安易だし、それでは250の作品にもならないと思いました。

ーーそれなのにオファーしたのはなぜ?

250:ポンチャックをテーマにしたアルバムを作っているのに、イ・パクサさんが参加してないと、逆に世の中からはカッコつけてるように見えてしまうでしょ? 意識的に呼ばなかったことが見え見えで、それってすごいカッコ悪いなと思ったんです。だから素直になってオファーしました(笑)。

ーー「Love Story」はどんな歌詞なんですか?

250:「けんかしないでただただ踊れ」みたいなことですね。あれはイ・パクサさんが昔のアルバムでコールしていることなんです。僕はそれがすごく好きだったので、同じコールをしてもらいました。

ーー250さんは今回の日本ツアーで電気グルーヴの石野卓球さんにDJをバトンタッチする瞬間がありました。卓球さんがリミックスしたイ・パクサさんの楽曲はご存じでしたか?

250:もちろんです! そもそもイ・パクサさんは電気グルーヴのあのリミックスのおかげで、韓国で注目されるようになったんです。それまではほとんど知られていなくて、逆輸入で人気が出たアーティストなんです。

ーーそうだったんですか!?

250:そうなんですよ。だから卓球さんにバトンタッチできた時は本当に感動しました。「ああ、電気グルーヴだ……」って(笑)。しかも卓球さんは僕に拍手をしてくれたんです。すごく嬉しかったですね。あと初めて卓球さんのDJを体験したんですが、僕が消えてなくなりそうなくらい盛り上がっていました。卓球さんのプレイはあまりにもすごい。別次元です。かなり衝撃を受けました。

ーー電気グルーヴのリミックスを聴いてどう思われましたか?

250:とても自由だと思いました。実はイ・パクサさんを『Ppong』に呼ぶか躊躇した理由の1つが、この電気グルーヴのリミックスの存在だったんです。あれよりもうまくできる自信がなかった。

ーー『Ppong』は250さんでしか表現できない音楽だと思いました。

250:(日本語で)ありがとうございます!

K-POPはなんでも起こりうる音楽

ーー「Royal Blue」には、日野皓正セクステットでも活動していたジャズ・サックス奏者ジョンシクさんが参加していますが、現在の日本の音楽シーンで注目しているアーティストはいますか?

250:日本に限ったことじゃないんですが、『Ppong』を制作していた期間はポンチャックばかり聴いていたので、最近のアーティストはほとんど知らないんです。なので、僕が好きな日本のアーティストというと、坂本龍一さんになりますね。あと玉置浩二さんやカシオペアもすごく好きです。中高生の頃はX JAPANのファンでしたよ(笑)。

ーー『Ppong』には細野晴臣さんの作品にも通じる感覚があると思いました。

250:あー。今回のアルバムには表現の上で乗り越えなきゃいけないいくつもの課題があったんです。僕はその答えをYMOに見いだして、自分なりにあれこれ試して解決していきました。だから細野さんのアイデアにも影響を受けている面もあると思います。

ーー課題とは?

250:アジア的なサウンドとコンピューターミュージックをどのように融合させるかという部分ですね。

ーー今回のアルバムはNewJeansの制作と並行して作業されていたんですか?

250:そうですね。一緒にやっていました。

ーーNew Jeansに関してはどのように制作されていたんですか?

250:僕は最初にトラックを作って、メロディを作る人に渡します。その後、メロディが入ったトラックをさらに調整し、メロディメイカー側もそれに合わせて再調整し、みたいなやりとりを何度も繰り返しました。

ーー混乱しませんでしたか?

250:僕は暇さえあれば基本的にいつも音楽を作っているので、特別混乱することはなかったですね。あとNewJeansも『Ppong』も根底にあるのは、好きな音を探してミックスするという作業なんです。

ーーあー、なるほど。それが〈MAD DECENT〉を好きな理由につながるわけですね。Diploが2000年代にやっていた「HOLLERTRONIX」のマッシュアップ感とか。

250:そうですそうです。

ーーこれからのK-POPと韓国音楽シーンがどのようになっていくと思いますか?

250:僕には「K-POP」がどういうものかわからないんです。そもそも「K」とは外からの呼称ですし。だから僕自身が意識していることはないです。この前、スウェーデンのミュージシャンの友人に「K-POPってなんなのかな?」って質問したんですよ。そしたら「なんでも起こりうる音楽だ」って答えが返ってきました。確かにそういうシーンではありますね。

ーー韓国のアーティストでコラボレーションしてみたい人はいますか?

250:ビンジノさんですね。クールじゃないですか。繰り返しになってしまいますが、最近のアーティストのことをほとんど知らないんですよ。なので、自分の記憶の中にある人達とやりたいです。

ーー250さん自身、今後やってみたいことはありますか?

250:『母なる証明』のバスのシーンのようなめちゃくちゃなパーティをしたいです(笑)。

Photography Miyu Terasawa
Editorial Assistant Emiri Komiya
Translation Hyang Suk Kim
Cooperation Jimbocho Tacto

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