利川 果奈子, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kanako-toshikawa/ Thu, 21 Dec 2023 05:44:04 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 利川 果奈子, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kanako-toshikawa/ 32 32 元「デザート」編集長の鈴木重毅に聞く少女マンガの引力 恋愛作品や感情表現の豊かさが教えてくれること https://tokion.jp/2023/12/25/girls-comic-editor/ Mon, 25 Dec 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=218221 マンガ編集歴約30年の鈴木重毅に「少女マンガとは?」をインタビュー。

The post 元「デザート」編集長の鈴木重毅に聞く少女マンガの引力 恋愛作品や感情表現の豊かさが教えてくれること appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>
鈴木重毅

鈴木重毅
マンガ編集者。1996年、講談社に入社し「週刊少年マガジン」編集部に配属される。1998年「デザート」編集部に異動。2013年より同誌編集長に。2019年、講談社を退社し、マンガ家のマネジメント会社スピカワークスを設立。主な担当作に『好きっていいなよ。』(作・葉月かなえ)、『となりの怪物くん』(作・ろびこ)、『ライアー×ライアー』(作・金田一蓮十郎)、『たいようのいえ』(作・タアモ)、『春待つ僕ら』(作・あなしん)、『ゆびさきと恋々』(作・森下suu)、『うるわしの宵の月』(作・やまもり三香)、『恋せよまやかし天使ども』(作・卯月ココ)などがある。マンガ家や志望者向けのオンラインイベント「少女まんが勉強会」や、マンガ編集者のためのサークル活動「まんが編集の会」などを実施している。
X(旧Twitter):@henshu_shigel

「少女マンガ」と聞いてあなたが思い浮かべるイメージはなんだろう。キラキラした絵柄や恋愛模様、あるいは学校が舞台のドタバタコメディだろうか。「同じように捉えられがちなジャンルだけど、どの物語にも違いがあるんですよ」。そう話すのは2013年から2019年まで少女マンガ誌「デザート」の編集長を務めた鈴木重毅だ。鈴木は1996年に講談社に入社後、「週刊少年マガジン」編集部で2年間、「デザート」編集部で21年間勤務した経歴を持つ。これまでに担当した少女マンガの累計発行部数は4000万部を超え、その中には『ゆびさきと恋々』(作・森下suu)、『うるわしの宵の月』(作・やまもり三香)、『好きっていいなよ。』(作・葉月かなえ)、『となりの怪物くん』(作・ろびこ)、『春待つ僕ら』(作・あなしん)、などのヒット作が並ぶ。

少女マンガは現在に至るまで大勢の読者を獲得し、映画化やドラマ化、アニメ化といったメディアミックスの波を生み出してきたが、その一方で「恋愛モノが多い」「女性向け」のイメージから、未だ手を伸ばしたことのない人もいるだろう。今年9月にマンガの描き方を指南した書籍『「好き」を育てるマンガ術』(フィルムアート社)を上梓し、少女マンガ家をサポートし続ける鈴木に少女マンガの魅力を聞いた。

少女マンガと少年マンガの違い

—— 鈴木さんはもともとマンガ編集者を目指されていたのですか?

鈴木:いえ、はじめはマンガ家になりたかったんです。僕が小学生だった時は、ちょうど「週刊少年ジャンプ」(集英社)の人気が急上昇している頃でした。『キャプテン翼』(作・高橋陽一)に影響を受けた子ども達が、サッカーボールを蹴りながら登下校したり、キン肉マン消しゴム(通称「キン消し」)が大ブームになったりした時代で。夕方の時間帯にマンガを原作にしたテレビアニメがたくさん放送されていたこともあって、マンガが一気に子ども文化のメインストリームに躍り出てきました。そういうわけで僕も「マンガ家ってかっこいい!」と思い、マンガを描くことにしたのですが、僕よりもめちゃくちゃ上手い同級生が周りにいて……。「こういう人がマンガ家になるんだな」とすぐ心が折れてしまったんです。そんな時に藤子不二雄先生の『まんが道』を読み、マンガ編集者なるものがこの世に存在すると知りました。その体験が大人になるまで頭の片隅にずっと残っていたので、就職活動の時には編集者を目指すようになりました。

——2年間の「週刊少年マガジン」編集部を経て、少女向けマンガ誌の「デザート」編集部へ異動したんですよね。

鈴木:異動辞令が出た時は青天の霹靂のように感じました。「デザート」が創刊してからまだ1年もたっていない頃だったので、そもそも媒体の存在も知らなかったんです。「そんなお菓子の専門誌があったっけ?」と思ったほど(笑)。それまで少女マンガは自分にあまりなじみのないジャンルだったこともあり、戸惑いながらも最初に『花より男子』(作・神尾葉子)を少女マンガのお手本として読み込みんだのを覚えています。そうして少女マンガを読んでいくと、おもしろい作品がたくさんあることに気付かされ、いつの間にか自分も「すごい少女マンガ作品を生み出すことに関わりたい」と考えるようになっていました。その後徐々に経験を積んで「この編集部で自分はやっていけるかも」と思えるようになってからは、2019年に講談社を退社するまで、結果的に少女マンガ畑にい続けることになりました。先輩いわく、そのおもしろさに気付いて僕のように少女マンガ編集部に異動したきりになった人も実は多かったそうです。

——少女マンガのどのような点に魅力を感じていますか?

鈴木:日頃、僕達が忘れがちになっている物事を丁寧にすくい上げ、その価値を再発見させてくれる点が魅力的です。また、絵をはじめとした表現の方法もそうですが、世界や人間の見方、捉え方が繊細ですてきだなと思います。少女マンガをあまり読まない人から見ると、少女マンガというのはすべて同じように捉えられる傾向にあるジャンルだとは思うのですが……。少年マンガと一番異なるのは、登場人物の感情に大きく焦点を当てていることです。

少女マンガは人間関係を中心に物語を進行することが多く、人と人の絆から生まれる恋心などの感情を取り上げようとするものが多いのですが、個人的な実感としては、社会でどう生きていくかを考えた時に、若い女性のほうが若い男性よりも身近な物事に問題意識が向きやすいからかなと思っています。卑近な例が僕の高校生の娘。彼女の話を聞いていると、友達との付き合いに心を砕いている印象を受けます。家族旅行をした時も、友達に渡すお土産を選ぶために驚くほど長い時間をかけたりしていました。彼女に限らず、女性は周りの人の感情というものに対してとても敏感で繊細だなと感じます。また、生きていく時のさまざまな場面でその都度他人とどう向き合っていくのかというのは、誰にとっても大事な問題ではないでしょうか。

——感情に焦点を当てる。確かに、少女マンガにはモノローグが多い印象があります。

鈴木:登場人物たちの気持ちを共有してもらい、他の人がどんなことを思い考えているのか知ってもらうことで、読者に生きていくための支えや勇気を感じてもらうことができるかもしれないし、自分と同じ悩みを抱えている人がいたと知って、力にしてもらうことができる時もあると思うんです。難しい決断を迫られる場面や感情が大きく揺さぶられる場面で、他の人が感じていることや考えをのぞき見るなんて、現実社会ではできないですよね。でもマンガではモノローグがあればそれが可能になるし、それこそがモノローグの醍醐味だと思います。登場人物の口に出していることと思っていることが違う裏腹な状況も読者に見せられますし、より読者がキャラクターに感情移入できるきっかけにもなりますよね。

また、モノローグと一くくりに言えど、その中にはさまざまな表現の仕方があります。例えば森下suu先生の『ゆびさきと恋々』は、聴覚障がいを抱える主人公の雪が大学の先輩である逸臣と恋をする物語です。雪は言葉を声に出すことはないのですが、その分モノローグや表情、手話で感情を表現しています。モノローグと言っても、さまざまな表現の仕方、違いがあるのでそれを知って楽しんでほしいです。

少女マンガ読者が求めるもの

——少女マンガはどのような読者を想定して描かれるのでしょうか?

鈴木:マンガ家さんや編集者によって違うと思いますが、僕は「デザート」に所属してしばらくたってからは、マクドナルドやスターバックスで「全然いいことなんてないよね〜」とぼやいている10代後半から20代前半の女性をペルソナに考えていました。彼女達が「明日も頑張ろう」と思えるようなマンガを作っていこうと。個人的な感覚の話になりますけれど、女性はマンガを読んで気持ちを浄化したいという欲求を持っていることが少なくないと感じます。ファンからは「キュンとする」と言われることがとても多いので、学校や仕事で疲れたり、嫌なことがあったりした時に、少女マンガで心をときめかせて気分を上向きにリセットしたいのかなと。1日の終わりに、夜に半身浴をしながらマンガを読むという声も聞くので、そういう「リセット欲」が根底にあるんだと思います。だからこそ少女マンガ読者からのお便りは、感謝の気持ちをたっぷりとつづったものが多いですね。実は、少年マンガ誌から異動した時に一番驚いたことは、読者の方からマンガ家さん宛に届くお便りの丁寧さでした。「人はこんなに感想を伝えてくれるものなのか!?」と感動しました。

——読者の気持ちを前向きにリセットさせる……。基本的に少女マンガ読者が重視していると鈴木さんが感じる要素は他にもあるのでしょうか。

鈴木:やはり人間と人間の関係性は重視して読まれている気がします。ですから長い連載作品になってくると、恋愛だけではなく、友達や先輩、後輩、家族などとの関係性を描いたエピソードもとても丁寧に読みこんでくれているなと感じます。また、それぞれの登場人物を個別に追うだけでなく、登場人物同士が関わって起きる化学変化のようなドラマにも興味を持ち、登場人物たちの行く末にも思いを重ねてくれていると思います。少女マンガに限りませんが、誰にどんなドラマがあり、誰と関わってどんな新しいドラマが生まれるかというのは、自分の人生と重ね合わせて思い入れを感じながら読む方が多いのではないでしょうか。それと、最近「尊い」という感想もよくもらいます。以前は、ヒロインやヒーロー個人への憧れが強かったのが、最近は誰かと誰かの関係性に憧れる人が多くなっている気がしますね。

——長年少女マンガ編集に携わってきた中で見えてきた、読者に好まれる少女マンガとは?

鈴木:答えるのが難しい質問ですが、王道はすてきな男の子とのすてきなラブストーリーだと思います。でもそれは、単にラブストーリーというのではなく、少しでも理想の自分に近づきたいという葛藤と成長の物語であり、誰もが人生の中で一度は通り得る物語ではないでしょうか。

もう一つが登場人物や世界観に魅力が感じられるもの。そのためには、著書の中でも繰り返し書いていますが、マンガ家さんそれぞれが「好き」で選んで描いているものが詰まっているということが重要だと思います。

ただ、あえて言えば最近ニーズが高いのは、主人公が最初から恋愛相手に溺愛されている作品かなと感じます。以前は、主人公が恋心を実らせるためにいくつもの試練を乗り越えるような、少しずつ展開する物語が多かったんです。でも今は、好きな人に思いを伝えるまでに長い時間を要すると、読者が痺れをきらしてしまう。

その背景には、景気が悪く暗いムードが漂う社会状況もあると思います。マンガは社会の様相を映し出すものでもあります。現実が苦しいのに、フィクションでまでつらい内容を読みたくないという意識が反映されているのではないかと。個人的な感覚ですが、恋愛をネガティブに捉え、「傷つくことをしたくない」「一足飛びに結婚したい」「いやそもそも結婚したくない」という考えの人が増えている印象もあります。少年マンガにも同じことが言えるかもしれません。たとえば以前は修行を繰り返すことで主人公が少しずつ強くなる話が多かった印象なのに、最近では何者でもなかった主人公が、異世界に行った途端チート能力で無双する「異世界転生モノ」がはやっていたりもします。もちろん少しずつ展開する少女マンガも、無双しない異世界転生モノもあるので、あくまでも近年の傾向の話として受け取ってください。

——改めて、それでも少女マンガはかなりの割合で恋愛をメインテーマに置いているように感じます。それほどまでに恋愛が重要な要素である理由をお聞きしたいです。

鈴木:少女マンガに限ったことではないと思います。世の中には常に新しいラブソングが生まれていますし、古今東西のエンタメにおいてラブロマンスは人気のテーマではないでしょうか。繰り返しますが、少女マンガは人と人との関わりに焦点を当て、絆の結び方や感情の共有の仕方を描く傾向が強いジャンルです。僕は恋愛のことを、他人と他人が結ぶ関係性の中で最も強くて難しいものだと思っています。ゆえに恋愛についての人の悩みは尽きないのでしょうし、題材として取り上げる頻度が多いのだと思います。でも、題材は恋愛だったとしても、マンガ家が核として描いているのは人間の葛藤と成長であることが多いです。ですから、自分の悩みに寄り添ってくれる物語や、人生を生きやすくする価値観を教えてくれる物語、勇気を与えてくれるキャラクターが必ず見つかるはずです。「恋愛ものばかりだから……」とあまり少女マンガを読んだことがない人にも、気軽に作品を手に取ってほしいですね。

より多くの読者へ作品を届けるには

——鈴木さんは2019年に講談社を退職してから、マンガ家のマネジメント会社である株式会社スピカワークスを設立していますよね。

鈴木:僕は現役の編集者として一生をかけて作品に関わり続けたかったんです。スピカワークスは、契約マンガ家さんのマネジメントやプロデュース、新人マンガ家さんの育成などを行う会社です。媒体に所属して編集者をしていると、どうしてもその媒体のために働くことが主軸になる。でも僕はマンガ家さん達の魅力を引き出していくことにもっと挑戦していきたかった。編集者によっていろいろな考え方があるのですが、魅力ある作品が生まれるのは、マンガ家さんが「この作品を本気で描きたい!」と思ってくれた時だと考えています。企画や原作が先行する作品もありますが、マンガ家さん達の熱意が一番大切。あとは、たとえマンガ家さん達が媒体の連載以外にも興味を持った場合でも、そこに伴走したい思いがあったんです。僕は、自分が担当したマンガ家さんには必ず大きく化けてほしいし、何がなんでも大成させたい。まだまだ道半ばですが、そんなことを思いながら仕事しています。

——今年9月に発売した著書『「好き」を育てるマンガ術』には、「少女マンガ編集者が答える『伝わる』作品の描き方」というサブタイトルがついています。魅力的でおもしろい作品の描き方ではなく、「伝わる作品」としたのはなぜでしょうか?

鈴木:僕自身が、マンガを世に送り出すのであれば「たくさんの人に読んでもらいたい」と考えてきたからですね。マンガ家さんが一生懸命描いた作品が「わからないから読めない」と思われてしまうのは嫌なんです。魅力的なマンガを成立させる要素のピラミッドが存在するとして、その基礎となる一番土台の層には「伝えたいことが伝わる」があるべきだと思っています。魅力やおもしろさはその上に積み上げられるものなので、まずは作者の伝えたいことが読者に理解される必要がある。

あとは、伝わりやすさ自体はある程度技術で実現できるからですね。魅力やおもしろさには人の価値観が入りやすい。僕にももちろん「何がおもしろいか」という個人的な考えはありますけど、どこまで行っても僕の個人的感覚なので。そういうことは今回出版した本に書きたくなかったんです。創作で悩みを抱えている作家さん達に、僕が考えるおもしろさへ寄せたものの考え方をしてほしくなかった。それよりも、伝えるという技術をもっと楽に捉えてもらうことで、皆さんに少しでも楽しんで作品を描いてもらうことのほうが大切だと思うんです。

『「好き」を育てるマンガ術』
元「デザート」編集長かつ株式会社スピカワークス代表の鈴木重毅が、マンガ家やマンガ家志望者から寄せられた創作の悩みに答えるクリエイター必携の指南書。「どうしたらキャラが立つ?」「物語の膨らませ方は?」「読者をキュンとさせるにはどうするべき?」「スランプの解消法は?」など、鈴木が約30年の編集者歴で受けた相談の数々を、55のトピックに分けて収録した。マンガ家のマネジメント会社であるスピカワークスに所属する森下suuのインタビューや、マンガ編集者達による座談会も掲載。マンガ家が好きなものに対する熱意をいかに育て、それを読者にどう伝えていくべきか。現役のマンガ編集者ならではの実践的アドバイスが詰まった1冊となっている。

著者:鈴木重毅
装画:森下suu
発売日:2023年9月26日
仕様:四六判・並製
ページ数:360ページ
価格:¥2,200
発行:フィルムアート社
filmart.co.jp/books/manga_anime/shigel_manga/

The post 元「デザート」編集長の鈴木重毅に聞く少女マンガの引力 恋愛作品や感情表現の豊かさが教えてくれること appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>
大量の漢字で自然物を描くアーティスト アート業界が熱視線を送る大谷陽一郎の創作哲学 https://tokion.jp/2023/10/31/kanji-otani-yoichiro/ Tue, 31 Oct 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=214547 西麻布の「Miaki Gallery」で二人展を開催中の大谷陽一郎。プログラミングを用いて漢字フォントをランダムに配置し、自然物を描く独自の技法について真意を聞いた。

The post 大量の漢字で自然物を描くアーティスト アート業界が熱視線を送る大谷陽一郎の創作哲学 appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>
大谷陽一郎

大谷陽一郎
1990年生まれ。大阪府出身。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。桑沢デザイン研究所在学中に視覚詩やタイポグラフィへの関心を高めたことから、東京藝術大学大学院への入学を決める。2018年から2019年まで、北京の清華大学に交換留学。主な受賞歴に、野村美術賞(2022年)、サロン・ド・プランタン賞(2018年)など。著書に『かんじるえ』(2021年/福音館書店)、『雨  大谷陽一郎作品集』(2017年/リトルモア)。
https://www.instagram.com/yoichiro_otani/?hl=ja

遠くから見ると降り注ぐ雨や大きな山、近くから見ると大小さまざまな漢字の集合体——。コンピューターで大量の漢字をランダムに配置して自然物を描くアーティスト・大谷陽一郎。3月に東京藝術大学博士後期課程を修了したばかりの大谷は、在学中からアート業界でじわじわと注目度を高めてきた。もともとはグラフィックデザイナーを目指していたという大谷。なぜとりわけ漢字に着目するようになり、アーティスト活動を始めようと考えたのか。二人展「Echoes」を開催中の「Miaki Gallery」で、その創作哲学を聞いた。

漢字のおもしろさに気付くまで

——昔からアートやもの作りに興味があったのでしょうか?

大谷:必ずしも強く興味を持っていたわけではありません。幼い頃から絵を描くことは好きだったんですが、中学・高校生時代にはバスケ部の活動に取り組んでいたこともあり、ほとんど描かなくなってしまい……。ただ、一般大学の3年生になったときに「ものを作れる人になりたいな」と考え始めたんです。当時はデザイナーの自伝を読んだり、グラフィックデザイナーのポスターを好んで見たりしていたので、グラフィックデザインがおもしろそうだなと。デザインを介して音楽やファッション、食などさまざまな業界と関わり合いながらアウトプットができることも魅力でした。

最初は独学でデザインツールを勉強しながら、当時住んでいた大阪にあるデザイン事務所に履歴書を送っていたんですが、すべて落ちてしまって。唯一受かったのがスーパーマーケットのチラシを作る印刷会社でした。そこで1年ほど働くうちに、「ちゃんと勉強しないといけないな」と思い始めて上京することにしたんです。東京では、日中は運良く拾ってもらえたデザイン事務所に出入りしつつ、夜間は桑沢デザイン研究所に通うという日々を送っていましたね。

——はじめの頃はグラフィックデザイナーを志していたと。現在のようにアーティスト活動を行うようになったのはなぜでしょうか?

大谷:グラフィックデザインを勉強する中で、タイポグラフィに興味を持ち始めたんです。文字って一見とても地味なんですが、操作次第で伝えられる情報の質が変わってしまうほどに情報の要だなと。桑沢デザイン研究所の課題とは別に、文字を題材にした実験的なグラフィック作品を自主制作するようになりました。「もう少しこういう活動を発展させたい」と考えた結果、東京藝大に進むことを決めました。

とはいえ、アーティストを名乗るようになったのは藝大に入学して2年ほど経ったころなんですよ。「東京タイプディレクターズクラブ(TOKYO TDC)」が開催するコンペに応募した際、審査員の1人である井上嗣也さんが僕の作品に興味をもってくださったことが始まりです。そこから出版社のリトルモアにつなげていただき、『雨』という作品集を2017年に出版することになりました。漢字の「雨」の象形に着目し、さまざまな表現で「雨」の文字を描いた本です。掲載する作品のクオリティを上げるために、井上さんと編集の方にアドバイスをもらいながら1年間ほど作品のブラッシュアップを行い、800枚ほど書いたうちの70枚を厳選しましたね。

以来、デザイナーを名乗るよりもアーティストを名乗るほうが自分の表現活動を行いやすいことに気付き、肩書きをアーティストにしたんです。自分でそう名乗るのはちょっと恥ずかしいんですけどね(笑)。

——大谷さんの作品は漢字を用いた表現が特徴です。世界中に文字は数多く存在しますが、中でも漢字を選んだ理由は?

大谷:漢字の持つ図像性と意味性、増殖性に引かれたからというのが大きいです。漢字文化圏で生きている人達にとって、音声上のコミュニケーションは言語を学び合っていない限り難しいけれども、読むという点ではなんとなく通じ合える部分がある。僕は、将来的に国外の人にも自分の作品を知ってほしいと考えているので、過去に中国語を学ぶ目的で北京の清華大学に留学していたことがあるのですが、その時にそう感じましたね。日本人の自分でも街の漢字看板を見て、ここがどういった店なのかなんとなく理解できましたし。漢字文化圏には意味のプラットフォームが通底しているように思いました。そういった図像性と意味性に漢字の可能性を感じています。

また、漢字は他の言語と比べてシンプルになりきっていないという特性をもっています。言語は一般的に、合理化して発展していく傾向にあります。それがいいとか悪いとかの話ではありませんが、例えばアルファベットは形が単純化されている上、26種類しか存在しないですよね。一方で漢字は、いまだに「数万種類ある」とも「数えきれないほどある」ともいわれる。人は歴史の中で、自然の風景や人のたたずまいを“かたどった”のちに、偏(へん)と旁(つくり)という仕組みを作り上げ、各要素を組み合わせて言葉や意味を増やしていったんですよ。その増殖性が興味深いと思っています。

漢字は発音もおもしろいです。今回の二人展「Echoes」で展示している《ki/u》シリーズは、雨をテーマにしています。「祈る雨」で「kiu」という音がもとになっていますが、そこから「鬼雨」(おどろおどろしい雨)や「樹雨」(樹木の葉にたまった水が水滴として落下したもの)、「気宇」「喜雨」「雨期」「雨季」などの既存の言葉に接続させながら、さらなる派生によって最終的に50種の漢字を選んで使いました。ローマ字で「kiu」や、カタカナで「キウ」と書いてもそこに意味は生まれませんが、漢字に変換した途端、多様な意味が溢れ出してくる。音が持つ意味の広がりがおもしろいと思っています。

文字を線と行から解放し、自分の意図を超える

——作品の制作技法について教えてください。

大谷:前提として僕は、漢字を用いた“視覚詩”を作っています。とはいえ、漢字を用いてはいるものの、身体性を重視する書道のように、身体を通して漢字の形を作り上げることはしません。複数の漢字フォントを点描画のようにキャンバスに置き、山や雨などの自然物を描いています。この時、漢字の配置箇所はプログラミングによって決定します。自分がデザインしたイメージをもとにして、乱数によってどの漢字をどの位置に割り振るかをランダムに決めていくんです。

——プログラミングを使う意図は?

大谷:まず、効率よく繊細な絵を仕上げることができるからというのが理由です。以前はマウスとキーボードを使った手作業で文字を配置していたんですよ。例えば、修士の修了制作で発表した山がモチーフの作品では、「ki」と音読みする「木」「樹」「気」などの漢字を、手作業で密集させるように配置して大きな山々を描きました。この手法だと、完成までに果てしない時間がかかっていた上に、雨などの細かな描き込みが必要な自然物をきれいに描けないんです。プログラミングを使って基本的な文字配置をコンピューターに任せるようになってからは、手作業で行う以上に繊細な文字配置をできるようになりましたし、1作品にかける時間が短縮しましたね。

また、乱数を用いることで偶然性を取り入れられるんです。自分の意図を超えたところで、ランダムに文字同士を隣り合わせることになりますし、絵全体で見ればその“偶然の隣り合わせ”が無限に作り出されることになる。偶然性は自分で再現できないものなんですよ。自分で偶然性を意識して無理やり文字を配置したとしても、それは完璧なランダム状態ではないので。

——なぜ偶然性が重要なんでしょうか?

大谷:文字を意味や構造から解放したいんですよね。自分の意図を超えたところに文字を置くことで、線や行という概念が弱まり、一直線上に文章を読もうとする深層心理から鑑賞者を脱出させることになる。一般的な文章は始まりと終わりが決まっていますから。僕の作品ではXY軸のある二次元的な書式を目指したい。そこに順序はなくて、すべての文字が同時的に存在している状態です。線や行から文字を解放することで、意味や構造からもいったん解放する。そして再び文字同士が新たに出合う。その現象を鑑賞者の中に起こすことに関心があります。

——作品を近くで見ると、明朝体やゴシック体といったフォントの種類もランダムに配置されていることがわかります。

大谷:普段、私達は文字の形を意識して文章を読みません。文字は、情報を伝えることに特化した役割の中で、その形が透明化されています。フォントは工業製品なので、形が均一に整えられていて視認性が高く設計されています。だからこそ、1種類のフォントを使用するだけでは、ストレスなく文字を読み進めることになってしまうので、あえてさまざまな種類のフォントを使うようにしているんです。文字を「読む」から「見る」へ仕向けるための揺らぎを作りたいと考えているからです。《ki/u》シリーズには、ところどころにキラキラした素材や青色を塗っているんですが、それも鑑賞者に“揺らぎ”を与えることを目的としています。

——雨や山を描いてきたということですが、自然物をモチーフとすることにこだわっていらっしゃるんですね。

大谷:漢字自体が自然をかたどった文字でもあるので、現代の工業製品であるフォントを使って、自然物にアプローチする試みがおもしろいなと。ただ、自分でもなぜなのかわからないというのも正直なところです。昔からアウトドアが好きだったからというわけでもないのに、人を描くよりも自然を描くほうがしっくりくる。振り返ると、高校生の時に見た夏の光景が頭に焼き付いている気がします。原付に乗って1人で高野山に行ってみようと思い立ったことがありまして。山中を走っていたら、急に空が暗くなって土砂降りの雨が降り出しました。人も家も車も何もない場所で、ただ木と川があるだけだったんですが、それがすごく怖かった。でも、黒い雲はすぐに流れて清々しい青空が広がっていったんですよね。心の中まで洗い流されていくような感覚がありました。その体験が影響しているのかもしれません。

——今後、アーティストとして目指すことはありますか?

大谷:現時点で自分の作品規模はまだ小さいので、これからは5〜6mくらいあるダイナミックなものを作っていきたいです。僕がモチーフにする文字や自然物には普遍性がある。だから、時代を越えて世界で通用する作品を作り続けたいと思っています。

AIに興味があるので、AIを積極的に使った創作活動もしたいですね。AIを制作過程に取り入れることでランダムに新たな文字の組み合わせを作ることができる。先ほど話した「意図を超える」にもつながってきます。AIが提案するテキストを再編集することで、新しい詩のような作品を作ってみたいです。

Photography Yohei Kichiraku

◾二人展「Echoes」大谷陽一郎×ヒョーゴコーイチ
会期: 10月7日〜11月4日
会場:Miaki Gallery
住所:東京都港区西麻布1丁目14−16 ベルジュール麻布 2階
休日:日曜、月曜、火曜

The post 大量の漢字で自然物を描くアーティスト アート業界が熱視線を送る大谷陽一郎の創作哲学 appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>