渡部恵, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kei-watabe/ Tue, 30 Nov 2021 10:12:10 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 渡部恵, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kei-watabe/ 32 32 監督・丸山健志 × 俳優・清水尋也 映画『スパゲティコード・ラブ』で描かれる大都市東京、若者が生きる“今”について想うこと https://tokion.jp/2021/11/30/takeshi-maruyama-x-hiroya-shimizu/ Tue, 30 Nov 2021 10:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=80708 11月26日に公開された映画『スパゲティコード・ラブ』の丸山健志監督と、大森慎吾役を演じた清水尋也による対談。お互いの印象から、作品作り、SNSや東京に対する思いなどを語る。

The post 監督・丸山健志 × 俳優・清水尋也 映画『スパゲティコード・ラブ』で描かれる大都市東京、若者が生きる“今”について想うこと appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>

2021年11月26日に公開された映画『スパゲティコード・ラブ』は、東京を舞台に繰り広げられる13人の若者による群像劇。孤独に苛まれ、夢に食いつぶされそうになりながらも、微かな希望を胸にもがき苦しむ姿を、映像クリエイター丸山健志がスタイリッシュに切り取った。13人の登場人物は一見何の関係性もないように見えるが、物語が進むにつれて複雑に絡み合い1本の線になる……。そんな読解困難なほどに絡み合った彼らの関係性を「スパゲティコード」と呼ばれるプログラミングコードになぞらえ、タイトルにした。多くのMVやCMを手掛け、本作が初の長編映画となる丸山健志と、大森慎吾役を演じた清水尋也にお互いの印象や、作品作り、東京に対する思いなどを聞いた。

——まず、本作は丸山監督初の長編作品です。撮り終えた感想を聞かせてください。

丸山健志(以下、丸山):先日第34回東京国際映画祭で上映されて、日本のお客さんに初めて観ていただきました。その際に観客と僕とで質疑応答の時間があったのですが、42歳の男性が「若者の物語ですが、とても共感できました」とか、就職活動中の方が「今この映画に出合えて良かったです」と感想を寄せてくださった。その言葉を聞いて僕、ファ〜って舞いあがっちゃって(笑)。すごく嬉しかった。映画作品とは、僕のものではなく観賞した方のものだと思っている。だからこれからもっと多くの方に観ていただいて、その反応を見ることで初めて長編映画作品を撮ったという実感が湧いてくるんじゃないかな。今はちょっとまだ“わからない”というのが本音です。

——長編映画とMVとの作り方の違いはありましたか?

丸山:映画とMVとでは、作る目的が違います。映画はお客さんのために作るし、MVはアーティストのために、CMは企業のために作るものですから。ただ、今回関わってくれたスタッフはMVやCMを一緒に作ってきた人達。緊急事態宣言明けの、去年の夏頃から撮影を開始したこともあり、全員の熱量がものすごく高い状態で。楽しく、そしてストレスなく撮影できました。

——13人のキャストの1人に清水尋也さんを起用した理由を教えてください。

丸山:中島哲也監督の『渇き。』を見てから役者として注目していたんです。とてもカッコ良いんだけれど、何を考えているかわからない、それでいてセクシーさもあって……。なんだか得体の知れない印象で、とても気になっていました。それに、昔好きだった人に「最近好きな俳優っている?」と尋ねたら、清水さんの名前が挙がった。好きな人が「セクシーだから清水尋也が好き」なんて言っていて、本当ならイラッとするところなんだけれど、僕も清水さんが好きだったから嬉しくて(笑)。女性、男性問わず惹きつけられる存在ですよね。

清水尋也(以下、清水):わ、すごく嬉しいです。ありがとうございます。

——清水さんと丸山監督とはこの映画が初対面だと伺いました。清水さんから見た丸山監督はどんな印象でしたか?

清水:初対面にも関わらず、お会いした時からすぐにフラットに会話ができて。現場でもすごく話しやすい方でした。僕は役者として芝居をする際には、基本的に監督の指示に従うことを信条にしているのですが、丸山監督がとても話しやすい方だったのでいろいろと現場でセリフや動きを僕から提案させてもらったりしました。

——他の映画監督の現場との違いなどはありましたか?

清水:ずっと映画を撮っている監督とはアプローチが違うなと感じることが多くありました。例えばアングル。丸山監督の撮る僕は、普段見る自分の姿と全く違うんです。それがとても新鮮で、そして勉強にもなりました。

——今回13人もの登場人物がいますが、大変なことはありましたか?

丸山:まずキャスティングでは、13人のキャラクターが絶対にかぶらないことを意識しました。オーディションもしたり、直接オファーすることもあったりと起用の方法はさまざまでしたが、一人ひとりの個性が光るそんな役者を集めました。配役が決まるたびに自然と画が見えてきて、「じゃあ残りの人達はどうしようかな」なんていう風にパズルのように決めていきました。

——清水さん演じる大森慎吾はどこか冷めた役どころでした。清水さんご本人が共感できる部分はありましたか?

清水:それがあまりなくて……。僕って結構悩みを抱えることもなくて。楽しいことも大好きですし。

丸山:そう、清水さんって会う前に抱いていたイメージと全く違うキャラクターなんですよ。ナイーブで繊細な人なのかなと思っていたら、すごく軽い(笑)。なんかぴょんぴょんしてるんですよ。歩いていてもぴょんぴょんしているというかね。こんなに軽い人なのに、どうして繊細な役を演じられるんだろう? と本当に不思議で。

清水:(笑)。僕は普段から演じる役と、自分との性格に共通項を見出して芝居することはないんです。どんな役に対してもものすごくフラットに臨んでいます。台本を読んで役に対する理解は深めるけれど、読み込んで「現場でこう演じよう」ということはしません。自分でイメージを作り上げてしまうと、どうしても独りよがりの役になってしまうし、現場に立ったらイメージと全然違うってことのほうが多いですし。相手役の芝居も想像と違うと噛み合わなくなってしまいますしね。僕一人では芝居ができないから、その場で生まれるものを大切にしています。大森慎吾もそうやって生まれました。

SNSは距離感を意識したほうがいい

——作中では、SNSでの繋がりや承認欲求に対する描写が印象的です。お二人は昨今のSNSで人々が繋がることだったり、承認欲求にかられる人々に対してどう考えていますか?

丸山:こういう映画を撮影しておきながらこんなことを言うのは……って感じですが、僕は結構否定的に捉えています。理由は、単純に良い話を聞いたことがないからです。SNSで恋愛に発展したり、友達ができたりと、簡単に人が繋がることができる。でも、そうやって人間関係を築いた人からは後悔ばかり聞かされるんですよね。「こんなことしなきゃ良かった」って。でも一方で、その出会いが良いものであれば肯定的に捉えられたのかもしれないとも思います。寂しさを簡単に埋められるツールとして考えるとすごく有効的だし、SNSで日々の活力を得られるということであればすごく良いものだと思いますよ。

清水:僕はSNSど真ん中世代。SNSと共に育ってきたから、周りで使っていない人がいないし僕自身も使っている。SNSの良いところは、簡単に人と繋がることができるところ。会ったことのない人や異国の地に生きる人とも繋がれるわけで。それで仕事関係のコミュニティが広がっていくとか、接することのできない人とコミュニケーションを取るきっかけになる利点があると思います。一方で、そういう繋がりを作るハードルが低くなっているからこそ、繋がりの尊さを失ってきているのかもしれないとも感じています。簡単に繋がれるということは、簡単に捨てられる関係だと考えることもできる。だからSNSで良い思いをしない人もいるかもしれないですよね。

——SNSど真ん中世代として、どうSNSと向き合うことが正解だと思いますか?

清水:向こうにいる誰かとの距離感を意識して、ご都合主義で使うのが良いと思いますし、僕はそうしています。例えばコメント。僕に向けられる良い意見には「ありがとう!」って感謝しつつ、良くない意見に対しては「はいはい」って気にしない。実際、嫌なコメントもたまに来るんですよ。でも、僕は会ったことがない人に対して暴言を吐くことが理解できないので、そんな攻撃的な言葉を向けられても何も刺さらないんですよね。ダメージを受けないからこそ、うまく付き合っていけているのかもしれません。

「東京は夢をかなえる場所」

——本作は東京を舞台に物語が描かれています。丸山監督は石川県出身で、清水さんは東京都出身ですがそれぞれの東京に対するイメージとは?

丸山:夢をかなえる場所ですごく魅力的な一方で、夢に殺される残酷な場所でもある。でも、結果的には人として成長できる街ですよね。どんなことも経験できるから、魅力的で大好きです。僕は東京にいることで、ネガティブになることが全くないんです。だからずっとこれからも住み続けたいと思っています。そういえば、東京国際映画祭で記者の人に「東京が14人目の主人公ですよね」と言われて確かにそうだよなって、妙に納得してしまいました。

清水:僕の考えも丸山監督と一緒で、日本で一番夢が集まる場所であり、日本で一番夢が散ってる場所だと思っています。東京で生まれて育った僕からすると、生活の場。ずっと住んでいるからこそ、地方に憧れを抱くこともあって。でもいざ離れてみると「東京って楽しいじゃん」って思う(笑)。ただ帰ってくると息苦しさを感じることも事実で……。表現するのが難しいですけれど、大好きでもあり大嫌いでもあるというのが本音ですかね。ずっと平和で華やかで煌びやかなだけの街じゃない。そんな二面性を持っている街だからこそ、たくさん人が集まってくるのかもしれない。素敵な街だよな、って感じています。

——最後にこれからの二人の目標を聞かせてください。

丸山:世界と勝負できる映画作品を作り続けたいです。MVや広告も作り続けますが、勝負するのは映画で、と考えています。

清水:明確に目標を定めるのは肌に合わなくて。その都度選択肢を目の前に置いて、本当に自分がやりたいことだけを選択していきたいです。その結果、行き着く先が理想の場所でない時は自分の負け。そんな意識を持ちながら、子ども心のような純粋で楽しい充実感を忘れることなく前進していきたいです。来年はデビュー10周年の節目の年なので、より一層気を引き締めてより良いものを作って多くの人に見てもらえたらいい。そして、丸山監督にまた呼んでいただけたら嬉しいですよね。いつでもどこへでもすぐ駆けつけます!

右:丸山健志(まるやま・たけし)
1980年生まれ。石川県金沢市出身。2004年に脚本・監督を務めた学生映画『エスカルゴ』がぴあフィルムフェスティバル入賞、第6回 TAMA NEW WAVE 審査員特別賞を受賞しプロデビュー。以降、MV、TV-CM、ドキュメンタリーなど、発信の形にとらわれることなく話題作を発信し続ける。MONDO GROSSO「ラビリンス[Vocal:満島ひかり]」のMVでMTV VMAJ2017でBest Dance Videoを受賞
https://www.takeshi-maruyama.com

左:清水尋也(しみず・ひろや)
1999年生まれ。東京都出身。主な出演作に、映画『渇き。』(2014,中島哲也監督)、『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』(2015,成島出監督)、『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019,山戸結希監督)、ドラマ『インベスターZ』、(2018)、『サギデカ』(2019)、『アノニマス 〜警視庁“指殺人”対策室〜』(2021)など。最新作に、連続テレビ小説『おかえりモネ』(2021)、声優初挑戦にして主演の座を射止めた劇場アニメ『映画大好きポンポさん』(2021,平尾隆之監督)、映画『東京リベンジャーズ』(2021,英勉監督)などがある。2019 年、第11回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。待機作にドラマ『となりのチカラ』(2022年1月スタート,EX系列)、映画『さがす』(2022年1月21日公開予定,片山慎三監督)などがある
http://www.office-saku.com/artists/new_actors/hiroya_shimizu.html
Instagram:@hiroyashimizv

■『スパゲティコード・ラブ』
現代の東京を舞台に、自らの存在意義や居場所、愛情を求めてさまよう13人の若者の姿をドラマティックに描く群像劇。一見無関係に思える13の物語は、やがて複雑に絡み合い、1つのエンディングに向かって疾走していく。
11月26日から渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開中
出演:倉悠貴、三浦透子、清水尋也、八木莉可子、古畑新之、青木柚、xiangyu、香川沙耶、上大迫祐希、三谷麟太郎、佐藤睦、ゆりやんレトリィバァ、土村芳
監督:丸山健志
脚本:蛭田直美
撮影:神戸千木
配給:ハピネットファントム・スタジオ
https://happinet-phantom.com/spaghetticodelove/

Photography Hironori Sakunaga
Styling Shohei Kashima(W)
Hair & Makeup TAKAI


The post 監督・丸山健志 × 俳優・清水尋也 映画『スパゲティコード・ラブ』で描かれる大都市東京、若者が生きる“今”について想うこと appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>
若手映画監督・宮崎彩が『グッドバイ』で描いた家族の変容と、過去との決別 https://tokion.jp/2021/04/26/aya-miyazaki-good-bye/ Mon, 26 Apr 2021 01:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=30202 大学在学中に制作した初の長編映画『グッドバイ』が4月に公開した。宮崎監督の経歴や本作の制作背景等について話を聞いた。

The post 若手映画監督・宮崎彩が『グッドバイ』で描いた家族の変容と、過去との決別 appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>
1995年生まれの映画監督・宮崎彩が手掛けた初の長編映画『グッドバイ』が全国公開中だ。

本作の主人公は、福田麻由子演じる上埜さくら。仲の良い母親と2人で暮らしていたが(後述の通り、父親の別居理由は詳しく説明されていない)、さくらが職場でとある男性と出会うことをきっかけに家族関係がじょじょに変化し、やがて崩壊していく。“崩壊”と書くとネガティブに聞こえてしまうが、それはある種の“親離れ”であり、成長していく上でのステップとも言える。そしてその一連で描かれているのは、娘としてのさくらの機微と、せつなさと同時に新しい生活をも予感させる決別である。

「もともと自分の中に映画を観る文化はなかった」と語る宮崎の経歴や今作品の制作背景について、話を聞いた。

映画で描きたいのは、ストーリーではなく“モチーフ”

「私の映画制作のスタートは大学3年生の頃。ただ、私が専攻していたのは臨床心理学で、しかもそれまで映画に親しんでいた訳でもなかったので、映画監督になろうということは全く考えたことはなかったんです……。きっかけは、是枝裕和監督が講師を務める全学部共通で受講できる映画・映像コースに参加したこと。映画好きでもないのに、『東京という知らない土地に出てきたわけだし、知らないものに触れるのもいいな』と軽い気持ちで参加し、3年生で『よごと』という作品を監督。また再び映画を撮りたいと4年生の頃にこの『グッドバイ』を撮り今に至ります。

『誰も知らない』(2004年公開)の企画書を是枝監督が見せてくれて、生徒もそれにならって企画書を書き発表するという授業があって。企画書というのは、制作したい映画の企画意図や作品のムード、参考にした映画や簡単なプロットなどを書き起こしたもので、是枝監督のものは大体A4サイズで5枚ぐらいにまとめたものでした。どんな映画作品も企画書を起こすことからスタートするのですが、私は映画をよく知らなかったこともあってか、描きたいものがストーリーではなく、いつも“モチーフ”だったんです。『よごと』では排水溝やそこに絡みついた髪の毛を描きたくて、そこから物語を紡いでいく形で映画を完成させました」。

本作ではたびたび食事風景が映し出される。一般的には登場人物の何気ない会話や生活感を描いていたり、一家のだんらん(もしくは不和)の象徴になったりするシーンだが、ここでも宮崎監督の「モチーフを描きたい」という思いが表れているようだ。

「『グッドバイ』は、朝の食事やある種の性愛がモチーフとなっています。作品を制作するにあたり、性愛をどう描こうかと考えた時に思い浮かんだのが、朝の風景でした。性愛はどうしても夜の時間に結びつきやすいけれど、“夜明けのコーヒー”という言葉があるように、夜をともにした朝のほうがより濃密さが高まるのではないかと考えて、象徴的なシーンを朝に持ってきました。
また、人々の内面を露呈させる最たるものが食事だと考えているので、この作品では食事のシーンを多く描いています。食事って家庭によって全く違うものが出てくることが興味深いし、一緒に食事をするとクセとかそしゃくの仕方だったり箸の使い方だったりで、ものすごく人間性がさらけ出されます。だからこそ人間関係は食事を介するとより生々しくなるなと感じていたので、性愛を描く際には食事のシーンをどうしても絡めたかったんです」。

作中のさまざまな別れにも通ずる『グッドバイ』というタイトルは、どのようにつけられたのだろうか?

「実はもともとのタイトルは朝を描きたかったこともあり、『あさに倣う』だったんです。でももっとキャッチーでハマりのいい言葉がないかいろいろ考えをめぐらせていた時に、大好きなサカナクションと太宰治の作品に『グッドバイ』があるなと思い出して。ありふれた単語だけれど、すごく作品にハマったんですよね。この作品では、ある種の家族の崩壊や決別を描いてはいるけれど、新しく変わっていく家族の姿を見せたかった。グッドバイってさよならを意味する言葉だけれど、“good”っていう単語が入っているからマイナスなイメージがない。だから、家族は崩壊はしてしまうけれど、それがマイナスではなく新しい形、新しい道であり出発なんだよということを、このタイトルに込められたなと思っています。タイトルが決まると、中身もより濃いものになっていきましたね。園児の1人、あいちゃんの印象的なセリフもこのタイトルから考えたものです」。

「よくわからない」という感想でもいい

主演を務めた福田麻由子の出演依頼は宮崎自身が行っている。だが撮影当時、宮崎はまだ学生であり、しかも映画館での公開が確約されていない、自主制作的な映画だっただけに、よほど熱烈なオファーだったのではないだろうか。そして、実際に福田の演技はさくらという人物像をより浮き立たせている。

「『グッドバイ』は、主人公のさくらを演じた福田麻由子さんを当て書きした作品です。子役の頃からの活躍を見てきている中で、彼女に対しては器用で冷静なイメージを持っていて。なんでもひと通りこなせる器用さがありながらも熱がない主人公の姿や、謎の多い父親を求めてどんどん熱を帯びていく主人公像には、彼女が適役だなと感じていました。少女から女性へと変わっていく福田さんの新しい姿を見たかったから、もう彼女以外がさくらを演じることが想像できませんでしたね……。撮影時には福田さんが持つ独特のイメージとさくらのどこか冷めているような、何を考えているかわからない温度感をしっかり保つために、彼女との距離感をものすごく意識しました。そもそもモチーフを描きたいということもあって、あえて人物にフォーカスした描写をしなかったことがよりさくらのパーソナリティを際立たせる良い結果を生んだと思っています」。

「観た人からこの作品が『よくわからない』と言われることもありますが、実はそれが狙いでもあって、さくらやこの物語に共感してほしいという気持ちは全くありません。共感を得ることが作り手側が考える映画の1つの指標になっているかもしれないけれど、観客が映画を理解してしまったらそこが作品のゴールになってしまう。私の作品は、『あー楽しかった』で終わるよりもどこか心にモヤっと残ってもらうものであってほしいんです。

だから、すべてを語らないことで語る、ということをすごく大切にしています。さくらと母親との会話も微妙にかみ合わない気持ちが悪いものなんですけれど(笑)、母親と娘という関係から女性同士での対峙になる大きな変化がありながらも、全く劇中では語られない。お父さんがなんで家にいないのかを本当は語ってもよかったけれど、あえて省いたり。物語が進むに連れて冬から春になる季節のひととき、その背景にすべてを説明しないことで、より“モヤモヤ”が残る作品になったんじゃないかなと」。

映画作りはつらいけれど、ずっと続けていきたい

現在、宮崎は映画会社に勤務している。最後に、実際に別の撮影現場で働いている感想や、今後の展望を聞いた。

「私はとても内向的な性格なこともあり、ずっと1人の世界で生きてきて何かを成し遂げたこともなかったから、多くの人と関わることで今まで知らなかった刺激や未知の世界を知ることができるんじゃないかと思って、映画制作をスタートさせました。初めにお話したように、映画に全く親しみがなく、映画理論もわからなかったので、自分の思うことを自由にできましたし、ラフに映画制作に向き合えたのも強みかもしれません。

今は映画会社の制作部に勤めていますが、やっぱり映画を作るって大変だなと改めて感じています。とても身を削る作業だし、作品が大きいほど目の前のことに必死になって、映画自体を楽しめなくなったりもして。それでも制作現場が好きだから、映画を仕事にしていきたい気持ちは大きいです。『グッドバイ』も制作記録を見返してみると『この作品に愛しかない!』という日と『こんなに苦を背負って何がしたいんだろう……』という日が交互にあって。1人で映画を撮りたいと思ったところからスタートして、スタッフを集めて動かしていると、ものすごく重圧を感じるし、多くの人と対峙することがすごくつらくはあるんですが、実はそんな状況が嫌いなわけじゃないんです。だから『グッドバイ』が皆さんの元に届いてどういう形で残るかはわかりませんが、この先もずっと映画制作は続けていけたらと思っています」。

宮崎彩
1995年生まれ。大学在学時に監督した短編映画『よごと』(2017)が「第30回早稲田映画まつり」で役者賞を受賞、「第7回カ・フォスカリ国際短編映画祭」に正式出品される。卒業時に撮影した『グッドバイ』は、自身にとっての初長編監督作となる。「第15回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門」「第21回TAMA NEW WAVE ある視点部門」にノミネートされた。

Photography Yuji Sato

TOKION MOVIEの最新記事

The post 若手映画監督・宮崎彩が『グッドバイ』で描いた家族の変容と、過去との決別 appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>